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エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品38

(Cello)ベアトリス・ハリソン:エドワード・エルガー指揮 ロンドン交響楽団 1928年3月23日録音



Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [1.Adagio; Moderato - 2.Lento; Allegro molto]

Elgar:Cello Concerto in E minor ,Op.38 [3.Adagio - 4.Allegro]


意外と評価が低い作品なのでしょうか?・・・、不思議です。

レコード芸術という雑誌があります。私は購読しなくなって随分な日が経つのですが、一応クラシック音楽を聴く人間にとっては定番のような雑誌です。その定番の雑誌の定番とも言うべき企画がベストレコードの選出です。20世紀が終わろうかと言うときには、誰もが想像するとおりに20世紀のベストレコードの選出を行っています。その時の企画が一冊の本となって出ているのですが、選出の対象となった300の作品の中にこの協奏曲はノミネートされていません。

エルガーの作品でノミネートされているのは驚くなかれ「威風堂々」だけです。これでは、エルガーはマーチの作曲家だったと誤解されても仕方がありません。
チェロによる協奏曲と言うことでは、おそらくドヴォルザークのものと並び立つ最高傑作だと思うのですが、残念ながら無視をされています。
それは同時に、日本におけるエルガー評価の反映なのかもしれません。

それはエルガーに限ったことではなく、同時代のイギリスを代表するディーリアスになるとノミネートすらされていませんから、日本におけるイギリス音楽の不人気ぶりは際だっています。おそらくその一番大きな原因は、にこりともしない晦渋さにあるのでしょうね。
どこかで聞いたエピソードですが、エルガーの作品は退屈だという意見には不満を感じるイギリス人も、ディーリアスになると他国の人間には分かってもらえないだろうなと諦めてしまうそうです。

しかし、あらためてこのエルガーのチェロ協奏曲を聴いてみると、冒頭のチェロのメロディは実に魅力的です。ドヴォルザークならこれに続いてどんどん魅力的な歌を聞かせてサービス満点の作品に仕上げてくれるのですが、エルガーの場合はその後はいつものイギリス風に戻ってしまいます。しかし、ある種の晦渋さと背中合わせになっているそのような渋さが、聞き込むほどに良くなってくるという意味で「大人の音楽」と言えるのかもしれません。

なお、この作品を完成させた翌年に彼を生涯にわたって支え続けてきた妻を亡くすのですが、その打撃はエルガーから創作意欲を奪ってしまいます。その後の15年間で数えるほどの作品しか残していませんから、この協奏曲は実質的にはエルガーの最晩年の作品といえます。


余計なことは不必要

調べてみるとエルガーは意外とたくさんの自作品の録音を残しています。「生誕150周年記念 エルガー自作自演集」なるものが2007年に発売されていて、それはCD11枚セットなのですから驚いてしまいます。
残念ながらすでに廃盤となっているようで中古盤を探すしかないようですが、さすがに2007年の頃は今ほどヒストリカル音源には注目していなかったので、そこまでは手が回っていませんでした。ただし、どういう風の吹きまわしだったのか、コロナ禍で暇が出来たこともあってアナログのレコードやCDを整理していると、一枚だけエルガーの自作自演のCDが出てきました。
収録されているのは以下の2曲なので、悪くありません。

  1. エルガー:交響曲第2番 変ホ長調, Op.63:エルガー指揮 ロンドン交響楽団 1927年4月1日&7月12日録音

  2. エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85:(Cello)ベアトリス・ハリソン:エルガー指揮 ロンドン交響楽団 1928年3月23日録音


録音は当然の事ながらかなり古いのですが、音質は驚くほどいい状態です。歴史的価値がある故に無理をしてでも聞き通すというレベルではなくて、エルガーという作曲家自身の演奏を純粋に楽しめるクオリティを持っています。
ベアトリス・ハリソンというチェリストについても全く知るところのない演奏家だったのですが、イギリスではディーリアス作品のスペシャリストとしてよく知られていて、彼の作品の初演を数多く手がけているチェリストだったようです。また、ベアトリス・ハリソンと言えば、彼女がオクステッドの自宅の庭に腰かけてチェロを演奏すると、集まったナイチンゲールが彼女の演奏と同時に歌うというラジオ放送でも有名です。

The cello and the nightingale


そんなハリソンとエルガーの結びつきを作る切っ掛けとなったのが、1919年の初演の大失敗です。それはかなり酷かったようで、「オーケストラは惨めな姿を大衆にさらした」と酷評されました。しかし、その大失敗の中で奮闘したのがソリストのフェリックス・サルモンドで、後にエルガーは「もしサモンドが精力的に準備してきていなかったならば、自分はこの曲を2度と演奏会に出さなかっただろう」と述べています。
ただし、初演を担当したロンドン響の名誉のために付け加えておくと、同じ日に初演されたアルバート・コーツが自作演奏のために大部分のリハーサル時間を費やしてしまい、エルガーの作品はほとんど練習できなかったことは付け加えておきましょう。

さらに、どうでもいいことですが、この初演の時にオーケストラのチェロ・パートにバルビローリもいたようです。
と言うわけで、実にイギリスの音楽史を考える上ではいろいろな意味で興味深い初演だったようです。

そして、そう言う失敗の中でエルガーが目をつけたのがディーリアス作品のスペシャリストとして知られていたベアトリス・ハリソンだったのです。

実際この1928年の録音はこの作品の世界初録音なのですが、それに先立つ1919年の短縮版による初録音でもエルガーはハリソンを起用しています。そして、エルガーは彼女以外のチェリストとは共演しなかったようです。

1920年の世界初録音の風景

しかしながら、この録音の直線的な造形を聞いていると、もしもエルガーが後のデュ・プレの演奏を聞けば(そう言えば、指揮者はバルビローリでした。なんたる因縁!!)なんと思ったことかと妄想してしまいます。
「オレの作品って、こんなにも深い情念に溢れた情熱的な作品だったのか」と惚れ直すのか、それとも、「えーい、余計な表情づけばかりしやがって、いらんことをすんじゃねえ!」とぼやいたでしょうか。もっとも、「サー」の称号をもらった人物がそんな下品な物言いはしないと思うのですが(^^;、どうも作曲家の自作自演というのはリヒャルト・シュトラウスにしてもストラヴィンスキーにしても、必要なことは全て楽譜に書いてあるんだから余計なことはしないというスタンスを取ることが多いようです。

それは、エルガーの場合も同様で交響曲第2番でも実にザッハリヒカイトな演奏になっています。
もちろん、1927年にザッハリヒカイト等という演奏様式は存在しなかったのですから、そう言う言い方は正確性に欠けますね。しかしながら、作曲家が自作を演奏すれば、基本的にはそう言う演奏スタイルになると言うことです。
そして、それは結果的にザッハリヒカイトになるのと、意識してザッハリヒカイトになるのとでは似ては非なるものであって、前者のような演奏は聞き手にとってはどこか不満が残るものです。

しかしながら、協奏曲の場合はソリストの言い分もありますから、チェロ協奏曲の方はそれが上手く組み合わさって実にいい感じに仕上がっています。ナイチンゲールと共演するなどと言う無茶なことをやらされるあたりは昨今の芸人を思わせる部分もあるのですが、ベアトリス・ハリソンなるチェリスト、なかなかただ者ではなかったようです。

偶然かもしれませんが、エルガーのチェロ協奏曲は女性との相性がいいのかもしれません。

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