クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|ロジンスキー(Artur Rodzinski)|ワーグナー:「ワルキューレ」魔の炎の音楽(Wagner:Magic Fire Music from "Die Walkure")

ワーグナー:「ワルキューレ」魔の炎の音楽(Wagner:Magic Fire Music from "Die Walkure")

アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月4日録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

Wagner:Magic Fire Music from "Die Walkure"


わが槍の切っ先を恐れる者は、けっしてこの炎を踏み越えるな

おそらく、「ワルキューレ」の上演において、そのエンディングであるヴォータンとブリュンヒルデの告別の場面こそは最大の聞かせどころです。

事の起こりは、ブリュンヒルデが父であるヴォータンの命に背いてジークリンデとジークムントを助けようとしたことです。
何故ならば、ブリュンヒルデはヴォータンからジークムントに死を宣告する役目を与えられていたからです。

彼女は二人の愛の強さに心打たれ、父であるヴォータンに背いて彼らを助けようとするのです。しかし、ヴォータンによってノートゥングの剣を打ち砕かれたジークムントはフンディングの槍によって倒されてしまいます。
ジークムントを失ったジークリンデは生きる希望をなくすのですが、ブリュンヒルデは彼女にジークムントの子供を宿していることを告げて生きることを説得します。
そして、生きることを決心したジークリンデに対して、ブリュンヒルデはその子供に「ジークフリート」と名づけ、ジークリンデもまた一人森の奥へと逃れていくのです。

そこへ自らの命に背いたブリュンヒルデへの怒りを漲らせてヴォータンが登場します。
ヴォータンはブリュンヒルデをワルキューレから除名し父娘の縁も切ることを告げます。ワルキューレ達はその過酷な罪の軽減を嘆願するのですがヴォータンは聞き入れず彼女たちを追い払ってしまいます。

ブリュンヒルデもまた神の力を奪われた無防備な状態で眠らされるのならば、臆病者は近づけないようにまわりに火を放つことを願います。
壮大な「ワルキューレの動機」と「まどろみの動機」によって告別の場面に入っていくのですが、この場面が演奏会などでも独立して取り上げられる「ヴォータンの告別」と呼ばれる場面です。

ブリュンヒルデの必死の願いに心動かされたヴォータンは「神たる自分よりも自由な男だけが求婚する」ことを了承します。
そして、彼女のまぶたに最後の口づけをして神性を奪い岩山に横たえ身体を盾で覆います。

やがて、槍を振りかざして岩を三度打ち鳴らして火の神ローゲを呼び出すと「魔の炎の音楽」の場面に入ります。
ローゲはヴォータンの指示に従って彼女のまわりを火で囲むと、ヴォータンは槍を高く掲げて「わが槍の切っ先を恐れる者は、けっしてこの炎を踏み越えるな」と叫びます。

そして、一面の炎に包まれたブリュンヒルデから名残惜しげに去ってゆくうちに幕は下りるのです


ロジンスキーにしてはいささか緩めのワーグナーです

1955年の4月ロジンスキーは集中的にワーグナーの管弦楽曲を録音しています。

  1. ワーグナー:ワルキューレ」ワルキューレの騎行

  2. ワーグナー:「神々の黄昏」ジークフリートの葬送

  3. ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち

  4. ワーグナー:「ワルキューレ」魔の炎の音楽

  5. ワーグナー:トリスタンとイゾルデ~前奏曲と愛の死

  6. ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

  7. ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第3幕への前奏曲~従弟たちの踊りと親方達の入場

  8. ワーグナー:「タンホイザー」序曲

  9. ワーグナー:「ローエングリーン」


面白いのはこの録音時のリハーサルの様子をおさめた録音が残っている事です。このリハーサル音源に関しては隣接権が消滅しているかどうか確認できないのでここで紹介できないのが残念なのですが、それは私たちがロジンスキーという指揮者に抱いているイメージとは随分と異なったものです。
ロジンスキーと言えばNBC交響楽団の練習指揮者に就任して、トスカニーニが着任するまでに徹底的に鍛え上げた事で有名です。そのトレーニングの厳しさは言語に絶するものだったようです。そして、その厳しさがさらに発揮されたのがバルビローリが去った後のニューヨークフィルの音楽監督時代で、鬼のようなトレーニングを課するだけでなく、それについてこれない、または意見の食い違うメンバーは容赦なくクビを切り、それはコンサート・マスターにまで及びました。
そして、その強引にすぎるやり方に対してメンバーと衝突するのは日常茶飯事で、ロジンスキーは身の危険を感じて拳銃を忍ばせてリハーサルに臨んだという話がまことしやかに囁かれるほどです。

