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ギオマール・ノヴァエス(Guiomar Novaes)|ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)ギオマール・ノヴァエス:オットー・クレンペラー指揮 ウィーン交響楽団 1951年6月9日~11日録音(Guiomar Novaes:(Con)Otto Klemperer Vienna Symphony Orchestra Published in June 9-11, 1951)
Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [1.Allegro moderato]
Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [2.Andante con moto]
Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [3.Rondo. Vivace]
新しい世界への開拓

1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。
この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。
その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。
とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。ユング君も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)
セルの時とは異なったテイスト
ノヴァエスはセルが指揮するニューヨークフィルと、1951年にショパンのピアノ協奏曲第2番、1952年にベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏しています。どちらもニューヨークフィルの定期演奏会だったのですが、どちらもすでに紹介しています。
そして、最近気づいたのですが、これとほぼ同時期にクレンペラーの指揮で上記の2曲を録音しているのです。
おそらく、この時期にこの2曲をノヴァエスは集中的に演奏していたのでしょうが、その結果としてセルとクレンペラーという厳しい指揮者をバックに2種類の録音が残ったというのは興味深いことです。
しかし、この時期は、考えてみればクレンペラーにとっては不遇の時代であったことを思い出させます。
1939年に脳腫瘍に倒れたクレンペラーはロサンジェルス・フィルの音楽監督の座を失い、さらには元来患っていた躁鬱病も悪化して奇行が目立つようになり、戦後になってもアメリカでの活躍の道は閉ざされていました。さらにはヨーロッパに渡っても活動は思うにまかせず、ようやくレッグによって見いだされて1952年にEMIとレコード契約を交わすことになるものの、市民権継続の問題などからしばらくアメリカに留まることを余儀なくされます。
彼がEMIで本格的に録音活動をはじめるのは1954年からですから、この1950年代初頭ははまさに不遇のどん底ともいうべき時期だったはずです。
その事が関係しているのかどうかは分かりませんが、この狷介な男にしては珍しいほどにソリストの持ち味を引き立たせるように万全のサポートに徹しています。
そう言えば、彼はEMIの表看板になってからは協奏曲の伴奏なんてほとんどやっていないのではないでしょうか。
そして、ノヴァエスはそう言うサポートを得て、集中的に取り組んできたであろう作品を考え抜いた結果をそこで思う存分に披露しているように聞こえます。
ノヴァエスの魅力を味わうには非常に貴重な録音と言えるでしょう。
さらに序でながらあれこれ調べてみると、この二つの録音は1951年6月9日から11日にかけてのセッションで録音されたものであることが分かりました。レーベルはアメリカの新興レーベルである「Vox Records」によるもので、当時クレンペラーにとって唯一の活躍の舞台でした。
さらに、この3日間でもう一曲、シューマンのピアノ協奏曲も録音していたことが分かりました。
個人的には、このシューマンの協奏曲が両者の持ち味が一番上手く噛み合っていて、もっとも魅力的な録音ではないかと思いました。
世間的にはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の録音の評価が高いようですね。
この演奏を評価してください。
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