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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15

(P)レオン・フライシャー:ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1958年2月21日~22日録音



Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [1.Maestoso]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [2.Adagio]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [3.Rondo. Allegro non troppo]


交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。
そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。

伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。
1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。
私はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。



オケも直線的であれば、ピアノも直線的、そしてその直線コースを互いが引っ張り合うように疾走していく

セルによるブラームスのピアノ協奏曲と言えば、カーゾンやゼルキンによる録音があります。そう言う中にこのフライシャーの録音を放り込んでみるといささか影が薄くなるのはやむを得ないのでしょう。
この時代においてカーゾンやゼルキンはすでに押しも押されもせぬピアノの巨匠であったのに対して、フライシャーの方は数ある有望な若手ピアニストの一人にしか過ぎなかったからです。
つまりは、今日までこの録音をアップしてこなかった言い訳みたいなものです。(^^;

しかしながら、セルはこのフライシャーというピアニストと非常に相性が良かったようです。それは、カーゾンとの録音はほとんど喧嘩腰で、まわりがハラハラするほどに険悪だったのとは対照的でした。
ただし、仲良く演奏が出来たから素晴らしい録音になるとは限らないのであって、その逆が時には真であることをカーゾンとセルの録音が教えてくれています。そう言えば、セルにとって数少ないピアニストの友人だったルドルフ・ゼルキンと喧嘩別れをしたのも、きっかけはブラームスの協奏曲の録音をめぐってのいざこざでした。
つまりは、それなりに自己主張の強いピアニストにしてみれば、ブラームスの協奏曲というのは指揮者との間にいざこざを引き起こさざるを得ない音楽だと言うことなのでしょう。そう言えば、バーンスタインとグールドが決定的仲違いを引き起こしたのもブラームスの協奏曲でした。
どうやら、ブラームスの協奏曲というのは、指揮者にしてもピアニストにしても、友達を失いかねない危険性を内包した音楽のようです。

それは、第1番が交響曲になり損ねた協奏曲でりあり、第2番がピアノ助奏つきの交響曲だと言われることが原因しているのでしょう。
指揮者は交響曲へと向かうベクトルを採用したくりますし、それがセルのような指揮者であれば尚更です。ところが、ピアニストにしてみればそれはとんでもないことであって、そう言うベクトルの中で独奏ピアノが脇役に甘んじるくらいならばさっさと席を立ってさようならをしたくなるでしょう。

つまりは、そう言う剣呑さを含んだ作品に対して、おまけにセルのような指揮者に対して相性が良かったと言うところに、フライシャーというピアニストの特性がにじみ出ています。
そう言えば、第1番の録音の時に、大雪のためにフライシャーが使っていたピアノが録音会場に届かなかったという逸話が残されています。ところが、予定も詰まっているセルにしてみれば会場に備え付けられているピアノでもいいじゃないかと言うことで、録音を開始してしまったのです。
ですから、この録音では第1楽章が会場に備え付けのピアノを使い、第2楽章以降は翌日になって届いた愛用のピアノで録音しているのです。
もっとも、ピアニストというのはヴァイオリニストのように自分の楽器を簡単に持ち運びはできませんから、会場に用意されたピアノを使うと言うことはよくあることです。しかし、少なくとも自分のピアノを手配していて、その手配したピアノが届かないと言うことになれば普通はNGでしょう。
しかし、フライシャーはセルが「いいじゃないか」と言えばそれに従ってしまうのです。セルにしてみれば、こういう音楽であるならばピアノは主役ではなくオケの一員に過ぎなかったのでしょう。

さらに、第2番の録音では、セルは冒頭の独奏ホルンをわざと半音上げて演奏させてフライシャーを驚かすという「悪戯」をしたというエピソードも伝えられています。さすがのクリーブランド管もそれに追随して演奏するのは6小節までがやっとだったようで、その後はみんなで大笑いしたそうなのですが、つまりはセルとフライシャーはそう言う関係だったのです。
セルはピアニストとしてのフライシャーの能力に関しては完全な信頼を寄せていました。
しかし、その信頼は、おそらく自分がピアノ独奏を担当すればこのように演奏しただろうというイメージををほぼ100%実現してくれる力量に対するものでした。
言葉を返せば、カーゾンやゼルキンのようなピアノの巨匠としての能力ではなかったのです。

ですから、このフライシャーとの録音では、セルが理想とするブラームスの協奏曲の形が実現しています。
そこで実現しているのは、速めのテンポによるスッキリとした交響的造形であり、そこに寄り添うピアノもまた軽快で切れの良い鮮やかさで貫かれているのです。

おそらく、このピアノの姿こそがセルの理想だったはずです。
ですから、オケとピアノの間で切った貼ったの緊張感はありません。そこにあるのは、お互いが溌剌としたエネルギー感に満ちていて、さらには、そのエネルギー感によって互いが互いを引っ張り合っていくのです。
つまりは、オケも直線的であれば、ピアノも直線的、そしてその直線コースを互いが引っ張り合うように疾走していくのです。
ですから、聞き終わった後に残るのは爽快感です。
そう言う意味では、ここにブラームスらしい重厚感や翳りのようなものを求めると肩すかしを食うのですが、それもまた50年代から60年代にかけてのアメリカ的文化の典型なのかもしれません。

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