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スメタナ:「我が祖国(1)~高い城・モルダウ・シャールカ」

ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1958年4月3日~7日録音



Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [1.Vysehrad (The High Castle)]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [2.Vltava (Die Moldau)]

Smetana:Ma Vlast, JB 1:112 [3.Sarka]


「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」・・・?

スメタナの全作品の中では飛び抜けたポピュラリティを持っているだけでなく、クラシック音楽全体の中でも指折りの有名曲だといえます。ただし、その知名度は言うまでもなく第2曲の「モルダウ」に負うところが大きくて、それ以外の作品となると「聞いたことがない」という方も多いのではないでしょうか。
言ってみれば、「我が祖国」=「モルダウ」+「その他大勢」と言う数式が成り立ってしまうのがちょっと悲しい現実と言わざるをえません。
でも、全曲を一度じっくりと耳を傾けてもらえれば、モルダウ以外の作品も「その他大勢」と片づけてしまうわけにはいかないことを誰しもが納得していただけると思います。

組曲「我が祖国」は以下の6曲から成り立っています。しかし、「組曲」と言っても、全曲は冒頭にハープで演奏される「高い城」のテーマが何度も繰り返されて、それが緩やかに全体を統一しています。
ですから、この冒頭のテーマをしっかりと耳に刻み込んでおいて、それがどのようにして再現されるのかに耳を傾けてみるのも面白いかもしれません。

第1曲「高い城」

「高い城」とは普通名詞ではなくて「固有名詞」です。(^^;これはチェコの人なら誰しもが知っている「年代記」に登場する「王妃リブシェの予言」というものに登場し、言ってみればチェコの「聖地」とも言うべき場所になっています。ですから、このテーマが全曲を統一する核となっているのも当然と言えば当然だと言えます。

第2曲「モルダウ」

クラシック音楽なんぞに全く興味がない人でもそのメロディは知っていると言うほどの超有名曲です。
水源地の小さな水の滴りが大きな流れとなり、やがてその流れは聖地「高い城」の下を流れ去っていくという、極めて分かりやすい構成とその美しいメロディが人気の原因でしょう。

第3曲「シャールカ
これまたチェコの年代記にある女傑シャールカの物語をテーマにしています。シャールカが盗賊の一味を罠にかけてとらえるまでの顛末をドラマティックに描いているそうです。

第4曲「ボヘミアの森と草原より」
私はこの曲が大好きです。スメタナ自身も当初はこの曲で「我が祖国」の締めにしようと考えていたそうですが、それは十分に納得の出来る話です。
牧歌的なメロディを様々にアレンジしながら美しいボヘミアの森と草原を表現したこの作品は、聞きようによっては編み目の粗い情緒だけの音楽のように聞こえなくもありませんが、その美しさには抗しがたい魅力があります。

第5曲「ターボル」
これは歴史上有名な「フス戦争」をテーマにしたもので、「汝ら神の戦士たち」というコラールが素材として用いられています。
このコラールはフス派の戦士たちがテーマソングとしたもので、今のチェコ人にとっても涙を禁じ得ない音楽だそうです。ただし、これはあくまでも人からの受け売り。チェコに行ったこともないしチェコ人の友人もいないので真偽のほどは確かめたことはありません。(^^;
スメタナはこのコラールを部分的に素材として使いながら、最後にそれらを統合して壮大なクライマックスを作りあげています。

第6曲「ブラニーク」
ブラニークとは、チェコ中央に聳える聖なる山の名前で、この山には「聖ヴァーツラフとその騎士たちが眠り、そして祖国の危機に際して再び立ち上がる」という伝承があるそうです。
全体を締めくくるこの作品では前曲のコラールと高い城のテーマが効果的に使われて全体との統一感を保持しています。そして最後に「高い城」のテーマがかえってきて壮大なフィナーレを形作っていくのですが、それがあまりにも「見え見えでクサイ」と思っても、実際に耳にすると感動を禁じ得ないのは、スメタナの職人技のなせる事だと言わざるをえません。


なんだかうまくいかないなぁ

率直に言ってこの演奏はあまりうまくはいっていません。敢えて、そう言いきってしまいます。
クーベリックにとってこの作品は極めて大切な作品であり、十八番中の十八番と言ってもいい作品です。しかし、クーベリックによる「我が祖国」を聞くのならば、1990年のチェコ・フィルとの歴史的な演奏を聞くか、1971年のボストン響とのスタジオ録音(著作権法の改悪がなけれパブリック・ドメインになるはずだったのに)を聞くべきでしょう。

偏見かもしれませんが、どうも50年代のウィーンフィルというのは東欧系の音楽を軽く見ているのか、どうにも雑になってしまう傾向があるように思えます。「雑」というのが言いすぎであれば、ドイツ古典派の音楽に相対する時とは違って、かなり気楽に音楽と向き合ってしまう面は否定できないような気がします。

クーベリックという人はチェコの音楽に対して「民族の血」と言うよりは、「普遍性」を追求する人だったと思います。もちろん、その姿勢はどの音楽に対しても同様で、それ故に手兵のバイエルン放送響と録音したモーツァルトの後期交響曲やシューマンの交響曲の全集などは実に見事なものでした。
若い頃はかなり熱情を爆発させる人で、52年の「我が祖国」のシカゴ響とのマーキュリー録音などは凄まじい迫力で聞くものを圧倒していたものです。しかし、それは彼の指揮者人生で見ればごく一時のことで、50年代の中頃にはそう言う見てくれの「効果」よりは、作品が持っている本質的な側面をを掘り下げて、それを丁寧に表現することに軸足を置いていったように思えます。
人はそれを「中庸の美」といったのですが、いわゆる玄人好みの音楽家になっていいったわけです。
とは言え、そう言う熱情的な面は奥に潜んでいて、それが時に爆発するときがあるのはどこかセルにも似ています。

そこで、このウィーンフィルとの「我が祖国」です。
おそらく、ウィーンフィルにとっての「我が祖国」とはこんなものだったのでしょう。チェコの民族音楽なんだから、彼らはそれをそれらしく演奏しようとしたのです。しかし、そう言うウィーンフィルの方向性をクーベリック受け入れるれることが出来なかったはずです。
とは言え、未だ40歳を超えたばかりのクーベリックには、そんなウィーンフィルをたたき直して己の言い分を通すことは出来なかったようです。

確かに、ここには50年代のウィーンフィルらしい響きは収録されています。そのためでしょうか、この録音の初期LP盤はかなりの高値で取引されているようです。
しかし、聞き進んでいくうちに、音楽はどんどんメリハリのかけたどんちゃん騒ぎのようになっていきます。

果たして、これを紹介することはクーベリックにとってもウィーンフィルにとってもいいことなのかは悩んだのですが、ウィーンフィルを使った豪勢な村祭りと思えば楽しめないことはないかもしれません。
しかしながら、その背後で、「なんだか上手くいかないなぁ」とぼやきつつ指揮棒を振っているクーベリックの姿が見えるような気はします。
さらに言えば、クーベリックがウィーンフィルとのセッション録音に対してどこか乗り気ではなかったのかという気さえします。

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