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グリンカ:カマリンスカヤ

ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1958年3月18日録音



Glinka:Kamarinskaya


ロシアの民族主義的な芸術音楽創造の狼煙

ロシアの婚礼の音楽である「高い山から」と舞曲「カマリンスカヤ」の2曲から素材を得て作曲された作品で、これがロシアの民族的旋律を使って書かれた一番最初の管弦楽曲だと言われています。そして、面白いのは、グリンカがこの作品に取り組む切っ掛けを与えたのはスペイン旅行で出会った「スペイン音楽」をもとに「スペイン序曲」を作曲したことです。

つまりは、スペインの民族的旋律を使って管弦楽曲が書けたんだから、ロシアの民族的旋律を使っても同じようなものが作れるだろうとの自信を得たのです。
時代的に「スペイン風」の音楽が人気を集めるのは少し先のことになるのですが、ヨーロッパの人間にとって「スペイン」というのは自分たちの世界とは違った不思議なインスピレーションを与える文化を持った土地だったのでしょう。

最初は荘重な序奏に続いて「高い山から」に基づいた婚礼の音楽が弦楽器で演奏されます。そして、そこに次々と新しい楽器が加わって盛り上がっていくと、短いつなぎを経て「カマリンスカヤ」が始まります。
この部分は「カマリンスカヤ」からとられたわずか3小節の旋律が様々な伴奏にのって姿を変えていきます。もちろん、その旋律は多少は変化するのですが、この同一旋律を反復しながら伴奏音型を変えるという手法はその後のロシアの作曲も多用した手法です。

そして、この音楽がロシアの民族主義的な芸術音楽創造の狼煙となったのです。


完璧なオーケストラ・バランス

こういう一連のロシア音楽演奏を聞かされると、スタインバーグというのは実に不思議な指揮者だと思わざるを得ません。
おそらく、これほどスラブの重みというか、憂愁というか、そう言うものと縁遠い演奏は他には思い当たりません。もっとも、そう言う中にあってチャイコフスキーの「イタリア奇想曲」のように「直線路などは存在しない」と言わんばかりの曲がりくねった演奏を展開したりするときもあるのですが、それでもその曲線路はスラブの憂愁とは異なります。

それ故にか、スタインバーグは「職人的指揮者」として認識され、手堅く作品をまとめるけれども聞くものの胸に迫ってくるものがないなどとも言われたりします。
しかし、こういうロシアの小品をまとめて聞いてみると、「手堅い」という言葉ではすまされないほどに、オーケストラの響きが完璧にコントロールされていることに気づかされます。

録音がワンポイントからマルチになることによって、オーケストラの各楽器の音量バランスは録音が終わってからのエンジニアの仕事みたいな雰囲気が一般化しました。
考えてみればふざけた話で、その結果として録音と実演とでは随分と雰囲気が変わっていて、そのある意味での「雑さ」みたいなものを「ライブゆえの熱気」みたいな言葉に変換して恥じない指揮者も少なくないのは否定しようのない事実です。

それで思い出すのは、アンセルメとスイス・ロマンド管との演奏です。
アンセルメは非常に耳のいい指揮者で、オーケストラのバランスと言うことに関しては完璧にコントロールする能力を持っていました。ところが、初来日の時の演奏はそう言う録音で聞くことのできる演奏とはかけ離れものだったので、あの素晴らしい響きはDeccaの録音マジックだったと誤解されて一気にその評価を下げてしまいました。

しかしながら、来日公演がアンセルメにとっては亡くなる直前の最悪の状態での演奏であり、衰える前のアンセルメのバランス能力の高さにはDeccaのカルショーは太鼓判を押していました。ですから、そう言う前評判に惑わされることなく、衰えたアンセルメの実演に「駄目出し」をした当時の日本の聴衆の耳は確かだったと言えます。
ボロボロの演奏であるにもかかわらず、演奏家がビッグ・ネームであるがゆえに「ブラボー」を叫んでいる昨今の聴衆よりははるかに聞く耳を持っていたと言うことです。

そして、このスタインバーグもまた、オーケストラをコントロールしてバランスを保持するのは録音エンジニアではなくて指揮者の仕事であると確信していた一人だったのです。ただし、そのバランスが常に明るめの方向を向いているので、良く言えば明るく健康的、悪く言えば「脳天気なアメリカン・サウンド」という事にはなります。

しかし、暗い情念よりはどこか明るく爽やかな雰囲気でロシア音楽が完璧に鳴り響いているというのもまた一興ではないでしょうか。
そして、彼が率いたピッツバーグ響の事をアメリカの二流オーケストラという人もいるのですが、それもまたあまりにも聞く耳がないと言わざるを得ません。
何しろ、これは録音が終わってからエンジニアがいじり回してバランスをとったものではないのですから、その実力は素直に評価されるべきでしょう。

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