Home|
ボールト(Adrian Boult)|シューマン:交響曲第4番 ニ短調 作品120
シューマン:交響曲第4番 ニ短調 作品120
ボールト指揮 ロンドンフィル 1956年8月21日~24日&28,29日録音
Schumann:交響曲第4番 ニ短調 作品120 「第1楽章」
Schumann:交響曲第4番 ニ短調 作品120 「第2楽章」
Schumann:交響曲第4番 ニ短調 作品120 「第3楽章」
Schumann:交響曲第4番 ニ短調 作品120 「第4楽章」
マーラーへとつながっていく作品なのでしょうか?
シューマンのシンフォニーというのは年代的に見ればベートーベンとブラームスの中間に位置します。ですから、交響曲の系譜がベートーベン-シューマン-ブラームスと引き継がれてきたのかと言えば、それはちょっと違うようです。
ロマン派の時代にあってはメロディとそれをより豊かに彩る和声に重点が置かれていて、そのことは交響曲のような形式とはあまり相性がよいとは言い難いものでした。そのことは、リストによる交響詩の創作にも見られるように、構築物として音楽を仕上げるよりは物語として仕上げることに向いた仕様だったといえます。
こういう書き方をすると誤解を招くかもしれませんが、シューマンの交響曲を聴いていると、それはベートーベンから受け継いだものをブラームスへと受け継いでいくような存在ではなくて、ベートーベンで行き着いた袋小路から枝分かれしていった一つの枝のような存在であり、それがリストに代表される交響詩へと成長していったと把握した方が実態に近いのではないかと思います。
とりわけこの第4番の交響曲を聴くと、それはベートーベン的な構築物よりは、交響詩の世界の方により近いことを実感させられます。
事実、シューマン自身もこの作品を当初は「交響的幻想曲」とよんでいました。
この作品は番号は4番となっていますが、作曲されたのは第1番と同じ1841年です。当初はその作曲順の通りに第2番とされていて、同じ年に初演もされています。
しかし、第1番と違って初演の評判は芳しくなく、そのためにシューマンは出版を見あわせてしまいます。そのために、5年後に作曲された交響曲が第2番と名付けられることになりました。
その後この作品はシューマン自身によって金管楽器などの扱いに手直しが加えられて、1853年にようやくにして出版されることになります。
シューマンの音楽というのはどこか内へ内へと沈み込んでいくような雰囲気があるのですが、4曲ある交響曲の中でもその様な雰囲気がもっとも色濃く表面にでているのがこの第4番の交響曲です。そして、こういう作品をフルトヴェングラーのような演奏で聞くと、「そうか、これはリストではなくてマーラーにつながっていくんだ」と気づかされたりする作品です。第3楽章から第4楽章につながっていく部分は誰かが「まるでベートーベンの運命のパロディのようだ!」と書いていましたが、そういう部分にもシューマンの狂気のようなのぞいているような気がします。
「勢い」にあふれたシューマン
評論とはあてにならないものです。そんなことは今さら言うまでもないことなのですが、このボールトの演奏に冠されたキャッチコピーは「中庸の美」だったとのことで、今さらながらそのいい加減さに驚いてしまいます。
さらにすごいのは、
「いかにもイギリス紳士であって、いわゆるドイツ的な腰の強さやロマン的な詩情に不足しがちだが、整った点で評価されてよい」(レコード芸術:1973/6、NN氏・・・3番「ライン」・4番がカップリングされたLPへの批評)
BQクラシックスからの情報。
非常に失礼な物言いになるのですが、この方にとっての「整う」という日本語の意味が私とは大きく異なるようです。もしくは、演奏そのものを全く聞かずに筆を執られたのではないのかと疑ってしまいます。
もっとも、聞くところによると、この時代の評論家先生は忙しくて、「どうせだれも聞かないだろう」と思えるようなマイナーな音源は最初の部分だけを聞いて、あとは周辺情報(指揮者=ボールト、オケ=ロンドンフィル、作品=シューマンの交響曲)をもとに適当に書き飛ばすこともあったそうな・・・。
ただし、たとえば第3番の「ライン」などは、せめて最初の部分だけでも聞いてくれていれば、「ドイツ的な腰の強さやロマン的な詩情に不足しがちだが、整った点で評価されてよい」などという言葉は絶対に出てこなかったとは思いますので、やはり「手抜き」と言われても仕方がないでしょう。
