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グルック:オルフェオとエウリディーチェより「メロディー」

(Vn)エリカ・モリーニ (P)レオン・ポマーズ 1956年録音



Gluck:Melodie (Orfeo ed Euridice)


天国の野原で精霊たちが踊る場面で演奏される有名な作品

この作品は、よく知られているように歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」の中の1曲で、第2幕のバレエの場面で演奏される曲です。
天国の野原で精霊たちが踊る場面で演奏されます。

このオペラは歌手至上主義に陥っていたオペラの世界に改革をもたらしたもので、当時のウィーンやパリの聴衆に衝撃を与えました。ですから、古い時代のオペラであるにもかかわらず、今もしぶとく「現役のオペラ」として生き残っています。
とあるサイトで「現在では滅多に演奏されることはありません」というのはいささか正確さに欠けます。

そして、このグルックの改革をさらに推し進めて真の革命をもたらしたのがモーツァルトだったのです。

このオペラの中でもっとも有名なバレエ音楽をヴァイオリン曲に編曲したのはクライスラーで、彼はシンプルに「メロディ(Melodie)」とタイトルをつけました。その後、様々な楽器に編曲され、次第に「精霊の踊り」というタイトルの方が通りが良くなったようです。

なお、オペラの中で演奏される「精霊の踊り」にはウィーン版とパリ版の2種類のヴァージョンが存在します。
当時のパリではバレエが非常に重視されていたので、グルックもパリでの上演に際してより中身の濃いものに書き直したためです。
牧歌的なメロディにニ短調の暗いメロディが付け加わることで音楽に明瞭なコントラストが生まれています。


古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」

エリカ・モリーニと言えば、その背筋の伸びた清冽な音楽がすぐにイメージされます。そして、彼女こそは古き良きヨーロッパの象徴のようなヴァイオリニストでした。
その経歴を見てみれば、20世紀の初頭にオーストリアに生まれ,、わずか14才にしてベルリン・フィルやゲヴァントハウス管弦楽団と共演して衝撃的なデビューをはたしています。父はヨアヒムの系列をくむヴァイオリニストであり、彼女もまた生粋のウィーンが生んだヴァイオリニストでした。

しかし、1938年にナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、その後はニューヨークを拠点として音楽活動を続けることになってしまうのですが、それでも多くの亡命演奏家たちのようにアメリカという新しい社会の価値観に迎合することはありませんでした。彼女のレパートリーはウィーン古典派からブラームスなどのロマン派の作品あたりに限られていて、そう言う基本的なスタンスを彼女はアメリカに移っても頑固なまでに崩さなかったのです。

そんな彼女の目に、戦争に巻き込まれ、あらゆる美しい伝統と文化が破壊され、焼き尽くされていく現実はどのように映ったのでしょう。
確かに、戦後に残された彼女の数少ない録音を聞けば、それでも彼女は凛と背筋を伸ばしているように見えます。
しかし、彼女にしては珍しいレパートリーと思われる幾つかの小品の録音を聞いたときに、そう言うけなげなモリーニとは全く違う姿にふれて呆然としたのです。

そこには、疑いもなく、モリーニという古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」そのものが刻み込まれていました。
そして、そこでは老いた没落貴族の女性が、過ぎ去った栄光の過去を思い出しながら一人でダンスを踊っているような光景が浮かんでくるのです。
そして、それはどこかで観た映画の一シーンであったような記憶があるのですが、タイトルがどうしても思い出せないのです。もしかしたら、そんなシーンがあったというのは私の妄想かもしれませんが。

いや、そう言う曖昧な映像を引き合いに出すよりも、このモリーニの音楽こそはヨーロッパの没落を見事に描ききっています。
もちろん、言うまでもないことですが、戦争によってどれほど痛めつけられても「現実のヨーロッパ」は滅びることはなく再び蘇っていくのですが、そしてその事をモリーニもまた理解していたのでしょう。しかし、そうして蘇った「新しいヨーロッパ」は彼女にとってはそれはもう全く別のヨーロッパであったのです。
それはすべてのものが消えてなくる事よりも、さらに大きな喪失感を彼女に感じさせたことは容易に想像できます。

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