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ベートーベン:ピアノ・ソナタ第25番 ト長調 Op.79

(P)クラウディオ・アラウ 1966年4月録音



Beethoven: Piano Sonata No.25 In G, Op.79 [1. Presto alla tedesca]

Beethoven: Piano Sonata No.25 In G, Op.79 [2. Andante]

Beethoven: Piano Sonata No.25 In G, Op.79 [3. Vivace]




繊細さへのチャレンジやさしいソナタ

この作品は1810年にはじめて出版されたときには「ソナチネ」というタイトルがついていました。規模も小さく、演奏もそれほど困難ではないので、作品49の2つのソナタのように、これも初期作品ではないのかと推測された時期もあったようです。
しかし、作品78の「テレーゼ・ソナタ」と同じ年のスケッチブックにこの作品の主題が書かれていることが分かり、この二つのソナタはともに1809年に作曲されたことは間違いないことが分かっています。

また、初版譜につけられた「ソナチネ」というタイトルも、ベートーベン自身が次のように出版社(プライトコプフ)に書き送っていることに由来するようです。

ソナタ2曲は別々に出版していただきたい。もし一緒に出すのならば、ト長調には「やさしいソナタ」もしくは「ソナチネ」とつけてください。


と言うことで、このやさしいト長調のソナタは優美な「テレーゼ・ソナタ」と姉妹作と言うことになります。

第1楽章は明らかにワルツの前身となるレントラーを発展させた舞曲風の音楽になっています。この形式の音楽は18世紀末には「アルマンド」と呼ばれていたのですが、ベートーベンはそれを「alla tedesca(ドイツの踊り)」と名づけています。
また、展開部にはいると田園的な雰囲気の中でカッコーの鳴き声のような音型が聞こえてくるので「カッコー・ソナタ」とも呼ばれることがありました。

第2楽章は舟歌であり、わずか34小節のこの楽章はロマン派のピアノ小品を連想させます。
このAndante楽章は二人のソプラノによる二重唱のようであり、イタリア歌曲の様式を下敷きにしてるようです。

Vivaceの最終楽章はベートーベンの最初期の作品を思い出させる音楽になっています。シンプルなロンド形式の音楽であり、クレッシェンドの後の短い和音の繰り返しで終わるのもユーモアに満ちています。


  1. 第1楽章:Presto alla tedesca ト長調

  2. 第2楽章:Andante ト短調

  3. 第3楽章:Vivace ト長調




アラウという人はドイツの「型」を色濃く「伝承」しているピアニストと言えそうです


日本の伝統芸能の世界には「芸養子」なる制度があります。能や歌舞伎の役者に子供がいない場合には、能力がある弟子を実際の子供(養子)として認めて育てていくシステムのことです。
芸事というのは、大人になってから学びはじめては遅い世界なので、芸事の家に生まれた子供は物心が付く前から徹底的に仕込まれることでその芸の世界を次に繋いでいきます。ですから、伝えるべき子供がいないときには、「芸養子」を迎えてその芸を継がせるのです。

アラウという人の出自を見てみると、彼もまた「芸養子」みたいな存在だと思わせられました。
彼は幼くしてリストの弟子であったクラウゼの家に住み込み、そのクラウゼからドイツ的な伝統の全てを注ぎ込まれて養成されたピアニストです。ですから、出身はアルゼンチンですが、ピアニストとしての系譜は誰よりも純粋に培養されたドイツ的なピアニストでした。

まるでドイツという国の「芸養子」みたいな存在です。
彼の中には、良くも悪くも、「伝統的なドイツ」が誰よりも色濃く住み着いています。

言うまでもないことですが、楽譜に忠実な即物主義的な演奏はドイツの伝統ではありません。ですから、アラウの立ち位置はそんなところにはありません。
おそらく、伝統的なドイツから離れて、そう言う新しい波に即応していったのはどちらかと言えばバックハウスの方でした。

