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R.シュトラウス 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 作品28


セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1957年3月29日録音


ロンド形式による昔の無頼の物語

シュトラウスにとっては4作目にあたる交響詩であり、まさに脂ののりきった円熟期の作品だと言えます。どこかで、吉田大明神が「西洋音楽史における管弦楽作品の最高傑作」と評していたのを読んだことがありますが、本当に長い西洋音楽の歴史の中で積み上げられてきた管弦楽法の全てが詰め込まれた作品だと言えます。

さて、この交響詩のタイトルとなっているティルなる人物ですが、これは日本で言えば吉四六さんみたいな存在といえるのでしょうか、ドイツ人なら誰もが知っている伝説的な人物だそうです。14世紀に実在した靴職人という説もあれば、同時代に存在したであろう似たような人物像を集めて作られたのがティルだという説もあるそうです。
しかし、どちらにしても、どんな権力者に対しても平気でイタズラをふっかけては大騒ぎを引き起こす人物として多くの民衆に愛された人物であることは間違いありません。そして、このシュトラウスの交響詩の中では、最後につかまえられて裁判にかけられ、絞首刑となって最期をむかえるのですが、伝説の方では病で静かな最期をむかえるという言い伝えもあるそうです。
シュトラウスは、この作品のことを「ロンド形式による昔の無頼の物語」と呼んでいたそうですから、最後は病で静かに息を引き取ったのでは様にならないと思ったのでしょうか、劇的な絞首刑で最後を締めくくっています。

なお、この交響詩は他の作品と違って詳しい標題の解説がついていません。それは、あえて説明をつけくわえる必要がないほどにドイツ人にとってはよく知られた話だったからでしょう。
が、日本人にとってはそれほど既知な訳ではありませんので、最後にかんたんにティルのストーリーを記しておきます。

最初はバイオリンによる静かな旋律ではじまります。いわゆる昔話の「むかしむか・・・」にあたる導入部で、それ続いて有名な「その名はティル・オイレンシュピーゲル」というホルンの主題が登場します。
これで、いよいよ物語りが始まります。

(1)フルートやオーボエが市場のざわめきをあらわすと、そこへティルが登場して品物を蹴散らして大暴れをし、魔法の長靴を履いて逃走してしまいます。
(2)僧侶に化けたティルのいいかげんな説教に人々は真剣に聞きいるのですが、やがてティルは退屈をして大きなあくびをして(ヴァイオリンのソロ)僧侶はやめてしまいます。
(3)僧侶はやめて騎士に変装したティルは村の乙女たちを口説くのですがあっさりふられてしまい、怒ったティルは全人類への復讐を誓います。(ユニゾンによるホルンのフォルティッシモ)
(4)怒りの収まらないティルは次のねらいを俗物学者に定め議論をふっかけます。しかし、やがて言い負かされそうになると、再びホルンでティルのテーマが登場して、元気を取り戻したティルが大騒ぎを巻き起こします。(このあたりは音楽と標題がそれほど明確に結びつかないのですが、とにかくティルの大騒ぎを表しているようです)
(5)突如小太鼓が鳴り響くと、ティルはあっけなく逮捕されます。最初は裁判をあざ笑っていたティルですが、判決は絞首刑、さすがに怖くなってきます。しかし刑は執行され、ティルの断末魔の悲鳴が消えると音楽は再び静かになります。

音楽は再び冒頭の「むかしむか・・・」にあたる導入部のメロディが帰ってきて、さらに天国的な雰囲気の中でティルのテーマが姿を表します。そして、最後はティルの大笑いの中に曲を閉じます。

