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ボロディン:交響曲第2番 ロ短調(Borodin:Symphony No.2 in D minor)

ジャン・マルティノン指揮 ロンドン交響楽団 1958年3月録音(Jean Martinon:London Symphony Orchestra Recorded on March, 1958)

Borodin:Symphony No.2 in D minor [1.Allegro moderato]

Borodin:Symphony No.2 in D minor [2.Scherzo. Molto vivo]

Borodin:Symphony No.2 in D minor [3.Andante]

Borodin:Symphony No.2 in D minor [4.Finale. Allegro]


ロシア国民楽派最高の交響曲

ボロディンと言えば「ロシア五人組」の一人として有名ですが、基本的には音楽を本職としない「日曜作曲家」でした。
聞くところによれば、彼はグルジア皇室の皇太子の子どもとして生まれながら、嫡出ではないと言うことで実子としては登録されなかったそうです。しかし、そういう法的な手続きはどうであれ、皇太子の子どもなのですから音楽も含めて非常にすぐれた教育を受けることが出来ました。よって、ペテルスブルクの医学大学の助教授、教授と進み、最後は有機化学の研究家として多大な業績を残した化学者というのが彼の「本職」となりました。

そんな立ち位置のためか、ボロディンの作品は「未完成」のままに放置されているものが少なくありません。たとえば、彼の代表作とされる「イーゴリ公」も、リムスキー・コルサコフの励ましにもかかわらず完成されることなく、最後は彼の突然の死によって未完成のままで終わりました。そして、それではあまりにも惜しいと思った友人のリムスキー・コルサコフが残されたスケッチなどをかき集めて今日のような「作品」に仕立て上げました。

確かに、彼は「本職」の化学者、教育者としての仕事が忙しくて作曲に時間がとれなかったという面も否定できませんが、基本的には「皇太子の子ども」というやんごとなき生まれのために、その辺の感覚が一般人とはかなりかけ離れていた事も大きく作用したようです。
とにかく、いい人であり、おおらかな人だったようです。

そのあたりのことは、友人のリムスキー・コルサコフが自伝の中であれこれ紹介しているそうです。

たとえば、スケッチを総譜(スコア)になかなか書き移さないので、リムスキー・コルサコフが焦りまくって「あのオペラの例の曲はもう総譜に移したでしょうね?」と聞くと、彼は「うん、もちろん」と答えたそうです。
よかった、間に合ったとと思ってリムスキー・コルサコフが駆けつけると、彼は「総譜はちゃんとピアノ上からから机の上に移しましたよ」と大真面目に答えたそうです。
これでは、怒る気にもなれないでしょうね。

そんな中で、この交響曲の第2番は完成まで8年の年月を要したとは言え、無事に完成にこぎつけたましたから、数少ない大作の中では貴重な存在だと言えます。ロシア国民楽派最高の交響曲とされ、ボロディン自身もこれが完成したときには「勇士」と言う名を与えたほどの自信作でした。

確かに、重厚なユニゾンで開始される第1楽章は「勇士」の名にふさわしい勇壮な音楽となっています。
しかし、この音楽で一番魅力的なのは、誰が何と言ってもアンダンテの第3楽章でしょう。こういう哀愁を含んだ音楽は彼の得意とするところで、冒頭のホルンの歌を聴いただけで心をギュッと掴まれてしまいます。
そして、彼に続くカリンニコフなどの源流がこんなところにあったのだと気づかせてくれます。まあ、そんなことを書いている人はどこにもいませんが、カリンニコフのあのロマンティックで美しい音楽はチャイコフスキーではなく、このボロディンにこそ近しさがあるように思います。
近年になってカリンニコフが再評価されたのですから、このボロディンの交響曲ももう少し演奏されてもいいのではないかと思います。


フランス音楽的に仕立て直されたロシア音楽

マルティノンは1958年にボロディンの交響曲第2番とリムスキー=コルサコフのスペイン奇想曲を録音しています。この2曲はカップリングされて一枚のレコードとしてリリースされました。

その2曲は、一般的な通念からすれば実に端正なボロディンであり、あざとさのないリムスキー=コルサコフです。
しかし、一見すると素っ気ないように見えて、ここぞという場面では怒涛の如くテンポを上げて豪快に突き進んでいきます。特にボロディンの交響曲ではその傾向が顕著です。
そして、どこまで行って粘ることも重くなることもありません。
響きは常に繊細で輪郭線も雰囲気でごまかすようなことは一切していません。どこまでいっても音楽が重くなることはなくクリアです。

その意味では、作品へのアプローチは彼の本線であるフランス音楽に対する時と同じように思えます。ボロディンもリムスキー=コルサコフもある意味ではフランス音楽的に仕立て直されているように見えます。
音楽的にはフランス音楽とロシアの音楽はかなり遠い位置にあると思えます。しかし、そんなロシアの音楽に対して、フランス音楽と同じようなアプローチを当てはめて、結果として十分すぎるほどの説得力を持たせてしまっているのです。

ですから、これはロシア音楽じゃないだろうという声も聞こえてきます。
しかし、そういう声にも負けず、少なくない聞き手に対して、これはこれで面白いのかな!!と思わせてしまっているのです。ロシア音楽が持つ重さと妙な暑苦しさみたいなものが苦手だという人には面白く感じられるでしょう。

そういえば、マルティノンはフランスのリヨンで生まれ、音楽的にもパリ音楽院でヴァンサン・ダンディやシャルル・ミュンシュに学んでいますから生粋のフランス人指揮者といっていいのですが、同時にドイツ系アルザス人の血を引いた人でもありました。ですから、フランス人にしてはドイツ系の音楽に強かったのも事実で、異文化が彼のなかで矛盾なく融合していたのかもしれません。
そのあたりが、いろんな音楽をフランス的に仕立て直す腕につながっていたのかもしれません。

もう少し目配せが必要な指揮者かもしれません。

この演奏を評価してください。

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