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ハイメ・ラレード(Jaime Laredo)|J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV.1006
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV.1006
(Vn)ハイメ・ラレード:1959年11月6日~7日録音
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [1.Preludio]
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [2Loure]
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [3.Gavotte en Rondeau]
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [4.Menuett I - Menuett II]
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [5.Bourree]
J.S.Bach:Violin Partita No.3 in E major, BWV 1006 [6.Gigue]
組曲の一般的な配列からは大きく逸脱して最も自由に振る舞っている

バッハの時代にはこのような無伴奏のヴァイオリン曲というのは人気があったようで、とうていアマチュアの手で演奏できるとは思えないようなこの作品の写譜稿がずいぶんと残されています。ところが、古典派以降になるとこの形式はパッタリと流行らなくなり、20世紀に入ってからのイザイやバルトークを待たなければなりません。
バッハがこれらの作品をいつ頃、何のために作曲したのかはよく分かっていません。一部には1720年に作曲されたと書いているサイトもありますが、それはバッハが(おそらくは)自分の演奏用のために浄書した楽譜に記されているだけであって、必ずしもその年に作曲されたわけではありません。さらに言えば、これらの6つの作品がはたして同じ目的の下にまとめて作曲されたのかどうかも不確かです。
しかし、その様な音楽学的な細かいことは脇に置くとしても、これらの作品を通して聞いてみると一つの完結した世界が見えてくるのは私だけではないでしょう。それは、どちらかと言えば形式がきちんと決まったソナタと自由に振る舞えるパルティータをセットととらえることで、明確な対比の世界が築かれていることに気づかされるからです。
そして、そのパルティータにおいても、「アルマンド」-「クーラント」-「サラバンド」?-「ジーグ」という定型様式から少しずつ外れていくことで、その自由度をよりいっそう際だたせています。そして、パルティータにおいて最も自由に振る舞っている第3番では、この上もなく厳格で堂々としたフーガがソナタの中で屹立しています。
この作品は演奏する側にとってはとんでもなく難しい作品だと言われています。しかし、その難しさは「技巧」をひけらかすための難しさではありません。
パルティータ2番の有名な「シャコンヌ」やソナタ3番の「フーガ」では4声の重音奏法が求められますが、それは決して「名人芸」を披露するためのものではありません。その意味では、後世のパガニーニの「難しさ」とは次元が異なります。
バッハの難しさは、あくまでも彼がヴァイオリン一挺で描き尽くそうとした世界を構築するために必要とした「技巧」に由来しています。
ですから、パガニーニの作品ならば指だけはよく回るヴァイオリニストでも演奏できますが、バッハの場合にはよく回る指だけではどうしようもありません。それ以上に必要なのは、それらの技巧を駆使して描ききろうとしたバッハの世界を理解する「知性」だからです。
その意味では、ヴァイオリニストにとって、幼い頃からひたすら演奏テクニックを鍛え上げてきた「演奏マシーン」から、真に人の心の琴線に触れる音楽が演奏できる「演奏家」へとステップアップしていくために、一度はこえなければいけない関門だといえます。
パルティータ第3番ホ長調 BWV1006
組曲の一般的な配列からは大きく逸脱して最も自由に振る舞っています。そのために、全6曲の中では最も明るく、最も華麗な音楽になっています。また、全6曲の中では唯一アマチュアでも演奏できそうな作品であるために昔から高い人気を持っていました。特に、第3楽章の「ガヴォット」は、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」などという厄介な名前など知らない人でもどこかで一度は耳にしたことがある有名な旋律です。
- Preludio
- Loure
- Gavotte en Rondeau
- Menuet I/II
- Bourree
- Gigue
多彩な音色のパレットを持っている自分への自信の表れ
ハイメ・ラレードとの一風変わった出会いについては、彼のデビュー盤だった「Presenting Jaime Laredo」を紹介したときに詳しく述べました。
そして、このブラームスとバッハをカップリングしたアルバムが、それに続く2枚目の録音かと思われます。しかし、わずか18歳の若者が、デビュー盤のあとの2枚目としてこの組み合わせを選ぶとはいささか驚かされます。
- ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調Op.108
- J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 ホ長調 BWV.1006
作品が求める音色にしても、音楽そのもののスタイルとしても全く性質の異なる2曲を選んでカップリングするとは、なかなかの自信の表れかと思います。
ブラームスの最後のヴァイオリン・ソナタは、彼の回りで親しい友が次々と亡くなっていく中で作曲された音楽であり、そこには避けられぬ人の宿命に対する諦観のようなものが色濃く流れています。
それに対して、バッハの音楽はそう言う人間的感情からは超越した地点で成立するものであり、そこには対位法の音楽家であったバッハの本質が如実に表れています。
彼のデビュー盤でも感じたのですが、このハイメ・ラレードというヴァイオリニストは音色という点では実に豊かな色彩が盛られたパレットを持っています。ですから、ブラームスではいささか翳りを帯びた音色を使えますし、バッハではラインのクッキリした硬質な響きで全体を造形しています。
とりわけ、ブラームスのソナタでは冒頭の2楽章で醸し出される渋さと哀愁の表現はとても18歳の手になるものとは思われません。いささか、表情の付け方が大袈裟に過ぎると思う部分もあるのですが、それもまた愛嬌でしょう。
それに対して、バッハになると硬質でラインの明確な響きで、まるでバッハの音楽を彫刻刀を使って掘りだしていくような雰囲気が漂います。
おそらく、こういう思いきった弾きわけというのは若さゆえの勢いが為せる技なのかもしれませんが、それでも多彩な音色のパレットを持っている自分への自信の表れみたいなものは強く感じられる演奏です。
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