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ベートーベン:交響曲第3番「エロイカ」


トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1953年12月6日録音を再生する



Beethoven:交響曲第3番「エロイカ」 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第3番「エロイカ」 「第2楽章」

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音楽史における最大の奇跡

今日のコンサートプログラムにおいて「交響曲」というジャンルはそのもっとも重要なポジションを占めています。しかし、この音楽形式が誕生のはじめからそのような地位を占めていたわけではありません。
 浅学にして、その歴史を詳細につづる力はありませんが、ハイドンがその様式を確立し、モーツァルトがそれを受け継ぎ、ベートーベンが完成させたといって大きな間違いはないでしょう。

 特に重要なのが、この「エロイカ」と呼ばれるベートーベンの第3交響曲です。
 ハイリゲンシュタットの遺書とセットになって語られることが多い作品です。人生における危機的状況をくぐり抜けた一人の男が、そこで味わった人生の重みをすべて投げ込んだ音楽となっています。

 ハイドンからモーツァルト、そしてベートーベンの1,2番の交響曲を概観してみると、そこには着実な連続性をみることができます。たとえば、ベートーベンの第1交響曲を聞けば、それは疑いもなくモーツァルトのジュピターの後継者であることを誰もが納得できます。
 そして第2交響曲は1番をさらに発展させた立派な交響曲であることに異論はないでしょう。

 ところが、このエロイカが第2交響曲を継承させ発展させたものかと問われれば躊躇せざるを得ません。それほどまでに、この二つの間には大きな溝が横たわっています。

 エロイカにおいては、形式や様式というものは二次的な意味しか与えられていません。優先されているのは、そこで表現されるべき「人間的真実」であり、その目的のためにはいかなる表現方法も辞さないという確固たる姿勢が貫かれています。
 たとえば、第2楽章の中間部で鳴り響くトランペットの音は、当時の聴衆には何かの間違いとしか思えなかったようです。第1、第2というすばらしい「傑作」を書き上げたベートーベンが、どうして急にこんな「へんてこりんな音楽」を書いたのかと訝ったという話も伝わっています。

 それほどまでに、この作品は時代の常識を突き抜けていました。
 しかし、この飛躍によってこそ、交響曲がクラシック音楽における最も重要な音楽形式の一つとなりました。いや、それどことろか、クラシック音楽という芸術そのものを新しい時代へと飛躍させました。
 事物というものは着実な積み重ねと前進だけで壁を突破するのではなく、時にこのような劇的な飛躍によって新しい局面が切り開かれるものだという事を改めて確認させてくれます。

 その事を思えば、エロイカこそが交響曲というジャンルにおける最高の作品であり、それどころか、クラシック音楽という芸術分野における最高の作品であることをユング君は確信しています。それも、「One of the Best」ではなく、「The Best」であると確信しているユング君です。


ただの、「アレグロ・コン・ブリオ」にすぎない!!

時に誤解を生みそうなこのトスカニーニの言葉は、その表現の強烈さゆえに彼の音楽観を最も端的に表している言葉でもあります。

しかし、そのような言葉とは裏腹に、彼のエロイカ演奏を通して聞いてみると、少なくないブレを感じ取ることができます。
1939年に彼が行ったベートーベンチクスルでの録音は、後の演奏と比べてみると、冒頭の彼の言葉を最もよく体現した演奏になっています。(少なくとも、ユング君にはその様に聞こえます)響きの透明性と強靭な推進力は音質的な問題を差し引いても十分に聞く価値のある演奏となっています。ちなみに、ビクターは全9曲の中からこれだけを唯一正規盤として41年にリリースしているのも、この演奏の価値を認めてのことでしょう。
その後大戦中に彼は二回エロイカを取り上げているのですが、こちらは一転して遅めのテンポで演奏したり、とんでもないスピードで弾き飛ばしてみたりと、なんだか実験的な雰囲気が漂うような演奏となっています。
そして最晩年の50年代の録音は、音質的には最も恵まれているのですが、なんだか中庸の美という風情で、よく言えばバランス感覚にあふれた、悪く言えばどっちつかずの演奏になっています。

トスカニーニのこのような「ブレ」に接してみると、「楽譜に忠実」に演奏しましたという言葉の底の浅さを改めて思い知らされます。楽譜に忠実であろうとし、ベートーベンに忠実であろうとして、トスカニーニもまた苦闘したのです。楽譜に忠実であるというのは方法論としては入り口を示しているに過ぎないという、ごく当たり前の事実を改めて教えてくれます。
そして、その中から彼なりのベートーベンを最も忠実に描き出したのはどれだったのでしょうか?それもまた、聞き手への一つの挑戦として、心して耳を傾ける必要があるのかもしれません。

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