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レスピーギ:ローマの松

トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1953年3月17日録音



Respighi:The Pines of Rome [1.The Pines of Villa Borghese]

Respighi:The Pines of Rome [2.Pines near a catacomb]

Respighi:The Pines of Rome [3.The Pines of the Janiculum]

Respighi:The Pines of Rome [4.The Pines of the Appian Way]


オーケストレーションの達人

レスピーギという人、オーケストレーションの達人であることは間違いはありません。
 聞こえるか、聞こえないかの微妙で繊細な響きから、おそらくは管弦楽曲史上最大の「ぶっちゃきサウンド」までを含んでいます。言ってみれば、マーラーの凶暴さとドビュッシーの繊細さが一つにまとまって、そして妙に高度なレベルで完成されています。

 しかし、この作品、創作された年代を眺めてみると、色々な思いがわき上がってきます。
 最初に作られたのが、「ローマの噴水」で1916年、次が「ローマの松」で1924年、そして「ローマの祭り」が1928年となっています。
 要は後になるほど、「ぶっちゃき度」がアップしていき、最後の「ローマの祭り」の「主顕祭」ではピークに達します。そこには、最初に作られた「ローマの噴水」の繊細さはどこにもありません。
 そのあまりの下品さに、これだけは録音しなかったカラヤンですが、分かるような気がします。
 
 そう言えば、どこかの外来オケの指揮者がこんな事を言っていましたね。
「どんなにチンタラした演奏でも、最後にドカーンとぶっ放せば、日本の聴衆はそれだけでブラボーと叫んでくれる」
 しかし、これは日本だけの現象ではないようです。
 どうも最後がピアニッシモで終わる曲はプログラムにはかかりにくいようです。(例えば、ブラームスの3番。3楽章はあんなに有名なのに、他の3曲と比べると取り上げられる機会が大変少ないです。これは明らかに終楽章に責任があります)

 この3部作の並びを見ていると、受けるためにはこうするしかないのよ!と言いたげなレスピーギの姿が想像されてしまいます。

 それから、最後に余談ですが、レスピーギはローマ帝国の熱烈な賛美者だったそうです。この作品の変な魅力は、そういう超アナクロの時代劇が、最新のSFXを駆使して繰り広げられるような不思議なギャップにあることも事実です。
 ちなみに彼は自分の作品にこんな解説をつけています。

 第1楽章
ボルゲーゼ荘の松の木の下で子供たちが遊んでいる。子供たちは輪になって踊り、兵隊の真似をし、行進したり、戦争ごっこをする。子供たちは、自分たちの叫び声に酔い、大空の下で駆け回り、夕暮れに帰る燕のように群をなして退散して行く。情景が突然変わる。
 第2楽章
カタコンバに入る道の両側に立ち並ぶ松の木かげ。墓地の奥底から悲しげな声が上って来て、荘重な聖歌のように拡がり、やがて神秘的に消えて行く。』
 第3楽章
大気(風)がゆらいで走る。ジャニコロの丘の松が、清らかな月光に浮かび上がる。ナイチンゲールが鳴く。
 第4楽章:
霧に包まれたアッピア街道の朝明け。高い松並木の陰に、静かな平原の景色が見える。突如として、多数の兵士の足音の響きが、絶え間無いリズムをとって聞えて来る。古代の栄光が詩人の幻想に蘇える。
  ラッパの音がとどろき、太陽の光が射すとともに、執政官の軍隊が現われ、聖なる街道を行進して、首都へ凱旋していく。


これぞトスカニーニ&NBC交響楽団コンビの真骨頂

「トスカニーニは、レスピーギのローマの松と、メンデルゾーンのイタリアだけで歴史に名を残せるだろう。」なんて言葉を紹介しておきながら、全くのうっかりで大本命の53年盤をアップするのを忘れていました。さらに、ローマの噴水とローマの祭りもアップするのを忘れていました。いかんですね。

さて、トスカニーニによるローマの松ですが、言うまでもなく「アッピア街道の松」の圧倒的な迫力にその魅力が集約されていることは当然です。しかし、それ以上に聞き落としてほしくないのは弱音部おける緊張感に満ちた凄味です。
下手なオケと指揮者にかかるとこういう弱音部はただ単に音量を落としているだけで、音楽のテンションまで下がってしまっています。ところが、トスカニーニとNBC交響楽団のような凄腕にかかると、音量は小さくなっても緊張感は全く途切れることなく、逆にその静けさの背後から「凄味」のようなモノさえ浮かび上がってきます。ですから、その弱音部が次第次第に盛り上がっていってオケが爆発してもそこには強い必然性が感じられます。おそらくは、この必然性がトータルとしてこの演奏にただようある種の上品さや気品のようなモノの下支えになっているのでしょう。
そして、これもまた忘れてならないのは、NBC交響楽団の鬼のようなアンサンブル能力もそれ自体が目的化しているのではなくて、その様なトスカニーニの意思を実現するための手段として奉仕していることです。その事が、もっとも強く感じ取れるのはローマの祭りにおける「主顕祭」の馬鹿騒ぎです。
あまりの下品さにあのカラヤンでさえ録音しなかったと噂される作品なのですが、しかし、こういう乱痴気騒ぎは例えばストラヴィンスキーのペトルーシュカ等にも聴くことができます。決して、このレスピーギの作品だけが取り立てて下品だというのは納得がいきません。しかし、ペトルーシュカでもそうですが、こういう作品はオケを完璧にコントロールして祭りの雑踏を表現しないと、本当にただの乱痴気騒ぎになってしまいます。おそらく、ローマの祭りの主顕祭がコントロールされた狂乱として表現されたのはこれが初めてでしょう。まさに恐るべしNBC交響楽団です。

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