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ベートーベン:ピアノ・ソナタ第25番 ト長調 Op.79

(P)ヴィルヘルム・バックハウス 1963年11月録音

Beethoven:Piano Sonata No.25 in G major, Op.79 [1.Presto alla tedesca]

Beethoven:Piano Sonata No.25 in G major, Op.79 [2.Andante]

Beethoven:Piano Sonata No.25 in G major, Op.79 [3.Vivace]


ト長調には「やさしいソナタ」もしくは「ソナチネ」とつけてください

この作品は1810年にはじめて出版されたときには「ソナチネ」というタイトルがついていました。規模も小さく、演奏もそれほど困難ではないので、作品49の2つのソナタのように、これも初期作品ではないのかと推測された時期もあったようです。
しかし、作品78の「テレーゼ・ソナタ」と同じ年のスケッチブックにこの作品の主題が書かれていることが分かり、この二つのソナタはともに1809年に作曲されたことは間違いないことが分かっています。

また、初版譜につけられた「ソナチネ」というタイトルも、ベートーベン自身が次のように出版社(プライトコプフ)に書き送っていることに由来するようです。

ソナタ2曲は別々に出版していただきたい。もし一緒に出すのならば、ト長調には「やさしいソナタ」もしくは「ソナチネ」とつけてください。


と言うことで、このやさしいト長調のソナタは優美な「テレーゼ・ソナタ」と姉妹作と言うことになります。

第1楽章は明らかにワルツの前身となるレントラーを発展させた舞曲風の音楽になっています。
この形式の音楽は18世紀末には「アルマンド」と呼ばれていたのですが、ベートーベンはそれを「alla tedesca(ドイツの踊り)」と名づけています。

また、展開部にはいると田園的な雰囲気の中でカッコーの鳴き声のような音型が聞こえてくるので「カッコー・ソナタ」とも呼ばれることがありました。

第2楽章は舟歌であり、わずか34小節のこの楽章はロマン派のピアノ小品を連想させます。
このAndante楽章は二人のソプラノによる二重唱のようであり、イタリア歌曲の様式を下敷きにしてるようです。

Vivaceの最終楽章はベートーベンの最初期の作品を思い出させる音楽になっています。シンプルなロンド形式の音楽であり、クレッシェンドの後の短い和音の繰り返しで終わるのもユーモアに満ちています。


  1. 第1楽章:Presto alla tedesca ト長調

  2. 第2楽章:Andante ト短調

  3. 第3楽章:Vivace ト長調




淡々と流れ行く音楽のエネルギーの底に、何か静かな瞑想的な静けさを感じます

バックハウスのステレオ録音によるソナタ全集はその全てがパブリック・ドメインになることははるか彼方に遠のいてしまいました。しかし、すでにパブリックドメインとなっている音源で18番と25番が未収録だったことに気づきました。
落ち穂拾いです。


ネット上を散見すると、外国ではバックハウスの録音は次々とカタログから消えて過去の人になっているので、彼のことを持ち上げるのは日本だけだという論調をよく見かけます。
カタログから消えているから「過去の人」というのは明らかに短絡的に過ぎますし、それよりも自分の価値判断の根拠を他者にゆだねて平気な立ち位置には疑問を感じます。

ただし、「外国」ではこうだから「日本」もかくあるべしと言う「論」が未だに生き残っていることにはいささか軽い「感動」を覚えました。

よく知られてるいるように、バックハウスは1950年から1954年にかけてベートーベンのピアノソナタを全曲録音しています。さらに、1958年から彼の亡くなる年である1969年にかけてもう一度「ほぼ全曲」録音をしています。「ほぼ」全曲というのは、作品106の変ロ長調ソナタだけは再録音できなかったので、それだけはモノラル時代の録音で代用して「全集」としたからです。

こういう風に、50年代から60年代にかけて録音の形態がモノラルからステレオに移行したことで、レーベルの意向も働いて再録音されるケースがよくあります。
ベートーベンのピアノソナタで言えば、バックハウスと並び称されたケンプなどもモノラルとステレオで二回全集を完成させています。

そして、こういうケースの場合は、2回目のステレオ録音の方が衰えが感じられて、あまりよろしくない結果になっていることが多いです。

考えてみれば、バックハウスが2回目の録音に着手した時は既に70歳を超えていました。正確に言えば、74歳から85歳にかけて録音されたことになります。
ちなみに、モノラル録音の方も64歳から68歳にかけての録音ですから、どちらにしても脂ののりきった全盛期の録音と言うには躊躇いを感じます。

指揮者と違って自分で音を出さないといけない演奏家というのは、肉体的衰えはそのまま音楽的な衰えに結びつかざるを得ません。
自分の肉体そのものが楽器である歌手ほどには影響は深刻ではなくても、それでも筋力の衰えはピアニストにとっては無視できないハンデとなります。

バックハウスは長生きをして、最後まで現役のピアニストとして活動しました。
しかし、調べてみると、あのシュナーベルよりも3歳若いだけですし、あの伝説の指揮者であるニキシュとも共演しているのです。

それに較べれば、ケンプの2回目のステレオ録音は1964年から65年にかけて一気に為されてるのですが、その時ケンプは69歳から70歳にかけての仕事でした。
モノラル録音の方は51年から56年にかけての仕事なのですが、大部分は51年に録音されているので、実質的には55歳の時の仕事だと考えていいでしょう。

