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プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 Op.19

(Vn)ダヴィッド・オイストラフ:ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 ロンドン交響楽団 1954年9月18日&21日録音



Prokofiev:Violin Concerto No.1 in D major, Op.19 [1.Andantino]

Prokofiev:Violin Concerto No.1 in D major, Op.19 [2.Scherzo. Vivacissimo]

Prokofiev:Violin Concerto No.1 in D major, Op.19 [3.Moderato. Allegro moderato]


あのアウアーだってチャイコフスキーの協奏曲を理解しなかった

プロコフィエフは習作時代にヴァイオリン・ソナタなどの作曲に挑戦したものの、全て未完成で終わってしまったようです。プロコフィエフにとってはピアノは身近な楽器ではあっても、ヴァイオリンはそれほどの身近さはなかったのでしょう。
そんなプロコフィエフが賛否を巻き起こしたピアノ協奏曲第1番を完成させると、その勢いに乗ってヴァイオリンの協奏曲を書き始めます。おそらく、世間的には不評に終わったピアノ協奏曲だったのですが、プロコフィエフ自身としては充分な手応えを感じる事が出来だったのでしょう。そして、その勢いと自信を持って新しいヴァイオリンのための協奏曲にチャレンジしたものと思われます。

しかしながら、彼にはヴァイオリン・ソナタさえ完成させた経験がなかったのですから、普通に考えればかなり無謀な挑戦です。しかしながら、その無謀な挑戦を可能にしてくれたのはポーランド出身のヴァイオリニストだったパウル・コハンスキの助力でした。彼はシマノフスキーのヴァイオリン協奏曲第1番を献呈され、その作品のためにカデンツァも創っているヴァイオリニストでした。彼は、シマノフスキーに対したときと同じように、まさに共作に近いような感じでこの作品の完成に助力を惜しみませんでした。

そうして出来上がったこのヴァイオリン協奏曲は1917年に完成し、その同じ年にプロコフィエフは「古典交響曲」も完成させています。つまり、様式的に言えば彼の新古典派時代の作品と言えるもので、同時に帝政ロシア時代最後の作品にもなったのです。
この作品で注目したいのは、叙情性につつまれた両端楽章によって中間部のスケルツォ楽章が挟み込まれていることです。
つまりは、協奏曲の基本形である「急ー緩ー急」ではなくて、その反対の「緩ー急ー緩」という構造になっているのです。

そして、協奏曲で中間楽章に「スケルツォ」が使われたのがこれが最初だったと言われています。つまりは、新古典派的な音楽でありながら、そのスタイルは古典とはほど遠いほどに斬新なものだったのです。

第1楽章の白昼夢のような叙情性は見事なのですが、その叙情性が重くならないように彼は「アンダンテ」ではなくて「アンダンティーノ」で演奏するように指定しています。
そして、目玉とも言うべき中間部のスケルツォはシニカルで、まるで悪い冗談のような音楽になっています。これはどう考えても古典的な音楽の響きとはかけ離れたところにある音楽であり、発想です。また、この楽章は超絶技巧が求められる楽章で、とりわけ「スル・ポンティチェロ」(駒の近くを弾く)と指定された有名な部分はかなり奇怪な響きを求めたもので、その奇怪な響きが聞き手に強烈な印象を与えます。

さらに言えば、独奏ヴァイオリンが音楽全体を主導していることは間違いはないのですが、それをサポートするオーケストラはその独奏ヴァイオリンに対抗したり癒合したりと、実にバランス良く呼応している事も見逃せません。あるヴァイオリニストは、この作品のことを「独奏ヴァイオリンはオーケストラの中からわき上がり、再びオーケストラに溶け込む」と述べていました。
つまりは、そう言うバランスの取れたオーケストラ伴奏を背景に独奏ヴァイオリンは広い音域を駆けめぐり、さらにはコハンスキの助言を得ながらヴァイオリンの高度な技法が散りばめられているのです。

そして、この作品はその後面白い道筋を辿ります。
初演が予定されていた1917年はロシア革命のために不可能となり、それがようやく実現したのは1923年のパリにおいてでした。指揮はクーセヴィツキー、ヴァイオリンはマルセル・ダリューという顔合わせでした。しかし、その評判は芳しいものではなかったようです。
ストラヴィンスキーの「春の祭典」を拒否したパリの聴衆はこの作品も拒否し、こんな作品を演奏させられたダリューに同情の声が集まったほどでした。
そして、日頃は彼の音楽に賛同していた指揮者のコンスタンチン・サラジェフもプロコフィエフに改作をすすめるほどでした。

