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コダーイ:ハンガリ民謡「孔雀は飛んだ」による変奏曲

ゲオルク・ショルティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年4月~5月録音



Kodaly:Variations on a Hungarian folksong "The peacock"


「孔雀は飛んだ」ではなくて「孔雀は飛んできた」かな?

この作品はコンセルトヘボウ管の創立50周年を記念して委嘱された作品だそうです。
初演は1939年11月23日にメンゲルベルク指揮によるコンセルトヘボウ管によって行われています。

メンゲルベルクの有名な「マタイ受難曲」が演奏されたのはこの年の4月のことですから、その間に第2次大戦が勃発し、ナチス・ドイツへの恐怖はさらに高まっていた時代でした。歴史を確認すれば、この翌年の5月にドイツ空軍によるロッテルダムへの爆撃が行われて、それ以上の被害が他のt都市に及ぶことを恐れたオランダ政府はナチス・ドイツに降伏します。

ちなみに、コダーイの故国であるハンガリーでは、王国の摂政として実権を握っていたホルティ・ミクローシュはファシストに接近することを余儀なくされ、最終的には枢軸国側の一員として参戦することになります。

そう言う背景を頭に入れておけば、オスマントルコの圧政のもとで苦しむマジャールの人々を「囚人」になぞらえた民謡をテーマとして採用したことが何を意味していたのかは明らかです。
コダーイはこの民謡をもとに男声合唱による作品を1936年に書いています。

詩はこの民謡の歌詞にインスピレーションを得たアディ・エンドレの手になるものです。
そこで問題になるのは、引用符で囲まれた最初と最後の2行に登場する「Folszallott a pava a varmegye-hazra」をどのように翻訳するかです。

Folszallott a pava a varmegye-hazra,
Sok szegeny legenynek szabadulasara


一般的には「Folszallott」を「飛ぶ」と訳して「孔雀は飛んだ 群役場の上を」とするのが一般的です。ですから、この作品名も『ハンガリ民謡「孔雀は飛んだ」による変奏曲』とするのが一般的なのです。
ところが、ある人によれば、この「Folszallott」を「飛ぶ」と訳すのは無理があるというのです。その人は「飛ぶ」ではなくて「止まる」の方がニュアンスが近いと主張されています。

ホンマカイナ・・・と、大阪弁で呟きながらGoogle翻訳で確かめるとニュアンス的には「飛んできた」だと主張します。


  1. 孔雀は飛んだ 郡役場の上に

  2. 孔雀は止まっている 郡役場の上に

  3. 孔雀は飛んできた 郡役場の上に



孔雀はマジャールの人にとっては自由と希望の象徴であり、群役場は圧政の象徴です。
そう考えると、一番しっくりと来るのはらGoogle翻訳の「孔雀は飛んできた」のような気がします。

「Folszallott a pava a varmegye-hazra」につづくのが「Sok szegeny legenynek szabadulasara.」ですから、日本語にすると「孔雀は飛んできた 郡役場の上に 多くの貧しき者たちに自由を与えようと」となります。
確かに孔雀が飛んでいったのでは多くの貧しき者たちに自由を与える事は出来ませんから、これは『ハンガリ民謡「孔雀は飛んできた」による変奏曲』とすべきかもしれませんね。

コダーイはコンセルトヘボウ管からの委嘱に対してこの合唱作品をもとに変奏曲に仕立て直しました。
日本人にとっては何処か懐かしさを思わせる5音音階の音楽は素朴さ故に聞くものの心に染み込んできます。


与えられた仕事に対して期待された以上の結果を返すことでキャリを積み上げている

ショルティという人は世界的には非常に高い評価を得ているのですが、何故か日本での評判は芳しくない人です。

指輪の全曲録音にしても、その演奏と録音の素晴らしさは認めながらも、指揮者がショルティでなければもっとよかったなんて言われちゃいますからね。
しかし、カルショーの証言を待つまでもなく、あのようなとんでもない忍耐を強いられるようなプロジェクトはショルティのような男でなければ成し遂げられなかった事は事実なのです。

彼が残した膨大な録音の殆どは完成度の高いものばかりなので、不思議と言えば不思議な話なのですが、やはり偉い先生が駄目だと言えば駄目になってしまう典型なのかとも思ったりします。

そんなわけで、一度じっくりと、ショルティの業績を録音を通して追いかけてみようかと考えた次第なのです。
確かに、一人の音楽家を時系列に沿ってじっくりと聞いてみるといろいろなことが見えてくることも事実なのです。

ショルティの初期録音を眺めていると、同郷のバルトークやコダーイの録音が多いことに気づきます。
世界的名声を得た音楽家ならばレーベルと契約を結ぶときに、自分が録音したい作品をその契約の中に入れ込むことも可能です。

例えば、ビルギット・ニルソンなどはDeccaと専属契約を結ぶときの条件として「トリスタンとイゾルデ」を録音することを必須条件としていました。
有り体に言えば、「トリスタンとイゾルデ」を録音してくれるならアンタの所と契約してやってもいいわよ、と言うことです。

しかし、これから売り出そうかというようなぺーぺーの音楽家ならば、レーベルが指定する作品を黙々とこなしていくしかありません。使ってもらえるだけありがたいと言うことです。
そして、そこにはレーベルとしてカタログの内容をバランスよく整えていくために、その音楽家の適正なども見定めながら録音すべき作品を決めていくわけです。

カルショーはDeccaにはその様なポリシーは全くなかったと嘆いていますが、それでも、ショルティの立ち位置を考えればバルトークやコダーイの作品が回ってくるのは、当然と言えば当然なのかもしれません。
既に別の処でも述べたことなのですが、ショルティの願いはベートーベンの交響曲を録音することでした。しかしながら、その思いはいつ実現するのか全く先も見えない状況の下で、与えられた仕事を黙々とこなすしかなかったのです。

しかしながら、それでもショルティが偉いと思うのは、そう言う仕事であっても一切手抜きをしないと言うことです。彼はいつどんなときであっても完璧と言っていいほどのバランスでオケを鳴らしています。
言うまでもないことですが、この時代の録音は楽器の音量バランスを編集によって調整するなどと言うことは出来ません。

まさに、録音会場で鳴り響いているバランスが全てです。
ところが、そのバランスがマルチ・マイク録音によって徹底的に編集が加えられたバランスと較べても遜色がないというのは、ショルティの並々ならぬオケに対する統率力がうかがわれます。

なるほど、無名の指揮者というのは、こうして与えられた仕事に対して期待された以上の結果を返すことでキャリを積み上げていくものだと感心させられる録音なのです。

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