55歳!!
まさに脂ののりきった全盛期の仕事と言っていいでしょう。

その意味で言えば、バックハウスはその様な録音の恩恵にあずかるには、いささか早く生まれすぎたと言えます。(ちなみに彼はフルトヴェングラーよりも1歳年長です。)

ステレオによる録音は以下のような順番で行われています。

[1958年]

第8番 ハ短調『悲愴』/第14番 嬰ハ短調『月光』/第21番 ハ長調『ヴァルトシュタイン』/第23番 ヘ短調『熱情』

おそらくこの年の録音は、ステレオ録音による全集の開始というのではなく、レーベルの強い意向で売れ筋の有名曲をステレオで録音しましょう、みたいなノリで始まったのではないかと想像されます。まあ、何の根拠もありませんが。(^^

[1961年]

第15番 ニ長調『田園』/第26番 変ホ長調『告別』/第30番 ホ長調/第32番 ハ短調

[1963年]

第1番 ヘ短調/第5番 ハ短調/第6番 ヘ長調/第7番 ニ長調/第12番 変イ長調『葬送』/第17番 ニ短調『テンペスト』/第18番 変ホ長調/第25番 ト長調『かっこう』/第28番 イ長調/第31番 変イ長調

あまりメジャーとは言えない作品10の3曲が録音されていますので、このあたりで全集の完成を視野に入れはじめたのかもしれません。
しかし、注目すべきは、63年に録音された演奏の大部分は63年にリリースされているのに、「第25番 ト長調『かっこう』」と「第31番 変イ長調」だけは67年になってはじめてリリースされていることです。
その理由は実際に聞いてみればすぐに了解できます。演奏は不安定で指のもつれも垣間見られます。

おそらくバックハウス自身は録音をやり直したかったのだと思います。しかし、その時間と根気はバックハウスには残されていなかったと言うことなのでしょう。おそらく、最後はレーベルに押し切られて渋々リリースとなったものと思われます。

[1966年]

第4番 変ホ長調

自分の衰えを感じながらも、初期ソナタの中の異形とも言うべきこの作品だけは残したかったのかもしれません。

[1968年]

第2番 イ長調/第9番 ホ長調/第10番 ト長調/第11番 変ロ長調/第19番 ト短調/第20番 ト長調

[1969年]

第3番 ハ長調/第13番 変ホ長調『幻想曲風ソナタ』/第16番 ト長調/第22番 ヘ長調/ 第24番 嬰ヘ長調『テレーゼ』/ 第27番 ホ短調

そして、何かにせき立てられるかのように、最後の2年間に12曲もの録音が行われ、第29番 変ロ長調『ハンマークラヴィーア』だけが残されることになります。

確かチャールズ・ローゼンの言葉だと思うのですが、ベートーベンの音楽は他の作曲家と較べるとより強い傾注を要求します。そして、その様な傾注を通して読み取った音楽の形を現実の音に変換するためには確かなテクニックが絶対に必要です。
つまりは、ベートーベンだからと言って、深い精神性だけでは音楽にはならないのです。

当たり前の話ですが、心身共に脂ののりきった状態でなければ、音楽に対して一切の妥協を許さなかったベートーベンの音楽を再現することは不可能なのです。

その意味で言えば、死の直前の68年から69年にかけて行われた録音だけでなく、一番最初の58年の録音においても、明らかにバックハウスは衰えています。
さらに言えば、録音が良くなったことで内部の見通しが良くなり、バックハウスが何をやっていて、何ができていないのかもよく分かるようになってしまいました。

バックハウスは明らかに、一定のテンポを強靱に維持し続けるのが難しくなってきています。もちろん、それは「歌う」事に足下を救われていると言うのではないのですが、モノラル録音から感じられた強靱さは影を潜めています。
また、その外にも一例を挙げれば、バス声部のトリルなども随分と不明瞭になって他の声部の中に埋没しかける場面が増えてきます。
こういう部分は、ベートーベン時代のピアノであるならばそれほど困難ではないのですが、現在のコンサート・グランドではかなり難しい部分らしいです。

ちなみに、同時代のアラウの録音などではそう言う部分は見事に表現されていますし、モノラル録音のバックハウスでも同様です。
そこからは、思いはあっても思うように動かない指をもてあましながら、それでも理想の表現に到達しようとする老いたる男の執念を感じる部分でもあります。

そして、それはそれでいいし、そう言うことも含めて聞き手は享受すればいいのだと思います。

しかし、ベートーベンのもう一つの持ち味は緩徐楽章の美しさです。そして、そう言う部分になると、ステレオ録音の大らかさはプラスに働いていますし、何よりも肉体的な衰えは大きなマイナスとはなっていないように思います。
このステレオ録音に「淡々と流れ行く音楽のエネルギーの底に、何か静かな瞑想的な静けさを感じます。」という人がいるのは、その様な理由からでしょう。

それから、肉体のコンディションというのは、年を取ってからでも調子のいいときは調子がいいものです。
ですから、最晩年の録音でも早いパッセージを意外なほどクリアに乗り切っている場面もあります。そう言う場面に出会うと、なるほどバックハウス恐るべし!などと思ってしまいます。

決して「枯れた芸」などと言う安易な褒め言葉に寄りかかる人でなかったことだけは確かです。

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