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J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調「ドリア調」 BWV.538(J.S.Bach:Toccata and Fugue in D minor, BWV 538)

(Organ)マリー=クレール・アラン:1961年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 5-8, 1961)

J.S.Bach:Toccata and Fugue in D minor, BWV 538 [1.Prelude]

J.S.Bach:Toccata and Fugue in D minor, BWV 538 [2.Fuga]


自由な形式によるオルガン曲の概要

バッハのオルガン作品は膨大な量に上るのですが、それらを大雑把に分ければ概ね以下の3つにぶ分類されるようです。


  1. コラールに基づく作品

  2. 自由な形式による作品

  3. 教育のための作品



コラールに基づく作品は教会オルガニストとしての本務を果たすためのものであり、約200程度の作品が知られています。
教育用の作品は、おそらくは子ども達のために書かれたと思われる作品群で、6つのトリオ・ソナタが最も有名です。

それに対して、自由な形式によるオルガン作品は、バッハという音楽家の音楽的な思考力とオルガンという楽器に対する名人芸の発露が封じ込められた作品群だといえます。それ故に、このジャンルに対する取り組みは生涯にわたって続けられ、それを辿ることでバッハという音楽家の作曲技法がいかに発展していったかが反映されています。
ただし、それらの全てを詳述する能力は私にはありませんので、概略だけでも記しておければと思います。

前奏曲(トッカータ)とフーガ ドリア調(ニ長調) BWV 538



この作品は明らかにニ短調で書かれているのですが、いわゆる「調号」を使った記譜がされていないので「ドリア調」と一般的に言われています。

前奏曲という形式は即興的な楽想を持った作品の名称なのですが、この作品は冒頭の半小節で提示される16分音符の音型が全体を構成する基本要素となっています。つまり、バッハはこの作品においては即興的な腕前を誇示するよりは統一感を持った音楽を構築しようとしているようです。
ただ、この小さな基本要素の音階関係を変化させていくだけでは単調さは免れないので、合奏協奏曲における総奏とソロの対比のような音色と音量の対比を持ち込んでいます。

また、それに続くフーガの部分もきわめて強い統一感に貫かれていて、シュヴァイツァーは「巨大な方石で造られたアーチの橋」と評しています。


多彩な音色が魅力

マリー=クレール・アランはアラン家の4人兄弟の末っ子として1926年8月10日にサン=ジェルマン=アン=レーで生まれました。このアラン家というのは大変な音楽一家であり、父であるアルベール・アランはオルガン奏者兼作曲家であり、兄のジェアンとオリヴィエも同様にオルガン奏者兼作曲家でした。
ですから、彼女もまた当然のようにオルガンを父から学び、パリ音楽院でマルセル・デュプレ、モーリス・デュリュフレから学びました。
まさにサラブレッドとも言うべき経歴です。
そして、アランはその生涯において「バッハ・オルガン作品全集」を3回も録音すると言う偉業を成し遂げています。まさに、フランスを代表するオルガニストであり、同時代でいえばドイツのヘルムート・ヴァルヒャと肩を並べる存在だったと言ってもいいでしょう。

しかし、この二人は紡ぎだす音楽の雰囲気はずいぶんと異なっています。
ヴァルヒャのバッハは一言でいえば重々しく聞こえます。それは言葉をかえれば「深い」ということになるのでしょうか。
それに対してアランの演奏を特徴づけるのは「多彩な音色」であり、その多様性ゆえに華やかで表現の幅が「広い」ということです。

まあ、世間一般でいえば芸術というのは「深い」ほうが価値を持ち、「華やか」というものはそれよりは一段低い価値しかないとみなされるものです。それが、「神とバッハへの信仰告白」であるオルガン作品ならば、断然「深さ」のほうこそ価値あるものということになるのでしょう。

しかし、アランの演奏を聞きこんでいくと、ふと気づかされます。
オルガンってどうしてあのように多彩な音色を実現できるのかという、ごく初歩的な「はてな?」です。オルガンというのは言ってみればリコーダーみたいなもので、空気を吹き込んで音を鳴らしています。ですから、普通に考えれば音色などは変化するはずはないのです。
しかし、パイプ・オルガンというのは大変なもので、舞台から見えるだけでも多くのパイプが林立しているのですが、その奥に数千本のパイプが並んでいます。
その何千本ものパイプにはそれそれ一つの音程、一つの音色が割り振られているのです。
そして、それらのパイプを組み合わせて多様な音色を作り出すのは演奏者の仕事であり、「レジストレーション」と呼ばれています。

それだけでも大変な作業なのですが、もう一つパイプ・オルガンは持ち運びができず、おまけに、一つずつのパイプ・オルガンには個性のあるというハードルがあります。つまりは、同じ作品であってオルガン奏者は演奏する会場に出向いて、そのオルガンの響きを確認しながら組み合わせを決めていかなければならないのです。

つまりは、アランの多彩な音色によるバッハというものは、ただ華やかに演奏するというだけでなく、その背景にはとてつもない献身とエネルギーが注ぎ込まれているのです。
ここで紹介している最初の全集録音だけで9か所の教会が使われています。その一つ一つの教会や大聖堂のオルガンは独自の音色を持っています。
その独自の音色を持つオルガンに対して一つずつ、譜面を通してバッハと真摯に向きあうことによってあの多彩な音色が引き出されているのです。
華やかで豊かな色彩を描き出すためにはとてつもない献身とエネルギーがもとめられるのです。

ヴァルヒャのバッハ演奏が素晴らしいことは言うまでもありませんが、重くて深いだけがバッハではないのです。
アランのバッハが軽いなどと決めつける前に、ぜひともじっくりと向き合ってみてください。

この演奏を評価してください。

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