クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




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マスカーニ:カヴァレリア・ルスティカーナ

セラフィン指揮 ミラノスカラ座管弦楽団&合唱団 S:カラス T:ステファノ 1953年録音



Mascagni:カヴァレリア・ルスティカーナ


ヴェリズモオペラの金字塔

舞台  19世紀後半のシシリー島の村
主な登場人物
  サントッツァ 村娘・トゥリッドゥの恋人
  トゥリッドゥ 村の若者・昔の恋人ローラとよりを戻す
  ルチア    トゥリッドゥの母親
  アルフィオ  ローラの夫・馬車屋を営む
  ローラ    アルフィオの妻・トゥリッドゥと恋仲になる

<前奏曲>
<ミルク色のシャツのように色白のローラよ>
とても美しい前奏曲で舞台が始まります。そして、その途中で舞台裏からトゥリッドゥが昔の恋人ローラへの思いを歌う声が聞こえてきます。

ローラはトゥリッドゥとの約束を破って、彼が兵隊に行っている間に村の有力者であるアルフィオに嫁いでいたのです。

<オレンジの花は香り>
幕が上がるとそこはシチリア島のとある村の復活祭の朝です。そう、この物語は復活祭の一日の物語なのです。理不尽で何ともいえない虚しさしか残らないようなこの物語を彩るフレームは、それ故なのかとても美しい音楽によって形作られています。
村人達が次々と広場に集まり、春の自然を讃えながら教会の中に入っていく最初のシーンの音楽もとても美しいものです。

人々が去った後に村娘サントッツァが現れます。サントッツァはローラに裏切られたトゥリッドゥが、一時の気まぐれで誘った女性です。しかし、サントッツァはトゥリッドゥの事を心の底から愛しています。
サントッツァは恋人のトゥリッドゥの居場所を居酒屋の女将である彼の母親のルチアに尋ねます。彼女は、息子は酒の仕入れに行っているので今はここに居ないと曖昧に答えるのですが、実はかつての恋人であるローラとのよりが戻って密会をしていることを薄々感じ取っていたのでそのような曖昧な言い方をしたのでした。
ローラという女性は、このオペラの中では一つのアリアも割り当てられていないと言うことでは全くの端役なのですが、捨てた男に別の恋人が出来たと見るや急に誘惑をしてこの悲劇の種をまくという意味では役者としては重要な役回りだといえます。でも、男でも女でもこういう奴っていますよね。そして、トゥリッドゥ自身も、本当にローラを愛していたのかどうかも不確かで、表面的なローラへの執心も、実は彼女がアルフィオの妻になったためだという見方もできます。そうしてみると、この二人は実に似たもの同士だと言えるのかもしれません。

<駒は勇んで>
それに対してサントッツァの愛は真剣です。彼女の胸にトゥリッドゥに対する疑惑が広がる中へ馬車屋のアルフィオが鈴を響かせて登場します。
ここはアルフィオの見せ場で、こわっぱのトゥリッドゥなどはどうあがいても勝ち目のないことを観客に納得させる粗野な強さが必要です。

彼はルチアにいつもの酒を注文しながら、お前の息子のアルフィオを家の近くで見かけたのだがと語ります。その言葉にルチアもトゥリッドゥとローラの密会を確信し、そのことが表沙汰になったときにどのような事態を引き起こすのかを悟って愕然とします。そして、取り乱したルチアがアルフィオに何か言いかけようとするのをサントッツァはあわててさえぎります。
教会から祈りの声が聞こえ、村人達が教会に入ってしまいます。

<ママも知るとおり> 
そして、サントッツァはルチアに、兵役から戻ったトゥリッドゥは昔の恋人で今はアルフィオの妻であるローラとよりを戻し、自分は捨てられたと苦しい胸の内を激しく訴えかけます。
ここは、サントッツァ最大の聞かせどころです。最初は慎ましく己の不幸を訴えながら、次第次第に激情にかられて女の弱さをぶちまけなければなりません。「道化師」の「衣装をつけろ」に匹敵する名アリアであり、同時に歌役者としての能力が問われる場面でもあります。

ルチアはどうしていいか分からなくなりながらも、とにかくサントッツァの為に祈りを捧げようと教会に入ります。

<サントッツァ、ここにいたのか>
そんな絶望的な状態の中に取り残されたサントッツァの前にトゥリッドゥが通りかかります。彼女は激しい怒りと嫉妬から彼を責め立てますが、彼は全く取り合おうとしません。そんな修羅場のまっただ中にローラが陽気に登場します。二人の緊迫したやりとりの間に、ローラの脳天気な音楽ははさみこまれるこの場面は、何ともいえないシュールな雰囲気を漂わせ、人生の悲喜劇をものの見事にあぶり出す名場面です。

