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ベートーベン:ピアノ・ソナタ第20番 ト長調 Op.49-2

(P)クラウディオ・アラウ 1966年4月録音



Beethoven: Piano Sonata No.20 In G, Op.49 No.2 [1. Allegro ma non troppo]

Beethoven: Piano Sonata No.20 In G, Op.49 No.2 [2. Tempo di Menuetto]




ソナチネ・・・ですね

出版は1805年ですが、作品そのものはごく初期に作られた物だと言われています。おそらくは作品2の最初のソナタと同じような時期に作品ではないかと思われます。

ベートーベンはこの作品を出版するつもりなどは全くなかったものと思われるのですが、おそらくは彼の弟が勝手に印刷所に送ったのではないかと考えられています。そして、この作品はベートーベンの友人達の間で、おそらくは子供用の練習曲として出回っていたと思われるのです。
実際今ではこの作品は「ソナチネ」と言った方が通りが言いようで、ピアノを学ぶ人にとっては必修と言って作品となっています。
そんなわけで、この作品にあまりいい思い出を持っていない人も少なくないと思います。(^^;

ただし、純粋に一つの音楽作品として聞いたときには、とりわけ第19番のト短調ソナタの方には十分すぎるほどの芸術的な魅力があります。アンダンテの冒頭の沈み込んだような表情は十分魅力的ですし、その音楽はどこかベートーベンよりはモーツァルトのソナタを思い出せます。
続く軽やかなロンド楽章は、十分にコケティッシュな魅力をもっているのですが、その中間部の構造はかなり複雑であるとローゼン先生は述べています。
おそらく、ピアノを学ぶ人は指がまわるだけでなく、そう言う構造も含めて理解する能力が必要だと言うことなのでしょう。

それと比べると第20番のト長調ソナタはいささか魅力に欠けると言わざるを得ません。
実際、強弱記号はほとんど書き込まれていないので、ベートーベンがこの作品に多くの時間をかけなかったことは明らかです。

作品の構造もウィーンの伝統的なスタイルをそのまま適用しているだけなのですが、それでも凡百の作曲家であればその手際の良さは十分称賛に値するものとも言えます。
なお、第2楽章のメヌエットの主題は、ベートーベンを有名にした七重奏曲の第3楽章の主題と同じものです。


ピアノ・ソナタ第19番 ト短調 Op.49-1


  1. 第1楽章:アンダンテ ト短調 (ソナタ形式)

  2. 第2楽章:アレグロ ト長調 (ロンド)




ピアノ・ソナタ第20番 ト長調 Op.49-2


  1. 第1楽章:アレグロ・マ・ノン・トロッポ ト長調 (ソナタ形式)

  2. 第2楽章:テンポ・ディ・メヌエット ト長調 (ロンド)



アラウという人はドイツの「型」を色濃く「伝承」しているピアニストと言えそうです


日本の伝統芸能の世界には「芸養子」なる制度があります。能や歌舞伎の役者に子供がいない場合には、能力がある弟子を実際の子供(養子)として認めて育てていくシステムのことです。
芸事というのは、大人になってから学びはじめては遅い世界なので、芸事の家に生まれた子供は物心が付く前から徹底的に仕込まれることでその芸の世界を次に繋いでいきます。ですから、伝えるべき子供がいないときには、「芸養子」を迎えてその芸を継がせるのです。

アラウという人の出自を見てみると、彼もまた「芸養子」みたいな存在だと思わせられました。
彼は幼くしてリストの弟子であったクラウゼの家に住み込み、そのクラウゼからドイツ的な伝統の全てを注ぎ込まれて養成されたピアニストです。ですから、出身はアルゼンチンですが、ピアニストとしての系譜は誰よりも純粋に培養されたドイツ的なピアニストでした。

まるでドイツという国の「芸養子」みたいな存在です。
彼の中には、良くも悪くも、「伝統的なドイツ」が誰よりも色濃く住み着いています。

言うまでもないことですが、楽譜に忠実な即物主義的な演奏はドイツの伝統ではありません。ですから、アラウの立ち位置はそんなところにはありません。
おそらく、伝統的なドイツから離れて、そう言う新しい波に即応していったのはどちらかと言えばバックハウスの方でした。