セルとシュトラウス


セルのキャリアを考える上で忘れてならないのは、リヒャルト・シュトラウスとの出会いです。ベルリンの宮廷歌劇場に招かれたシュトラウスが、当時ベルリンでそのキャリアをスタートさせたばかりのセルの才能に着目してスタッフに加えたのです。
セルは、シュトラウスのもとで歌手の練習から始まってピアニストとして、さらには練習指揮者として大活躍をすることになります。セル自身もシュトラウスのもとで多くのことを学んだことを後に語っており、シュトラウスに対する尊敬は終生変わらぬものでした。
ただし、音楽よりもカード遊びの方が大好きだったシュトラウスのことを回想しながら、演奏の最中に時計を見て、このままでは約束のカードの時間に間に合わないとみて、突如テンポを上げてあっという間に終えてしまった・・・というエピソードなんかもうれしそうに語っていますから、おそらく「いろんな事」を学んだのでしょう。ちなみに。のだめの中に登場する「マエストロ、シュトレーゼマン」はずいぶん誇張されたキャラクターのように思われるかもしれませんが、意外と偉大な音楽家というのは基本的にあんな人が多いようですね。

さて、そうしてシュトラウスのもとで修行に励んでいたセルに、シュトラウスは自分のもとを離れてどこかの地方の歌劇場のシェフになることをすすめます。つまりは、自分の歌劇場をもってそこで腕を磨けと言うことです。尊敬すべきシュトラウスからの忠告ですから、結局はわずか2年でシュトラウスのもとを去りストラスブールの歌劇場へ向かいます。セル19歳の時です。
その後のセルはヨーロッパ各地の歌劇場でキャリアを積み上げ、その後第二次大戦の勃発でアメリカに腰を据えて活動を展開したことはよく知られていることです。

そう言うキャリアを持つセルですから、シュトラウスの作品は彼にとって終生変わらぬ重要なレパートリーでした。ニューヨークのメトロポリタンでは薔薇の騎士を取り上げていますし、ニューヨークフィルとのコンサートでも頻繁にシュトラウスの交響詩などを取り上げています。
このスタンスは、やがて彼がクリーブランドの音楽監督に就任しても変わることはなく、そう言うセルの活動に対してシュトラウスは遠く失意のヨーロッパから「もう私はいつ死んでも思い残すことはない。このような若者が私の跡を継いでくれるのだから」とエールを送りました。

セルの簡潔であるものの明確な指揮のスタイルは明らかにシュトラウスからの強い影響を受けています。そして、そう言うセルの棒から紡ぎ出される音楽にシュトラウスは全幅の信頼を寄せていました。
しかし、以前にも少しふれたことがあるのですが、そう言う師弟の関係であってもセルはシュトラウスを盲信していたわけではありませんでした。
例えば、ここで紹介しているティルにおいても彼は大胆なスコアの改変を行っています。詳しくはこちらをご覧あれ。
なかなかこの二人の関係には面白いものがあります。

さて、最後に余談ながら、この録音をめぐって、ホルンのソロを担当したマイロン・ブルームはこんなエピソードを語っています。
彼が3番ホルンから1番ホルンに昇進したときのことです。
「1番ホルンに昇進した最初の1年間を思い出します。ショックで打ちのめされてしまいました。夢遊病者のように舞台を行ったり来たりし、恐れと不安とパニックで顔面は蒼白・・・最初の1年はそうでした。
初めて「ティル」を演奏したときのことを思い出します。セルから容赦なく絞られ、私は気が狂いそうになりました。
「このままではやっていけない」と思いました。・・・
私は彼の部屋の戸を叩きました。「どうぞ」と声がしたので中に入りましたが、私は一言も話さないうちに泣きだしてしまいました。
しかし、彼は察しのよい人でした。私を抱きしめてくれたのです。信じられませんでした。」

のだめで交響詩「ティル」のリハーサルの時に千秋がホルンに対して「もっと小さく」と指示を出したことでオケとの関係が険悪になり失敗してしまうシーンがありました。
あのシーンを見て、ユング君はうなってしまいました。そうなのです、あそこで指揮者が自分の理想を追求すれば、ブルームのような人でさえ気が狂いそうになるのです。
もちろん、そこまで分かってあのシーンに感嘆する人はほとんどいないでしょうが、そう言うディテールにまで一切手を抜かない作りにはほとほと感心させられます。

そして、ここで聴くことのできるティルは、第1ホルンを発狂寸前にで追い込んで成し遂げられた演奏なのです。
恐るべし、ジョージ・セル!!


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