こんな事を書けば、バックハウスやケンプこそがドイツ的な伝統を受け継いだ正統派だと見なされてきたので、お前気は確かか?と言われそうです。
しかし、60年代の初頭に一気に録音されたアラウのベートーベン、ピアノソナタ全集をじっくり聞いてみて、なるほど伝統的なドイツが息づいているのはバックハウスではなくてアラウなんだと言うことに気づかされるのです。

言うまでもないことですが、芸事の伝統というのは学校の勉強のようなスタイルで伝わるものではありません。そうではなくて、そう言う伝統というのは劇場における継承として役者から役者へ、もしくは演奏家から演奏家へと引き継がれるものです。
そして、その継承される内容は理屈ではなくて一つの「型」として継承されていきます。そして、その継承される「型」には「Why」もなければ「Because」もないのが一般的です。

特に、その芸事の世界が「伝承芸能」ならば、「Why」という問いかけ自体が「悪」です。何故ならば、「伝承芸能」の世界において重要なことは「型」を「伝承」していくことであって、その「型」に自分なりのオリジナリティを加味するなどと言うことは「悪」でしかないからです。
それに対して、「伝統芸能」であるならば、取りあえずは「Why」という問いかけは封印した上で「型」を習得し、その習得した上で自分のオリジナリティを追求していくことが求められます。

「伝統芸能」と「伝承芸能」はよく同一視されるのですが、本質的には全く異なる世界です。
そして、西洋のクラシック音楽は言うまでもなく「伝統芸能」の世界ですから、「型」は大事ですが「型」からでることが最終的には求められます。

しかし、「伝承」の色合いが濃い演奏家というのもいます。
そう言う色分けで言えば、アラウという人はドイツの「型」を色濃く「伝承」しているピアニスト言えそうなのです。

この事に気づいたのは、チャールズ・ローゼンの「ベートーベンを読む」を見たことがきっかけでした。
このローゼン先生の本はピアノを実際に演奏しないものにとってはかなり難しいのですが、丹念に楽譜を追いながらあれこれの録音を聞いてみるといろいろな気づきがあって、なかなかに刺激的な一冊です。
そして、ローゼン先生はその著の中で、何カ所も「~という誘惑を演奏者にもたらす」という表現を使っています。

そして、そう言う誘惑にかられる部分でアラウはほとんど躊躇うことなく誘惑にかられています。

例えば、短い終止が要求されている場面では音を伸ばしたい要求にとらわれます。そうした方が、明らかに聞き手にとっては「終わった」と言うことが分かりやすいので親切ですし、演奏効果も上がるからです。
アラウもまた、そういう場面では、基本的に音を長めに伸ばして演奏を終えています。
例えば、緩徐楽章では、その悲劇性をはっきりさせるために必要以上に遅めのテンポを取る誘惑にかられるともローゼン先生は書いています。その方が悲劇性が高まり演奏効果が上がるからです。
アラウもまた、そう言う場面ではたっぷりとしたテンポでこの上もなく悲劇的な音楽に仕立てています。

そして、そうやってあれこれ聞いていてみて、そう言う誘惑にかられる場面でバックハウスは常に禁欲的なので驚かされました。
そして、なるほど、これが戦後のクラシック音楽を席巻した即物主義というものか、と再認識した次第です。

逆に言えば、そう言う演奏効果が上がる部分では、「楽譜はこうなっていても実際にはこういう風に演奏するモンなんだよ」というのが劇場で継承されてきた「型」、つまりは「伝統」なのだとこれまた再認識した次第なのです。

そして、バックハウスは「型」を捨ててスコアだけを便りにベートーベンを構築したのだとすれば、アラウは明らかに伝統に対して忠実な人だったと言わざるを得ないようなのです。

そして、クラシック音楽の演奏という行為は「伝承芸能」ではないのですから、そう言う「型」を守ることはマーラーが言ったような「怠惰の別名」になる危険性と背中合わせになります。
このアラウの全集録音が、そう言う危険性と背中合わせになりながらもギリギリのところで身をかわしているのか、それともかわしきれていないのかは聞き手にゆだねるしかありません。

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