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ロジンスキー(Artur Rodzinski)|チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」
ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1954年10月3&4日録音
Tchaikovsky:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 「第1楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 「第2楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 「第3楽章」
Tchaikovsky:交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 「第4楽章」
私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。
チャイコフスキーの後期の交響曲は全て「標題音楽」であって「絶対音楽」ではないとよく言われます。それは、根底に何らかの文学的なプログラムがあって、それに従って作曲されたというわけです。
もちろん、このプログラムに関してはチャイコフスキー自身もいろいろなところでふれていますし、4番のようにパトロンであるメック夫人に対して懇切丁寧にそれを解説しているものもあります。
しかし6番に関しては「プログラムはあることはあるが、公表することは希望しない」と語っています。弟のモデストも、この6番のプログラムに関する問い合わせに「彼はその秘密を墓場に持っていってしまった。」と語っていますから、あれこれの詮索は無意味なように思うのですが、いろんな人が想像をたくましくしてあれこれと語っています。
ただ、いつも思うのですが、何のプログラムも存在しない、純粋な音響の運動体でしかないような音楽などと言うのは存在するのでしょうか。いわゆる「前衛」という愚かな試みの中には存在するのでしょうが、私はああいう存在は「音楽」の名に値しないものだと信じています。人の心の琴線にふれてくるような、音楽としての最低限の資質を維持しているもののなかで、何のプログラムも存在しないと言うような作品は存在するのでしょうか。
例えば、ブラームスの交響曲をとりあげて、あれを「標題音楽」だと言う人はいないでしょう。では、あの作品は何のプログラムも存在しない純粋で絶対的な音響の運動体なのでしょうか?私は音楽を聞くことによって何らかのイメージや感情が呼び覚まされるのは、それらの作品の根底に潜むプログラムに触発されるからだと思うのですがいかがなものでしょうか。
もちろんここで言っているプログラムというのは「何らかの物語」があって、それを音でなぞっているというようなレベルの話ではありません。時々いますね。「ここは小川のせせらぎをあらわしているんですよ。次のところは田舎に着いたうれしい感情の表現ですね。」というお気楽モードの解説が・・・(^^;(R.シュトラウスの一連の交響詩みたいな、そういうレベルでの優れものはあることにはありますが。あれはあれで凄いです!!!)
私は、チャイコフスキーは創作にかかわって他の人よりは「正直」だっただけではないのかと思います。ただ、この6番のプログラムは極めて私小説的なものでした。それ故に彼は公表することを望まなかったのだと思います。
「今度の交響曲にはプログラムはあるが、それは謎であるべきもので、想像する人に任せよう。このプログラムは全く主観的なものだ。私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。」
チャイコフスキーのこの言葉に、「悲愴」のすべてが語られていると思います。
ロジンスキー、ただ者ではありません!!
聞けば聞くほどに、ロジンスキーというのはただ者ではないと思わされます。特に、ロシア・東欧系の音楽に関しては独特な感性があるようで、他ではちょっと聞けないような音楽を聴かせてくれます。
それは、ヨーロッパから比べれば随分と音楽風土の異なったアメリカという場所でキャリアを積み上げたこと、さらにはトスカニーニの影響を強く受けたこと、そしてその根っこにポーランド出身というルーツがあること等が絡まり合って生み出されたもののように思います。
まず、聞いて驚くのは、その鮮烈なまでの直線性と一つ一つの楽器を決して疎かにしない精緻なアンサンブルへの執念です。
どこかドライな感じはアメリカンテイスト、そして精緻さへの執念はトスカニーニ譲りでしょうか。
ところが、全体として非常な推進力にあふれながら横への旋律ラインが意外なほどによく歌うのが実に面白いのです。
この不思議な歌心がポーランドの魂なのでしょうか?
そして、もう一つ面白いのは低声部を非常に分厚く響かせることです。それは、このチャイコフスキーの録音だけでなく、彼の録音全般に共通しますから「本能」みたいなものかもしれません。
そう言えば、ワルターもこんな感じで低声部を非常に分厚く響かせていましたから、このあたりは伝統的なヨーロピアンテイストと言うことなのでしょうか。
考えればすぐに分かることですが、こういう低声部を受け持つ楽器というのは小回りはききません。ですから、こういう小回りのきかない楽器を分厚く響かせるというのはアンサンブル的には不利です。それでも、ロジンスキーは小手先の精緻さではなくて、しっかりと中身のつまった響きでもって本当の精緻さを求めています。
あまりにも図式的すぎる割り切り方ですが、結果として他ではちょっと聞けないようなチャイコフスキーになっているのです。
ただし、彼がウェストミンスターに残した3つの交響曲を聞いてみると、54年に録音された5番・6番と56年に録音した4番とでは雰囲気が全く異なります。私が上で述べた讃辞があてはまるのは54年録音の方であって、56年に録音した4番シンフォニーには全くあてはまりません。
ただし、録音だけで演奏を云々するのは色々な不確定要素が存在しますので断言は控えますが、少なくとも私が所有している音源を私の再生システムで聞く限りは全く別人かと思うほどにつまらない演奏になっています。低声部を分厚く響かせた魅力的な響きは影も形もなく、各楽器のバランスに関しても全くコントロールがきいていません。(よって、4番はアップする気はしません。ただし、データベースにはあげておきますので興味ある方は確認してください)
それと比べると54年録音の方は実に素晴らしいです。この悲愴においても、とりわけ狂乱の3楽章と最終楽章のパセティックな感情の爆発はもしかしたら私の中ではベストかもしれません。
やはり、ロジンスキー、ただ者ではありません!!
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