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チャイコフスキー:スラヴ行進曲Op.31

フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 1958年12月28日~29日録音



Tchaikovsky:Marche Slave in B-flat minor, Op.31


スラブ民族を讃える行進曲

1876年にセルビアとモンテネグロはヘルツェゴヴィナ蜂起を支援するためオスマン帝国に対し宣戦を布告します。しかし、オスマン軍は速やかにこの両国を打ち破り、さらにはブルガリアにおける反オスマン反乱も鎮圧してしまいます。
こうなると、その戦いをロシアが引き継ぐのが数世紀にわたる「露土戦争」のパターンなので、ロシアはオーストリア=ハンガリー帝国と秘密協定を結んで中立的立場をとることを約束させると、1877年にこの戦争に介入することになります。

ロシアとトルコは16世紀以降数え切れないほどの戦争を繰り返しているのですが、一般的に「露土戦争」と言えばこの1877年から1878年にかけて行われたこの戦争のことを指します。
ロシアはこの20年前の、いわゆる「クリミア戦争」でトルコに敗れるという失敗を経験をしているので、この時の戦争ではバルカン半島のスラブ民族独立のための戦争であるという大義名分を掲げて、汎スラヴ主義的心情に訴えるという手法をとりました。

そのため、ロシア国内でも戦争協力の動きが巻き起こり、ニコライ・ルビンシュテインが負傷兵のための基金募集のために演奏会を企画したり、その呼びかけにチャイコフスキーもすみやかに応えたりしたのです。
そして、そう言う流れの中でスラブ民族を讃える行進曲が書かれることになるのです。

チャイコフスキーはスラブ民族を鼓舞する意味も込めて、戦争の中心となっているセルビアやその近くの地方の民謡を主題として用い、最初は「ロシア・セルビア行進曲」と名づけたのですが、出版に際しては現在の「スラブ行進曲」と変更されました。

最初は重々しい歌で始まり、その歌は楽器を変えて何度も登場します。
やがてスラブの民謡が次々と登場することで戦闘はますます激しさを増し、最後は壮大なクライマックスの中でスラブ民族の勝利をたたえて音楽は閉じられます。


一糸乱れぬアンサンブルと強靱なオケの響きは、「鶏頭を裂くに牛刀を用いん」の風情があるかもしれません

こういう録音を聞くとライナーというのは不思議な指揮者だったと思ってしまいます。

ライナーと言えば「強面」の指揮者でした。
それはオーケストラのプレーヤーに対してだけでなく録音スタッフに対しても同様でした。

「君と仕事をするのは始めてだ。このホールで指揮をするのも初めてだ。最初のテイクのバランスが完璧でなかったら、私は帰らせてもらうよ。」

これがDeccaの音楽プロデューサーだったジョン・カルショーがライナーと始めて出会ったときに交わされた言葉だったそうです。
それは、全てのことに関して完璧を求め、どれほど些細なことであっても手抜きは許さないという強い姿勢を示したものでした。

その様な指揮者が、おそらくはレーベルからの強い要請だとは思うのですが、「Festival Of Russian Music」というタイトルの、それこそ玩具箱をぶちまけたようなアルバムを作っているのです。
クラシック音楽の録音というものは、レーベルにとっては「短期的」には大きな収益を見込むことが難しいものです。しかし、流行の波間に消え去っていくポップス・ミュージックと違って、優れた録音であれば著作隣接権が消滅するまでの長きにわたって一定の収益をもたらし続けます。
つまりは、「長期的」に見ればレーベルに大きな利益をもたらすのです。

しかしながら、多くの経営者がその様な「長期的な視野」を持っているわけではないので、短期的にある程度の利益を上げることを現場は要求される事があります。そう言う「困ったとき」によく使われる企画が「Festival Of Russian Music」のようなアルバムだったのです。


  1. チャイコフスキー:小行進曲[組曲第1番ニ短調 Op.43より]

  2. ムソルグスキー:交響詩「はげ山の一夜」(R=コルサコフ編)

  3. ボロディン:ダッタン人の行進[歌劇「イーゴリ公」より]

  4. チャイコフスキー:スラヴ行進曲Op.31

  5. カバレフスキー:歌劇「コラ・ブレニョン」

  6. グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲



こういうアルバムは長期的に売れ続ける事はないのですが、クリスマス商戦の前などにリリースをすればある程度の売り上げは期待できたからです。

しかしながら、ライナーのような大物指揮者にとってはどう考えても有り難い企画ではないのですが、レーベルからすればライナーのような大物がその様なアルバムを手がけるからこそ話題になるのです。
そこで、現場レベルにしてみれば「無理なお願い」となるのですが、結局はそう言う無理を聞いてしまうところがライナーという人なのです。

そのあたりが、同じ「笑わん殿下」でも、セルとは異なるところでしょうか。
セルの場合はどれほど譲歩しても、ワーグナーの管弦楽曲集かベートーベンの序曲集あたりが限界だったようです。・・・と思って調べてみたら「Szell Conducts Russian Music(1958年リリース)」なんて言うアルバムがありました。(^^;

そうしてみると、外見は恐くても、意外と現場の苦境に対しては二人ともに協力的だったのかもしれません。

ただし、そうやって引き受けた仕事であっても一切の手抜きがないのは当然と言えば当然、さすがと言えばさすがと言うべきでしょう。
まさに一糸乱れぬアンサンブルと強靱なオケの響きは、「鶏頭を裂くに牛刀を用いん」の風情かもしれませんが、それがライナーという人の本質なのです。

ですから、やるからには徹底的にやってやろうという姿勢は明らかで、音楽が盛り上がっていく場面では一気にテンポもあげていってシカゴ響の持てる力を存分に発揮させています。もともとが早めのテンポでオケを煽っているのですから、けっこう凄いことになっていくのです。
しかしながら、最後につまらぬ妄想を言わせてもらえば、あのムラヴィンスキーの「ルスランとリュドミラ序曲」の様な演奏を知った上でライナーが録音をしていればどれほど凄まじいことになっただろうという思いはします。

時間系列で言えばそう言うことはあり得ないのですが、それでもそう言う演奏が可能だと言うことを知っていれば、おそらくは、負けてなるものかとさらに凄いことになったのではないかと妄想するのです。
そして、このコンビならば、それは決して不可能ではなかったと思うのです。

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