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ヴァルヒャ(Helmut Walcha)|バッハ:オルガンのためのトリオ・ソナタ第6番 ト長調 BWV530
バッハ:オルガンのためのトリオ・ソナタ第6番 ト長調 BWV530
オルガン:ヴァルヒャ 1956年9月録音
Bach:Organ Sonata No.6 in G major, BWV 530 [1.Vivace]
Bach:Organ Sonata No.6 in G major, BWV 530 [2.Lento]
Bach:Organ Sonata No.6 in G major, BWV 530 [3.Allergo]
息子のための練習曲
数あるバッハのオルガン作品の中では最もマイナーな部類に属する作品です。音楽の友社からでている「作曲家別 名曲解説ライブラリー:J.S.バッハ」にも解説は収録されていませんでした。この辺の取捨選択の基準がよく分からないのですが、まあそれだけマイナーな作品と言うことでしょう。でも、6曲もまとめてあるジャンルなんだから少しぐらいの言及はあっても良いだろう!と思うのですが、やはりマイナー!!と言うことなのでしょう。
トリオソナタというのはイタリアにおいて器楽曲が発展するにつれて生み出された形式で、もともとはチェロとチェンバロによる通奏低音と2つの旋律楽器によって演奏されるのが一般的でした。それをバッハはチェンバロと何らかの旋律楽器、もしくはオルガニストが一人で演奏するタイプのトリオソナタを作り上げました。
このオルガニスト一人で演奏するタイプのものがここで紹介している作品で、右手・左手・足の三つをフルに使って三声部を演奏していきます。
確かにトッカータやフーガの作品のような派手さもなければ名人芸の見せ場も少ない作品なのですが、渋くて落ち着きのある音楽はいかにも「大人の音楽」と思うのですがいかがなものでしょうか。
それはさておき、この作品がいつ頃創作されたのか、調べてみたのですがよく分かりません。リストラの嵐が吹き荒れるケーテンの宮廷をおさらばして、ライプティッヒのカントールにおさまった時代であることは確かなのですが、1725年から29年のあたりというぐらいしか分かっていないようです。
ただし、創作の動機はハッキリしていて息子を偉大なオルガニストに育てるための練習曲として作られたことは間違いないようです。しかし、バッハも息子のために一からこの作品を作ったのではなく、もとからあったトリオソナタ形式の室内楽作品をオルガン要に編曲したのではないかと言われています。
ですから、今日ではフルートやオーボエなどの旋律楽器と通奏低音の組み合わせでも演奏されることの多い作品です。
即物主義に時代におけるバッハ
アルヒーフはレーベルとして出発したときから、ヴァルヒャを使ってバッハのオルガン作品をまとまった形で録音することを宣言していました。宣言したのは1949年だったらしいのですが、ヴァルヒャの録音は1947年からスタートし、取りあえずは1952年で一つの完結をみました。
これがヴァルヒャによる最初のモノラル録音によるバッハ、オルガン作品集でした。
このサイトでもその録音の幾つかは紹介しているのですが、50年代に入ってからの録音は超絶的に音が良いのが特徴です。この時に使っていたオルガンはやや小振りの楽器らしいのですが響きがとても美しいのが印象的だったのですが、その美しさが50年代のものとは到底思えないほどのクオリティで見事にすくい上げられています。
ところが、1950年代の中頃に、録音のフォーマットがモノラルからステレオに変わります。このフォーマットの変更に伴って進行中の録音活動が大幅に変更されるというケースが少なくなかったのですが、ヴァルヒャによるバッハ録音も路線変更を強いられたようです。
言うまでもないことですが、47年から52年にかけて行われた録音には「バッハオルガン作品全集」などと銘打たれているのですが、その言葉通り「全曲」が収録されているわけではありません。大きいところでは「フーガの技法」などが欠落しています。
しかし、録音のフォーマットが大きく変わりつつある中で、最新技術である「ステレオ録音」と「SP盤の時代の録音」を一つにして「全集」とするには抵抗があったのでしょう。
アルヒーフはきっぱりとモノラルの録音はモノラル録音として52年に「ほぼ全集」の形でけじめをつけて、1956年からステレオ録音による全曲録音を目指します。
ただし、この録音は何が原因なのかは分からないのですが、随分と手間取ることになります。
まずは、1956年に、モノラル録音での大きな欠落だった「フーガの技法」をステレオ録音することで再スタートするのですが、その後は1962年にトッカータや幻想曲などを集中的に録音しただけでストップしてしまいます。そして、1969年に入ってから再び録音活動が再スタートして70年にステレオ録音による二つめの全集が完成することになります。
このステレオ録音では、ゴットフリート・ジルバーマンによって作られた「ジルバーマン・オルガン」が使われています。
これは、「大オルガン」といわれるもので、モノラル録音の時に使われた小振りなオルガンとは響きの点で随分と違っています。私たちが教会のパイプオルガンと言うことで想像する壮麗な響きを持っているのがこのタイプのオルガンです。
ですから、オルガンそのもの響きの美しさという点ではモノラル録音に軍配が上がるのですが、教会の聖堂に鳴り響く三次元的な響きという点ではステレオ録音のほうに軍配が上がります。
さらに言えば、そう言う壮麗な響きであっても、ヴァルヒャは一つ一つの声部が響きの中で混濁することを決して良しとしていません。そのために、きわめて繊細にストップが使われていて、バッハのポリフォニーがこの上もなく明瞭に聞き取れるように配慮が為されています。
バッハの音楽が即物主義の時代にどのように捉えられたのかを知る上では貴重な録音です。
確かに、ヴァルヒャ以後の、例えばコープマン等の演奏を聴けば、音楽はもっと躍動感に満ちていますから、こういう演奏スタイルが時代遅れになっていることは否定できません。
特に、ステレオ録音の場合は15年という長い歳月にわたっているのでヴァルヒャの衰えも否定できず、とりわけ70年に入ってからの演奏では随分と「丸い」音楽になってしまっています。
その意味では、モノラルとステロの端境期である56年と62年の録音が、録音のクオリティとヴァルヒャの絶頂期が上手く重なった時期と言えるのかもしれません。
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