「ミサは 罪のない人が行くところよ」
サントゥッツァの言葉に ローラは臆面もなく答えます
「私には罪がないから 教会へ行って主に感謝してくるわ」

怒りに燃え上がるサントッツァを持て余したトゥリッドゥはついに取りすがる彼女を突き飛ばして、ローラと共に教会へ行ってしまいます。サントッツァが激しい怒りで「お前なんかには、呪われた復活祭になればいい。」と叫ぶと音楽は不気味に暗転します。

<ああ、神様があなたをよこして下さったんだわ>
そして、呪いの言葉を吐いている所へアルフィオが現れると、彼女は怒りと嫉妬にまかせてローラとトゥリッドゥの関係を話してしまいます。妻の不倫を聞いたアルフィオは、最初は疑いながらもやがては自分の置かれている状況を理解した彼はアルフィオは復讐を誓います。その事の成り行きに驚いたサントッツァは自分の行動がいかに軽はずみなものだったかをその時になって初めて気づくのですが、時はすでに遅く、復讐を誓うアルフィオの後ろ姿を見ながら絶望してその場に倒れてしまいます。(イタオペではソプラノのヒロインはよくその場に倒れるのです・・・^^;)

<間奏曲>
切なくも美しく、そして情熱的な旋律が何度も繰り返されながら、次第に盛り上がり、そして最後は再び静かに消え去っていく「間奏曲」は、このオペラの中ではどのアリアよりも有名かもしれません。
昔、浅田次郎と猫の交流を描いた長編CM(マルハペットフードの「民子」のCM)で実に効果的に使われていました。「泣かせの次郎」の面目躍如たるCMで、「女達の顔は皆忘れても、民子ひとりが忘れられない」に涙した人も多かったのではないでしょうか。・・・閑話休題(^^;

<キラキラ光るコップに泡立つ葡萄酒に栄えあれ>
ミサが終わって教会から出てきた村人達は、家路に着く前に一杯飲もうとルチアの店に立ち寄ります。トゥリッドゥは威勢良く乾杯の音頭をとると、村人全員もそれに呼応して合唱をします。

<皆さん。こんにちは>
皆が賑やかに騒いでいる所にアルフィオが登場します。トゥリッドゥは皆と同じように杯を差し出しますが、拒彼はそれを冷たく拒絶し口論が始まります。ると、その余りの重苦しい雰囲気に女達はローラを連れて立ち去ります。
さすがに、この事態に全てを察したトゥリッドゥはアルフィオの決闘の申し出を受け入れます。アルフィオは裏の葡萄畑で待っていると告げてその場を立ち去ります。

<母さん、この酒は強いね>
トゥリッドゥは酒をあおって母親を呼び、酔ったふりをしてそれとなく彼女に別れを告げ、自分が死んだらサントッツァの面倒を見てくれるよう頼みます。そして彼は絶望的な気持ちで決闘場の方へ走り去っていくのです。
このアリアはトゥリッドゥの最大に聞かせどころだといえます。
一人前の男になり切れていないトゥリッドゥの「弱さ」をさらさなければいけません。力もないくせに、その場の成り行きといきがりでとんでもない事態を引き起こし、今度はその起こした事態への責任を突きつけられたときに「ママ」と叫んでしまう若い男の「弱さ」を演じなければなりません。しかし、やがては感情が激してくるにつれて、「どうにでもなれ」という自暴自棄に陥って決闘の場にかけだしていく「弱さ」も演じなければなりません。
これもまた、歌役者としての能力が問われる難しいアリアです。

事態が正確に理解できず、それでも大変なことが起こりそうなことを予感して半狂乱に陥ったルチアは駆け込んできたたサントッツァと抱きあいます。
そして、一瞬の静寂をはさんで鋭い悲鳴が聞こえ、一人の女が「トゥリッドゥが殺された!」と遠くから叫びながら駆け込んできます。恐怖の叫び声の中、静かに幕が降ります。


歌役者カラスの魅力が存分に発揮された録音

セラフィンにはステレオ録音で残された新盤があって、一般的にはそちらの方がこのオペラの決定盤扱いになっています。
しかし、サントッツァ役にカラスを、トゥリッドゥ役にステファノを配置したこの録音は、この不世出の歌役者の魅力が味わえるという点では、その価値は未だに大きいと言わざるを得ません。特に、カラスの演じたサントッツァは、女の弱さを遺憾なく発揮した歌い回しで、彼女の後半生を知る私たちにとってはいささか胸が詰まるような思いにさせられます。
「お前なんかには、呪われた復活祭になればいい。」と呪いの言葉を叫ぶときに、彼女は後の己の人生を想像もしなかったでしょうが・・・。

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