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リスト:ファウスト交響曲

アタウルフォ・アルヘンタ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1955年6月10日~11日&13日~14日録音



Liszt:Faust Symphony, S.108 [1.Faust]

Liszt:Faust Symphony, S.108 [2.Gretchen]

Liszt:Faust Symphony, S.108 [3.Mephistopheles]


構想から最終的な完成まで40年近い歳月を要した

一般的には「ファウスト交響曲」と呼ばれる作品ですが、正式には「3人の人物描写によるファウスト交響曲」と名づけられています。
その3人というのは言うまでもなく、ゲーテの戯曲「ファウスト」に登場する主たる人物である「ファウスト」とそのかつての恋人である「グレートヒェン」、そして悪魔の「メフィストフェレス」です。

リストは、ゲーテの戯曲をベルリオーズから紹介されすっかり魅了されてしまいます。そして、その作品をテーマとした作品の構想を練りはじめるのですが最初はなかなか自信が持てずに筆は進まなかったようです。そんなリストの背中を押したのもまたベルリオーズでした。
1852年にベルリオーズから「ファウストの劫罰」を献呈され、1854年に一気にこの作品を書きあげます。しかし、その出来に満足できなかったリストはヴァイマルのオーケストラを使って試行錯誤を繰り返し、金管楽器や打楽器、ハープ等を追加して規模を拡大し、1857年にはさらには合唱も付け加えていきます。
そして、1857年の9月5日に初演にまでこぎ着けて大成功し、その作品はベルリオーズに献呈されます。

しかし、それでもリストは満足できなかったようで、その後もオケの編成を拡大し、細かい部分に手を加え続けて、漸く1880年に最終稿を仕上げます。
ブラームスの交響曲1番は「構想20年」と言われるのですが、リストのこの作品は構想から最終的な完成まで40年近い歳月を要しています。
なお、この作品は合唱なしの第1稿と、合唱ありの第2稿があります。

作品は、ゲーテの戯曲の筋を追うものではなくて、タイトルにもあるように3人の人物描写を行ったものです。
ファウストを描いた第1楽章は真理を熱望するファウストの姿が5つの部分に分けて表現されています。
沈思瞑想にふけり、懐疑し煩悶するファウストの姿、情熱的で闘争的なファウスト、そして愛に対する欲求、自然と人生の愛を歌うファウストの姿が示され、最後はファウストの英雄的な姿が金管が鳴り響く壮大な音楽として表現されます。

第2楽章はファウストのかつての恋人だったグレートヒェンが描かれ、彼女の愛らしく、いじらしい性格が描写されています。

そして最後の楽章では悪魔メフィストフェレスの人間を全否定する姿が描かれます。
彼は、人間性を拒み、卑しめ、そして破壊します。その姿はファウストの主題をパロディ化したもので、その不気味でグロテスクな音楽はまさにメフィストフェレスそのものです。
そして第2稿の合唱ありのヴァージョンではこの後に「神秘の合唱」と呼ばれるものが登場し、天の神が悪に打ち勝って暗黒から光が差し込んで、大団円を迎えるという形で締めくくられます。
このハッピー・エンドが気にくわない人はこの「神秘の合唱」を含まない第1稿を使うようです。



解像度の高いバランスの良い響き

この録音はステレオ黎明期における優秀録音としても有名です。
ステレオ録音の黎明期というのは基本的にワンポイント録音でした。Deccaであれば、「Decca Tree」と呼ばれた3本のマイクだけで録音されました。後のマルチマイク録音のようにオケの中にマイクを林立させて録音すれば、録音が終わってからでも編集が可能ですが、ワンポイント録音であればそう言うことはほとんど不可能です。

つまりは、そこで鳴っている音が全てであり、楽器間のバランスを調整するなどと言うことは不可能なのです。
ですから、ここで聞くことのできる解像度の高いバランスの良い響きはまさにアルヘンタの力量を示したものだと言えます。そして、それはモノラル録音の時代から「録音」という行為の重要性をはっきりと認識し、そのクオリティにも強い関心を寄せていたというアルヘンタの先見性も大きな役割をはたしています。

しかし、そんなアルヘンタに苦言を呈していた人物がいました。それが、Deccaの名物プロデューサーだったカルショーです。
カルショーはアルヘンタの指揮者としての素晴らしい能力は認めながら、リハーサルで喋りすぎるという「指揮者としては地名的な欠点」を持っていて、それをなかなか是正することが出来なかったと述べています。
そして、ショルティもまたそれと同じような弊害を持っていると懸念したカルショーはこっそりとリハーサルの様子を録音し、それをショルティに聞かせました。普通ならば人間関係が崩れかねない行為ですが、ショルティのカルショーへの信頼は熱かったようで、その録音を聞いて己の欠点をすぐに理解したようです。

確かに、オケのメンバーにとって長々と説教や演説を聴かされるほどウンザリすることはありません。おそらく、言いたいことがあるならばそれを指揮棒で示せと言いたいでしょう。
しかし、アルヘンタは自分が理想とする響きが出るまで、リハーサルで細かいことを細々と指示し続けたようなのです。そして、その結果としてこのようなバランスの取れた素晴らしい響きが実現しているならばそれでいいではないかと思うのですが、彼が大病をした後に復活した後の録音は様子が一変していました。

そこではオーケストラは喜びを持って音楽にのめり込み、高い自発性を持ってアルヘンタの指揮に付きしたがっている様子がまざまざと窺えました。
それと比べると、これは決して悪い演奏とは思わないのですが、音楽に躍動するような自発性は希薄です。
そう考えれば、カルショーが是正不可能と言った大きな壁を乗りこえ、新しい一歩を踏み出したアルヘンタの姿が1957年以降の録音には刻み込まれていました。
それだけに、つまらぬ事故で1958年にわずか44才でなくなったことは無念と言うしかありません。

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