こんな事を書けば、バックハウスやケンプこそがドイツ的な伝統を受け継いだ正統派だと見なされてきたので、お前気は確かか?と言われそうです。
しかし、60年代の初頭に一気に録音されたアラウのベートーベン、ピアノソナタ全集をじっくり聞いてみて、なるほど伝統的なドイツが息づいているのはバックハウスではなくてアラウなんだと言うことに気づかされるのです。

言うまでもないことですが、芸事の伝統というのは学校の勉強のようなスタイルで伝わるものではありません。そうではなくて、そう言う伝統というのは劇場における継承として役者から役者へ、もしくは演奏家から演奏家へと引き継がれるものです。
そして、その継承される内容は理屈ではなくて一つの「型」として継承されていきます。そして、その継承される「型」には「Why」もなければ「Because」もないのが一般的です。

特に、その芸事の世界が「伝承芸能」ならば、「Why」という問いかけ自体が「悪」です。何故ならば、「伝承芸能」の世界において重要なことは「型」を「伝承」していくことであって、その「型」に自分なりのオリジナリティを加味するなどと言うことは「悪」でしかないからです。
それに対して、「伝統芸能」であるならば、取りあえずは「Why」という問いかけは封印した上で「型」を習得し、その習得した上で自分のオリジナリティを追求していくことが求められます。

「伝統芸能」と「伝承芸能」はよく同一視されるのですが、本質的には全く異なる世界です。
そして、西洋のクラシック音楽は言うまでもなく「伝統芸能」の世界ですから、「型」は大事ですが「型」からでることが最終的には求められます。

しかし、「伝承」の色合いが濃い演奏家というのもいます。
そう言う色分けで言えば、アラウという人はドイツの「型」を色濃く「伝承」しているピアニスト言えそうなのです。

この事に気づいたのは、チャールズ・ローゼンの「ベートーベンを読む」を見たことがきっかけでした。
このローゼン先生の本はピアノを実際に演奏しないものにとってはかなり難しいのですが、丹念に楽譜を追いながらあれこれの録音を聞いてみるといろいろな気づきがあって、なかなかに刺激的な一冊です。
そして、ローゼン先生はその著の中で、何カ所も「~という誘惑を演奏者にもたらす」という表現を使っています。

そして、そう言う誘惑にかられる部分でアラウはほとんど躊躇うことなく誘惑にかられています。

例えば、短い終止が要求されている場面では音を伸ばしたい要求にとらわれます。そうした方が、明らかに聞き手にとっては「終わった」と言うことが分かりやすいので親切ですし、演奏効果も上がるからです。
アラウもまた、そういう場面では、基本的に音を長めに伸ばして演奏を終えています。
例えば、緩徐楽章では、その悲劇性をはっきりさせるために必要以上に遅めのテンポを取る誘惑にかられるともローゼン先生は書いています。その方が悲劇性が高まり演奏効果が上がるからです。
アラウもまた、そう言う場面ではたっぷりとしたテンポでこの上もなく悲劇的な音楽に仕立てています。

そして、そうやってあれこれ聞いていてみて、そう言う誘惑にかられる場面でバックハウスは常に禁欲的なので驚かされました。
そして、なるほど、これが戦後のクラシック音楽を席巻した即物主義というものか、と再認識した次第です。

逆に言えば、そう言う演奏効果が上がる部分では、「楽譜はこうなっていても実際にはこういう風に演奏するモンなんだよ」というのが劇場で継承されてきた「型」、つまりは「伝統」なのだとこれまた再認識した次第なのです。

そして、バックハウスは「型」を捨ててスコアだけを便りにベートーベンを構築したのだとすれば、アラウは明らかに伝統に対して忠実な人だったと言わざるを得ないようなのです。

そして、クラシック音楽の演奏という行為は「伝承芸能」ではないのですから、そう言う「型」を守ることはマーラーが言ったような「怠惰の別名」になる危険性と背中合わせになります。
このアラウの全集録音が、そう言う危険性と背中合わせになりながらもギリギリのところで身をかわしているのか、それともかわしきれていないのかは聞き手にゆだねるしかありません。


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