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チャイコフスキー:序曲「1812年」変ホ長調 作品49(合唱付き)

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ドン・コサック合唱団 966年10月13日&12月29日録音



Tchaikovsky:1812 Overture, Op. 49, TH 49


下品さが素敵!!

その昔、「これからの私の人生にチャイコフスキーの音楽はもう不要だ」と言った、エラーい評論家が痛そうです。いや、(訂正)、いたそうです。(^^;
クラシック音楽が「強要」として、いや(訂正)、「教養」としてとらえられていた、古き良き(?)日本の時代を思い出させてくれるエピソードです。

なるほど、「教養」と書こうと思って、「きょうよう」と入力して変換すると「強要」になるとは、パソコンの変換機能はたんなる変換機能をこえて事の真実をさらけ出す能力まで身につけたようです。
確かに、「教養」というものは、どう聞いても面白くないようなものをじっと我慢して聞くことを「強要」されることで身につくのですから、最初の音が出た瞬間から耳が惹きつけられ、聞き進んでいくうちに血湧き肉躍るというような音楽では「教養」は身につかないのです。ですから、「教養」を身につけるためにクラシック音楽を聴いているエライ人にとってはチャイコフスキーの音楽などは害悪以外の何物でもないでしょう。

そして、おそらくは、そう言う人たちにとって、このチャイコフスキーの「序曲 1812年」こそは、そのような害悪の象徴、悪の権化のような音楽だったに違いありません。
まさに、下品!!
おそらく、音楽史上、最も下品な音楽の一つでしょう。いやもしかしたら「One of the most vulgar music」ではなくて「Most vulgar music」かもしれません。

しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉もありますが、芸の世界では、下品も極めれば一つの価値となります。その下品さこそが最高に素敵なのです。

この作品は今さら言うまでもなく、1812年のナポレオンによるロシア戦役を描いた音楽です。この戦役では、ロシアはナポレオン軍に首都モスクワを制圧されながらも、最終的には冬将軍の厳しい寒さにも助けられて「無敵ナポレオン」を打ち破ります。まさに、歴史に刻み込むべき「偉大なる祖国防衛のための戦い」でした。
ですから、この作品はその戦いをなぞった音楽になっています。


  1. 第1部:Largo
    ヴィオラとチェロのソロが奏でる正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」にもとづく静かな序奏で始まります。この後のハチャメチャが想像できないような美しい出始めです。

  2. 第2部:Andante
    打楽器の活躍がロシア軍の行進を暗示し、音楽は次第に盛り上がっていきます。

  3. 第3部:Allegro giusto
    「ボロジノの戦い」と説明されることもあります。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の旋律を響き渡り、ナポレオン群の進撃が始まります。
    最初の大砲もこの部分で5回「発射」され、この偉大なる(?)作品の真実が姿を現し始めます。

  4. 第4部:Largo
    冒頭の主題と同一の旋律ですが、今度は管楽器で堂々と演奏されロシア軍の反撃が始まります。

  5. 第5部:Allegro vivace
    ロシア帝国国歌が壮大に演奏されます。
    さらに鐘は鳴り響き、大砲もとどろく中でナポレオン軍は撃退されロシア軍の大勝利で音楽は終わります。



まさに、下品です(^^v
でも、素敵です!!


外連の限りを尽くしたチャイコフスキーを、さらに上回る外連で切り返した空前絶後の演奏と録音

開いた口がふさがらない、そして、聞き終わった後に思わずブラボーを叫びたくなる演奏です。
チャイコフスキーの1812年と言えば、陸軍士官学校のカノン砲がぶっ放され、72個の鐘が壮大に鳴り響くというドラティ指揮によるMercury盤が有名ですが、このカラヤン盤と比べれば子どもの遊びです。

どうせやるならばここまでやらないと駄目なんだという、カラヤンの不敵な笑みが目に浮かぶようです。

まず、なんと言っても冒頭からオーケストラではなくて合唱が聞こえてくるのでギョッとします。序曲「1812年」に合唱付きのヴァージョンなんてあったのかなと思って調べてみると、当然の事ながらそんなヴァージョンは存在しません。

では、この「合唱」は何かと言えば、ロシア正教会の聖歌「神よ汝の民を救い」をヴィオラとチェロのソロが奏でるように編曲されたものを、そのまま合唱で歌わせているのです。
つまりは、もともとは「正教会の聖歌」だったものをチャイコフスキーはオーケストラ用に編曲しているのですが、その編曲した部分をもとの「正教会の聖歌」という形に戻して演奏しているのです。

「原典尊重」という錦の御旗からすればあり得ない暴挙なのですが、もとが「正教会の聖歌」だったので、驚くほど見事にはまりこんでいます。
カラヤンならばこういう場面ではウィーンの合唱団を使うのが普通なのですが、ここではわざわざドン・コサック合唱団を使ったことも成功している要因かも知れません。

それから、余談になるのですが、この冒頭部分でのバス声部がどこまで明瞭に聞き取れるかはシステムのクオリティチェックに使えるかも知れません。

調べた範囲では、カラヤン以前にこのような変更を加えた録音は見つけられませんでしたので、もしかしたらカラヤンのオリジナルかも知れません。そして、この変更が実に自然で演奏効果も上がるので、序曲「1812年」(合唱付き)と言うことで、このスタイルを採用する指揮者も少なくないようです。


さらに、この演奏を聞いていて感嘆するのは、最後のクライマックスに突入する前の息の長い、長い、長い(^^;リタルダンドのかけ方です!!
これを「見事」と言うべきか「あざとい」と言うべきかで、カラヤンの芸に対する評価は真逆になるはずです。

このリタルダンドの後に、フィナーレに突入するための大爆発が来るのは誰でも予想がつきます。
それはもう、言ってみれば水戸黄門の「葵の御紋」みたいなものです。
出るのは分かっているのですが、それをどのような手順を踏んで、どのような場面で出すのかは役者の「芸」にかかっています。

なぜならば、ここでの息の長いリタルダンドは、その徐々に落としていくテンポ設定がツボにはまらないとだれてしまいます。つまりは、それほど粋の長いリタルダンドだというわけです。
しかし、ここでのカラヤンのテンポの落とし方は見事としか言いようがありません。

そして、極限まで緊張感を高めたその先でものの見事に大爆発をさせています。

さらに、そこからフィナーレになだれ込んでいく場面での、鬼のようなベルリンフィルの合奏能力には舌を巻くしかありません。
序曲「1812年」というのは大砲の音だけが聞かせどころではないと言うこと、もっと言えば、そう言うことは音楽全体から見れば「些細なこと」だと言うことを分からせてくれる演奏です。

とは言え、カラヤンもまた原典は無視して大砲をぶっ放しているのですが、それはこの演奏における「聞き所」としては、その優先順位としてはかなり低いものになっています。

でも、どうせやるならなここまでやってみろとカラヤンに言われても、ここまでやれる人っていないんですね。

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