これはどうも、大変な演奏でして、初めて聞いたときは何かの編集ミスではないかと思いました。先に紹介した「BQクラシックス」さんも書いておられますが、これはもう「快速」と言うよりは「暴走」でしょう。あちこちで、オケが指揮についていけなくなっているので、速いテンポにもかかわらず妙な「モタモタ感」があるという不思議なテイストです。
第2楽章もやや早めのテンポで進んでいくのですが、続く第3、4楽想は落ち着いてきて、そして最終楽章は「快速」テンポで締めくくるという、どう考えても「整ってはいない」造形です。
しかし、聞き終わった感想はと言えば、私がこの作品に求めたい「悠然としたスケール感」は乏しくて、いささか小振りな「ライン」に仕上がっているというところでしょうか。
それと比べると、第4番もまた早めのテンポですが、こちらは「常識」の範囲内(常識って何なのよ・・・と、つっこみが入りそうですが^^;)なので、それほど異形な造形という感じはしません。しかし、どこをどうつついても「ロマン的な詩情に不足しがち」などと言う評価は出てこないほどに、濃厚な音楽に仕上がっています。
あとの第1番や第2番はこれらと比べると、この時代の特徴であるザッハリヒカイトな演奏という範疇でくくれる音楽に仕上がっています。どちらかと言えば、早めのテンポでグイグイと突き進んでいくような音楽の作り方はこの時代の一つの特徴と言えるようです。ただし、これを「中庸の美」と言うにはいささか躊躇いを感じざるを得ない「勢い」にあふれています。
第2番についてはHMVのコメント欄で「第2交響曲について、シノーポリが鋭利なメスでシューマンの脳髄に潜む狂気をえぐり出し、バーンスタインは刃渡り1m以上もある大刀でマグロの解体ショーのようなパフォーマンスを披露するのに対し、ボールトはゴム長に前垂れ、そして手には出刃包丁で鯵や鯖を三枚に下ろすが如く一見無造作に料理する。しかし、その結果表出される狂気はより以上に新鮮に映る。」と書かれておられる方がいました。
私はさすがにそこまでの深読みをすることはできませんが、聞き比べてみると、灰汁の強い3番と4番よりは、この1番と2番の方が好ましく聞くことができました。
おそらく、1番と2番に関しては、この録音でこれらの作品と初めての出会いをしても何の問題もありませんが、3番だけは絶対に出会ってはいけない演奏であることだけは確かです。
この録音は全て56年に一気にステレオで録音されています。おそらくは、シューマンの没後100年を記念して行われたプロジェクトでしょうが、未だに広く認知されているとは言い難かったこれらの交響曲を一気に世に知らしめたという功績を考えれば、これもまた後世へとすくい上げていくに値する演奏だと思います。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
1482 Rating: 5.1/10 (156 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-12-01]
グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品82(Glazunov:Violin Concerto in A minor, Op.82)
(Vn)ナタン・ミルシテイン:ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1957年6月17日録音(Nathan Milstein:(Con)William Steinberg Pittsburgh Symphony Orchestra Recorded on June 17, 1957)
[2024-11-28]
ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調「鳥」, Op.33, No.3,Hob.3:39(Haydn:String Quartet No.32 in C major "Bird", Op.33, No.3, Hob.3:39)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月1日録音(Pro Arte String Quartet Recorded on December 1, 1931)
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)