しかし、そのような厳しさは疑いもなくNBC交響楽団やニューヨークフィルの能力を大幅に向上させ、確固とした造形と細かい部分に至るまで考え抜かれた音楽を生み出しました。
とはいえ、その峻厳なまでのオケに対する態度は最終的にアメリカでの居場所を失うことになり、シカゴ響を追われてからは活動の場をヨーロッパに移し、主にウェストミンスターで録音活動を積極的に行いました。そして、そこでの録音はアメリカ時代のロジンスキーと大きな違いはなく、はてさて起用されたイギリスのオケはこの凶悪な指揮者とどの様に対峙したのかと不思議に思っていました。

ところが、このリハーサル風景を聞いてみると、オケと指揮者の関係は極めて良好なのです。良好どころか、時にはロジンスキーが軽口を叩きオケのメンバーから一斉に笑い声が沸き起こったりして、とてもではないですが拳銃をしのばせてリハーサルに臨んだ人物とは全く別人です。
ただし、この時のリハーサルはかなり緩めで、それは録音の出来にも反映しているようで、ロジンスキーにしてはいささか緩めのワーグナーに仕上がっています。
もちろん、オケのメンバーはロジンスキーの細かい指示によく応えていることはリハーサル風景からも分かるのですが、なんだかロジンスキー自身があまりうるさいことはいわず、また自分にも厳しい枷を課さず、どこか音楽を楽しんでいるような雰囲気が漂うのです。

彼がアメリカを去ったのはオケとの衝突もあったのですが健康問題も大きかったようなので、この頃には随分と弱っていたのかもしれませんし、もう無理はしないで残された時間は音楽を楽しもうと達観していたのかもしれません。
とは言え、同時期に録音した他の作品ではかなり精緻な演奏を貫いていますから、もしかしたらこの時はいささかワーグナーに酔っていたのかもしれません。

ロジンスキーが亡くなったのは1958年にシカゴで「トリスタンとイゾルデ」を指揮した後に倒れたのでした。彼にとって、ワーグナーは特別な音楽だったのかもしれません。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



5664 Rating: 4.9/10 (57 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-08-20]

エルガー:行進曲「威風堂々」第5番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 5 in C Major])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)

[2025-08-18]

ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21(Beethoven:Symphony No.1 in C major , Op.21)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)

[2025-08-16]

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, 作品73(Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73)
アルトゥール・ロジンスキ指揮:ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年10月14日録音(Artur Rodzinski:New York Philharmonic Recorded on October 14, 1946)

[2025-08-14]

ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲&第3幕への前奏曲~従弟たちの踊りと親方達の入場(Wagner:Die Meistersinger Von Nurnberg Prelude&Prelude To Act3,Dance Of The Apprentices)
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2025-08-11]

エルガー:行進曲「威風堂々」第4番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 4 In G Major])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年8月28日~29日録音(Sir John Barbirolli:Philharmonia Orchestra Recorded on August 28-29, 1962)

[2025-08-09]

バッハ:前奏曲とフーガ ホ短調 BWV.533(Bach:Prelude and Fugue in E minor, BWV 533)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-08-07]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major , Op.93)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1958)

[2025-08-05]

ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 Op. 115(Brahms:Clarinet Quintet in B Minor, Op.115)
(Clarinet)カール・ライスター:アマデウス四重奏団 1967年3月録音(Karl Leister:Amadeus Quartet Recorded on March, 1967)

[2025-08-03]

コダーイ: マロシュセーク舞曲(Zoltan Kodaly:Dances of Marosszek)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1962年11月15日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on November 15, 1962)

[2025-08-01]

ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲(Johann Strauss:Die Fledermaus Overture)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)