しかし、プロコフィエフは「あのアウアーだってチャイコフスキーの協奏曲を理解しなかった」と言って、改作を拒否しました。
やがて、風向きが変わったのは初演の翌年にヨーゼフ・シゲティがプラハの国際現代音楽祭でこのヴァイオリン協奏曲を演奏したことでした。そして、この作品が気に入ったシゲティは、さらに多くの国々でこの作品を取り上げたことによって作品の評価は高まり、定着していきました。
新しいヴァイオリン協奏曲がメジャーな作品となるためには、どうやらそれを積極的にサポートする名ヴァイオリニストが必要なようです。そして、そのサポートが得られるためには作品にそれだけの力がなければいけないのですが、必ずしもその二つの要素が幸福に出会えるわけではありません。

そして、そう言う幸福な出会いが実現したのがこのヴァイオリン協奏曲であって、プロコフィエフはシゲティの事を「私の協奏曲の最高の理解者」と呼んで二人は親密な関係を結んでいくことになったのです。
さらに言えば、この作品を通してプロコフィエフに出会い、その感動から積極的にプロコフィエフの作品を取り上げるようになったリヒテルのような人物も現れてきたのですから、プロコフィエフにとってはこの作品は作曲も初演も困難だったものの、最後は大きな幸福を彼にもたらしてくれた作品だったと言えます。


美音系のプロコフィエフ

この作品の演奏はヨーゼフ・シゲティとは切っても切れない関係にあります。ところが、恥ずかしながら、私はシゲティによるこの作品の演奏を聞いたことがありません。それは、プロコフィエフへの相性の悪さの為せる失態なのですが、おそらくはその演奏を聞かずしてこの作品のことを云々する資格はないのかもしれません。

取りあえず、あれこれ探してみて出てきたのはオイストラフとミルシテインの、ともに50年代前半のモノラル録音でした。しかし、両方ともにモノラルながら音質は良好です。そして、両者ともに「美音」を持ち味とするヴァイオリニストだけに、シゲティの演奏とは随分と異なるだろうなと言う想像はつきます。
なお、オーケストラ伴奏は、ミルシテインの方は「ヴラディーミル・ゴルシュマン指揮 セントルイス交響楽団」、オイストラフの方は「ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 ロンドン交響楽団」という組み合わせです。
ミルシテインの方は同じ「美音」でも清楚系ですが、オイストラフは「滴り」系です。ですから、この両者を聞き比べるとどうしてもミルシテインの方が細身に聞こえます。そして、オケの方もそのソロ・ヴァイオリンに無難に伴奏を付けているという感じで、オイストラフの方と比べるといささか印象派薄めかもしれません。

それでも、この作品の魅力を過不足なく伝えていることだけは保障できます。

それと比べると、オイストラフの方はオケの方もかなり頑張っています。やはり、マタチッチはそれだけの器を持った指揮者ですし、同じ美音系でも、オイストラフにはそれに負けない逞しさを持っています。
しかし、それがプロコフィエフが意図した音楽のスタイルよりはかなり官能的に過ぎるかもしれないという危惧はあります。

ですから、とにかくシゲティの録音を早く手に入れて聞き比べてみる必要があるのでしょうが、どうしても手に入れたいという「強い気持ち」にならない部分があるのも事実です。やはり、プロコフィエフとは基本的に相性が悪いのでしょうか。

それともう一つ不思議なのは、シゲティはこの第1番の協奏曲を何度も録音し、演奏会でもよく取り上げているのですが、第2番の協奏曲に関しては全く取り上げていないようなのです。
そして、逆に第2番の協奏曲の普及に尽力したハイフェッツは第1番のヴァイオリン協奏曲は完全に無視をしているのです。

演奏的には高度な技法が求められる第1番がシゲティの十八番で、古典的な技法の範囲に収まっている第2番の方がハイフェッツの十八番だったというのは何とも不思議な話です。これが逆だったら素直に納得がいくのですが、クラシック音楽の世界にはこういう不思議なことがたくさんあるものです。

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