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ベートーベン:序曲「レオノーレ」第3番 Op. 72b

フェレンツ・フリッチャイ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1958年9月29日~30日録音

Beethoven:Leonora Overture No.3 in C major, Op.72b


彫琢の限りを尽くした作品

ベートーベンは生涯にたった一つの歌劇しか残しませんでしたが、そのたった一つのために9年もの歳月を費やしています。そして、その改作のたびに彼は新しい序曲を作曲しましたので、後世の私たちはなんと幸いなことに合計で4曲もの素晴らしい管弦楽作品をもつことで出来たのです。
その改作の履歴と序曲の関係を簡単に振り返っておきましょう。


  1. 「レオノーレ」序曲第1番(1805年)
    この作品はベートーベンの死後に遺品の競売に際して発見されたもので、実際に歌劇の序曲として演奏されたことはありません。おそらくは1805年に作曲されたものと思われリヒノフスキー邸で試演もされたようです。
    しかし、作品そのものが歌劇の序曲としては軽すぎると言うことでベートーベン自身も不満があり、さらには周辺の人々も好意的ではなかったためにお蔵入りになってしまったようです。
    なお自筆楽譜には「性格的序曲」としか記述されていないのですが、フロレスタンのアリアの引用などがなされていることから、間違いなくフィデリオの序曲として考案されたものと思われます。

  2. 「レオノーレ」序曲第2番(1805年:第1版)
    フィデリオの初演はナポレオンの軍隊がウィーンの町を占領する中で行われたために成功をおさめることは出来ず、わずか3日で上演は打ち切られます。
    それは、フランス語しか解さないフランスの兵士が聴衆の大部分を占める中でドイツ語による歌劇を上演したのですからやむを得なかった結果だと言えます。
    今日、「レオノーレ」序曲第2番と呼ばれる作品は、この初演の時に使用された序曲です。ですから、フィデリオの序曲としてはこの作品はわずか3日にしか演奏されなかったことになります。

  3. 「レオノーレ」序曲第3番(1806年:第2版)
    初演の大失敗を反省して、3幕だったフィデリオを2幕構成の作品に大改訂し、さらに序曲の方も大幅に改訂してほとんど新作といっていいほどの作品が生み出されます。それが今日、「レオノーレ」序曲第3番と呼ばれる作品です。
    この作品はその後フィデリオ序曲が作曲されることで歌劇の序曲としてのポジションは失うのですが、純粋に管弦楽作品として見ても傑出した作品であるために、今ではコンサート・レパートリーとして演奏されるようになっています。
    さらには、マーラーが始めたと言われているのですが、聴衆へのサービスとして第2幕第2場の前に演奏されることが一つの習慣として定着しています。(最近は原点尊重と言うことでこのサービスをカットする上演も増えてきているようです)




音楽の冒頭からベクトルはひたすらに内に向いています。

交響曲みたいな規模の大きな作品よりも、こういう小品(レオノーレの3番は小品とはいえないかもしれませんが^^;)の方が指揮者の特徴みたいなものがはっきりあらわれるのかもしれません。
ここには、フリッチャイが自らの芸風を大きく変えていこうとした姿がものの見事に刻み込まれています。

音楽の冒頭からベクトルはひたすらに内に向いています。
それはひたすらにパワーを内部に取り込んでいくようであり、聞き手にすれば、このため込んだパワーを最後の最後に解き放つも何だろうなという見通しがついてしまいます。そして、そう言う「仕掛け」が聞き手に見破られてしまうところに、未だ過渡期という「課題」があるのかもしれません。

これがフルトヴェングラーだと、そんなに簡単に見破られるような「柔な音楽」はやりません。
しかし、それでいながらも、内へ内へとひたすらに沈潜していくとき、部分的にはフルトヴェングラーの指揮で音楽を聞いているような錯覚に陥るときがあります。

最後のコーダに向かって力を解き放つ前の、ひたすらピアニッシモで沈み込んでいく場面などは実に感動的です。
また、フリッチャイは同じ日程でもう1曲「エグモント」序曲も録音していますが、こちらもまた同じスタイルの演奏になっています。

ただし、レオノーレの3番のように、同じ序曲とはいいながらも山あり谷ありのそれなりに複雑な構造をもっていないので、レオノーレの3番では感じざるを得なかったある種の「あざとさ」が希薄です。
そして、そう言うフリッチャイの要求に応えて、凝縮力があって美しいピアニシモの響きを実現しているベルリンフィルはやはり見事なものだと思わせられます。

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