Home|
マルティノン(Jean Martinon)|オッフェンバック:美しきエレーヌ
オッフェンバック:美しきエレーヌ
ジャン・マルティノン:ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年録音
Offenbach:La Bele Helene
オペレッタ形式の生みの親
オッフェンバックはフランスの作曲家のように思われていますが生まれはドイツのケルンです。
その後、チェロの勉強をするためにフランスに渡り、そのままフランスで指揮活動や作曲活動を行うようになりました。
1850年にはテアトル・フランセの指揮者になり、さらには1855年に自らブフ・パリジャンという小さな劇場を立ちあげます。その劇場はあまりにも手狭だったためその年の暮れにはテアトル・コントに小屋を移し、そこを拠点として自作のオペレッタなどを上演して絶大な人気を博すようになります。
1861年には、小屋の経営からは撤退して、自作オペレッタの指揮者としての活動に専念するようになり、世界各地を演奏旅行してまわるようになります。とりわけ、1876年に実施したアメリカ旅行は大成功をおさめています。
オッフェンバックがその生涯に作曲したオペレッタは102曲に及ぶと言われています。
とりわけ、「地獄のオルフェ(天国と地獄)」(1858年)、「うるわしのエレーヌ」(1864年)、「青ひげ」(1866年)、「パリの生活」(1866年)などは現在でもたびたび上演されています。また、「オペレッタ」という形式もオッフェンバックが確立したものであり、その後のヨハン・シュトラウスやスッペなどにに大きな影響を与えたことは言うまでもありません。
しかし、晩年はフランスでの一時の人気を失い、オッフェンバックにとっては唯一となるオペラ作品「ホフマン物語」で復活を期しますが、未完のまま1880年にこの世を去ります。このオペラはオッフェンバックがその持てる力の全てを注いだ作品だけに、その後多くの手が加えられて上演されるようになっています。
美しきエレーヌ
オッフェンバック作品の中では「地獄のオルフェ」と並んでもっとも有名な作品です。そして、ここでもオッフェンバックの批判精神は旺盛で、トロイア戦争の原因となったスパルタ王妃ヘレネの誘惑の話をもとに、当時の上流階級の放蕩や人妻の不倫を皮肉っています。
ですから、この作品は神話のパロディ化ではなくて、それの向こう側に堕落した第二帝政そのものをこき下ろしたものでした。ですから、この作品のエレーヌのモデルはナポレオン3世の皇后ウジェニーではないかと言われたりもしているようです。
それにしても、いろいろな場面で忖度だらけのこの国に、せめて「笑い」を持って挑む人がもっと表に出てきてもいいのになと思わされてしまいます。
序曲の音楽はロマンティックな雰囲気にあふれ、甘美なワルと突然に現れるギャロップの組み合わせが、いかにもオッフェンバックらしいお洒落な雰囲気を醸し出しています。
実に律儀に、そして真摯に音楽に取り組んでいる
ジャン・マルティノンと言う人の経歴を眺めてみれば、不運としか言いようがないほど「パブリック・ドメイン」と相性が悪いのです。
もとはヴァイオリン奏者として音楽家人生をはじめるのですが、40代の頃から本格的に指揮活動をはじめ、コンセール・ラムルー(1951-1957)やイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団(1957-1959)等の首席指揮者をつとめています。そして、この時期にDeccaでかなりまとまった録音を残しているのですが、それはメインのプログラムからはほど遠い「オッフェンバック序曲集」のような作品が大部分を占めていました。
つまりは、Deccaにしてみれば、誰もがやりたがらないようなカタログの穴を埋める「便利屋」のような扱いだったようです。
そう言えば、カルショーのあの分厚い自叙伝(レコードはまっすぐに)においても、マルティノンに関しては一言も言及していません。
その後フリーに転身して、1963年にシカゴ響の音楽監督に招かれるのですが、これが最悪の相性で「アメリカでの苦渋に満ちた時代は思い出したくない」と言わしめるほどでした。どうも、シカゴの街はクーベリックと言いマルティノンと言い、気に入らない指揮者には徹底的に嫌がらせをする街のようです。
そして、そんな思い出したくもないアメリカ時代から逃れるためにフランスに戻り、1968年からフランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任します。
おそらく、マルティノンの本領が発揮されるのはこの時以降だと思われるのですが、ご存知のように著作権法の改訂で1968年以降の録音がパブリック・ドメインになるのは2039年以降になってしまいました。
と言うことで、マルティノンの録音で紹介できるのは、言い方が悪いですが「便利屋」として使われていたDeccaでの録音がメインと言うことになってしまうのです。
ただし、そう言う扱いを受けていた時代の録音をまとめて聞いてみると、マルティノンは決して腐ることなく、実に律儀に、そして真摯に音楽に取り組んでいることがひしひしと伝わってきます。
マルティノンはいかにもフランス人らしい指揮者のひとりなのですが、決して情緒的なものに流されてしまう事を拒否して、細部に至るまでキッチリと仕上げることをオケに要求しています。そして、どういうわけか、あの怠け者のコンセルヴァトワールのオケでもそれを貫いているのです。
そして、それと同じ事が、彼の唯一のウィーンフィルとの録音である「悲愴」においても同様で、あの性悪なオケからごく自然にマルティノンらしい硬派で情緒に流されない「悲愴」を引きだしています。
それにしても、どういう手を使えば、ああいう性悪なオーケストラから自らがのぞむ音楽を引き出せるのでしょうか。何しろ、ショルティのような強権発動でねじ伏せたような様子は微塵もなく、オケ自らが望んだかのように自然に無理なく導いているのですから、まるでマジックのようです。
おそらくは、極めて紳士的であり、オケという者の特徴を知り尽くしていて、そしてこの上もなくクレバーで論理的な人だったのでしょう。
それにして、オッフェンバックの序曲などをこのように整然とした姿で聞かせたところで、それほど大きな評価を受けることはないでしょうに、それでも一切の手抜きをすることなく指揮をしているマルティノンの姿は尊敬に値します。
そして、そう言う指揮者がまさにこれからという1976年に亡くなってしまったのは実に残念なことです。
享年66歳でした。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
4924 Rating: 5.1/10 (39 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)