Home|
モントゥー(Pierre Monteux)|リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」, Op.35
リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」, Op.35
ピエール・モントゥー指揮:(Vn)ナウム・ブラインダー サンフランシスコ交響楽団 1942年3月3~4日日録音
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [1.The Sea and Sinbad's Ship]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [2.The Legend of the Kalendar Prince]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [3.The Young Prince and The Young Princess ]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [4.Festival at Baghdad. The Sea. Ship Breaks against a Cliff Surmounted by a Bronze Horseman]
管弦楽法の一つの頂点を示す作品です。
1887年からその翌年にかけて、R.コルサコフは幾つかの優れた管弦楽曲を生み出していますが、その中でももっとも有名なのがこの「シェエラザード」です。彼はこの後、ワーグナーの強い影響を受けて基本的にはオペラ作曲家として生涯を終えますから、ワーグナーの影響を受ける前の頂点を示すこれらの作品はある意味ではとても貴重です。
実際、作曲者自身も「ワーグナーの影響を受けることなく、通常のオーケストラ編成で輝かしい響きを獲得した」作品だと自賛しています。
実際、打楽器に関しては大太鼓、小太鼓、シンバル、タンバリン、タムタム等とたくさんでてきますが、ワーグナーの影響を受けて彼が用いはじめる強大な編成とは一線を画するものとなっています。
また、楽曲構成についても当初は
「サルタンは女性はすべて不誠実で不貞であると信じ、結婚した王妃 を初夜のあとで殺すことを誓っていた。しかし、シェエラザードは夜毎興味深い話をサルタンに聞かせ、そのた めサルタンは彼女の首をはねることを一夜また一夜とのばした。 彼女は千一夜にわたって生き長らえついにサルタンにその残酷な誓いをすてさせたの である。」
との解説をスコアに付けて、それぞれの楽章にも分かりやすい標題をつけていました。
しかし、後にはこの作品を交響的作品として聞いてもらうことを望むようになり、当初つけられていた標題も破棄されました。
今も各楽章には標題がつけられていることが一般的ですが、そう言う経過からも分かるように、それらの標題やそれに付属する解説は作曲者自身が付けたものではありません。
そんなわけで、とにかく原典尊重の時代ですから、こういうあやしげな(?)標題も原作者の意志にそって破棄されるのかと思いきや、私が知る限りでは全てのCDにこの標題がつけられています。それはポリシーの不徹底と言うよりは、やはり標題音楽の分かりやすさが優先されると言うことなのでしょう。
抽象的な絶対音楽として聞いても十分に面白い作品だと思いますが、アラビアン・ナイトの物語として聞けばさらに面白さ倍増です。
まあその辺は聞き手の自由で、あまりうるさいことは言わずに聞きたいように聞けばよい、と言うことなのでしょう。そんなわけで、参考のためにあやしげな標題(?)も付けておきました。参考にしたい方は参考にして下さい。
- 第1楽章 「海とシンドバットの冒険」
- 第2楽章 「カランダール王子の物語」
- 第3楽章 「若き王子と王女」
- 第4楽章 「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」
オケというのは不思議な存在です
かつて、モントゥとサンフランシスコ交響楽団の50年代の録音を取り上げて以下のようにかいたことがあります。
モントゥーのことをかつて「プロ中のプロ」と書いたことがありました。
キャリアには恵まれず、客演活動が中心だったのですが、どのオケにいってもその指揮のテクニックだけで楽団員を信服させてしまい、「独裁せずに君臨する」と言われました。
そんなモントゥーにとって、唯一、手兵とも言えるオケだったのがサンフランシスコ交響楽団でした。
どんな経緯で、フランスからサンフランシスコに流れていったのかは分かりませんが、1935年から17年間にわたってモントゥーはこのオケの音楽監督をつとめています。そして、40年代から50年代にかけてRCAレーベルからこのコンビで40枚近いレコードをリリースしています。
ただし、この一連の録音を聞いてみると、これまたどういう経緯で、かくも多くの録音活動が行われたのだろう、と首をかしげざるを得ません。
何故ならば、40年代の録音を聞いてみると、やけに元気はいいもののかなり荒い演奏をしているからです。
もっと、はっきりと言えば、かなり下手くそなのです。
かくもへたくそなオケに対して天下のRCAレーベルが継続的に録音活動オファーしたというのは、ひとえにモントゥーの商品価値が高かったということなのでしょう。
モントゥは1935年から1953年までのおよそ20年近い歳月をサンフランシスコ交響楽団とすごします。そして、初期の録音を聞く限りでは、サンフランシスコ交響楽団は本当に田舎のオケで、「下手くそなオケ」であったことは否定できません。
昔は隣接権が50年だったので毎年新しくパブリック・ドメインに仲間入りする音源をフォローするのが精一杯で、初見で「下手くそ」と感じたような録音をあらためて聞き直すような余裕はありませんでした。しかし、隣接権の保護期間が50年から70年に延長されたことで、ようやくにして「過去」に目を向ける余裕が出てきました。
そんなわけで、ここ数日モントゥとサンフランシスコ響との40年代の録音をまとめて聞き為してみました。確かに、「やけに元気はいいもののかなり荒い演奏をしているからです。もっと、はっきりと言えば、かなり下手くそなのです。」という客観的評価が覆ることはありませんでした。しかし、かなり面白く聞くことができたことも申し述べておかなければなりません。
感じたことは以下の2点です。
まずは「やけに元気はいい」演奏という点なのですが、そこには地方の小さな田舎オケにRCAというメジャー・レーベルからの録音のオファーがあったことによる驚きと喜び、そして強い意気込みが溢れた結果だと言うことに気づかざるを得ませんでした。おそらく、彼らにとっては、喜びに満ちた時間であり、己の持てる力を最大限に発揮してモントゥの棒に応えようとしていることがひしひしと伝わってきます。
その姿勢はある意味ではアマチュアのオケが持っている情熱にどこか通ずるものがあります。
アマチュアのオケが情熱を込めて為し得た演奏は至らぬ部分が多々あっても、上手なオケがルーティンワークとしてキッチリと仕上げた演奏をはるかにうわ回る感銘を与えてくれることがあるのです。それとよく似た雰囲気が彼らの40年代の録音にも感じられます。
しかし、それだけではプロのオケとしてはいささか情けないと言うことになってしまいます。
二つめに指摘しておきたいのは、彼らの40年代の録音には指揮者であるモントゥが持つ「色香」のようなものが漂っていることです。
吉田秀和は「彼はまた『より美しい性』からもたっぷり愛され、彼自身も、女性たちやよい食事、よいワイン、そうしてよい音楽を存分に愛する人間に属していた」と書いていました。
そう言えば、ムラヴィンスキーは「アトモスフェア」と言うことを大事にしました。「アトモスフェア」とは日本語に翻訳しにくい言葉なのですが、ムラヴィンスキー的に言えば、取り上げる作品が決まった時点から己の生活をその作品が持つ世界に添うように染め上げてしまうことが大切だと言うことです。
つまりは己の生活をその作品世界に染み込ませ、その世界にオケもひたらせてしまう事こそが大切だと言うのです。
そして、モントゥという人は常に華やかな色香に溢れた人生をおくった人であり、その雰囲気が彼が指揮する全ての音楽に通底しているのです。
もしかしたら、40年代のサンフランシスコ響は下手くそ故にモントゥの棒にしがみつき、そのおかげでモントゥが持つ色香がよくあらわれているような気がするのです。
オケというのは不思議な存在です。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
5217 Rating: 5.5/10 (63 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)