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バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043

(Vn)ダヴィッド・オイストラフ & イーゴリ・オイストラフ:フランツ・コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1956年録音

Bach:Concerto for 2 Violins in D minor, BWV 1043 [1.Vivace]

Bach:Concerto for 2 Violins in D minor, BWV 1043 [2.Largo, ma non tanto]

Bach:Concerto for 2 Violins in D minor, BWV 1043 [3.Allegro]


3曲しか残っていないのが本当に残念です。

バッハはヴァイオリンによる協奏曲を3曲しか残していませんが、残された作品ほどれも素晴らしいものばかりです。(「日曜の朝を、このヴァイオリン協奏曲集と濃いめのブラックコーヒーで過ごす事ほど、贅沢なものはない。」と語った人がいました)
勤勉で多作であったバッハのことを考えれば、一つのジャンルに3曲というのはいかにも少ない数ですがそれには理由があります。

バッハの世俗器楽作品はほとんどケーテン時代に集中しています。
ケーテン宮廷が属していたカルヴァン派は、教会音楽をほとんど重視していなかったことがその原因です。世俗カンタータや平均率クラヴィーア曲集第1巻に代表されるクラヴィーア作品、ヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品、ブランデンブルグ協奏曲など、めぼしい世俗作品はこの時期に集中しています。そして、このヴァイオリン協奏曲も例外でなく、3曲ともにケーテン時代の作品です。

ケーテン宮廷の主であるレオポルド侯爵は大変な音楽愛好家であり、自らも巧みにヴィオラ・ダ・ガンバを演奏したと言われています。また、プロイセンの宮廷楽団が政策の変更で解散されたときに、優秀な楽員をごっそりと引き抜いて自らの楽団のレベルを向上させたりもした人物です。
バッハはその様な恵まれた環境と優れた楽団をバックに、次々と意欲的で斬新な作品を書き続けました。

ところが、どういう理由によるのか、大量に作曲されたこれらの作品群はその相当数が失われてしまったのです。現存している作品群を見るとその損失にはため息が出ます。
ヴァイオリン協奏曲も実際はかなりの数が作曲されたようなですが、その大多数が失われてしまったようです。ですから、バッハはこのジャンルの作品を3曲しか書かなかったのではなく、3曲しか残らなかったというのが正確なところです。
もし、それらが失われることなく現在まで引き継がれていたなら、私たちの日曜日の朝はもっと幸福なものになったでしょうから、実に残念の限りです。


偉い親を持った息子の辛さ

オイストラフは50年代の後半にコンヴィチュニーとのコンビでバッハやヴィヴァルディの作品を録音しています。
そして、これが実にしみじみとした、郷愁を誘うような演奏で、とてもいいのです。

ヴァイオリンと言えば細身の音でキコキコ弾くのが流行みたいな時期もあっただけに、こういう太くて暖かい音色でゆったりと歌ってくれるとホッとします。そして、それを支えるオーケストラもまた太くて暖かい音色で、さすがはコンヴィチュニー&ゲヴァントハウスです。
そして、こんな書き方をすると、どうせ鈍重な音楽なんでしょ、と思われるかもしれないのですが、決して鈍重にはなっていないのです。絶妙なオーケストラコントロールによって、太さと暖かさと、そしてどこか軽さのようなものを失わない音色なのです。

さて、そう言う素晴らしい演奏ではあるのですが、この録音にはそれだけではすまない裏があるように思われます。
それが、ダヴィッドの息子イーゴリの存在です。


  1. バッハ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043[(Vn)イーゴリ & ダヴィッド]

  2. バッハ:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 BWV 1052[(Vn)イーゴリ]

  3. バッハ:ヴァイオリン協奏曲 ホ長調 BWV 1042[(Vn)イーゴリ]

  4. ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンのための協奏曲 イ短調 Op. 3, No. 8, RV 522[(Vn)イーゴリ & ダヴィッド]



「2つのヴァイオリンのための協奏曲」ではイーゴリが主になっていると思われますので、これはダヴィッドが自らの名声を最大限に生かして息子のイーゴリを売り出すための録音だったと思われます。
今や日本の芸能界も2世、3世タレントの時代と言われますが、それも、親が自らの名声を生かして息子や娘を表舞台に引き出せるからです。

さて、問題はそうやって表舞台に引き出された、もしくは躍り出ることが出来た息子や娘の行く末です。
私の記憶では、最初は「○○の息子・娘」といわれながら、最後は逆の「○○の親」と言われるようになった存在は希有です。

クラシック音楽の世界ではクライバー親子くらいしか思い出せません。
相撲の世界では貴花田親子が思い浮かびますが、あれは芸能の世界ではないですね。
日本の芸能界では宇多田ヒカルと藤圭子の親子でしょうか。それでも、宇多田の中にはカルロスがエーリッヒに感じ続けたコンプレックスがあるように思います。それほどまでに藤圭子の存在は大きいのです。

親の威光で表舞台に出たとしても、そこで輝き続けるだけの力がなければ、そしてその大部分が力がないのですが、選択できる道は二つです。
一つは、そのまま消えていくか、もしくは開き直って「○○の息子・娘」を本業とすることです。
山村紅葉や長島茂一などはその典型だと思うのですが、それでも、そうやって開き直れるまでには随分と葛藤もあったはずです。

そして、このイーゴリもまた父親が存命中はセットで演奏活動を活発に行っていたのですが、次第に教育活動の方に力点を置くようになったのか、その名前を聞くことも少なくなっていきました。
偉い親持つことのメリットと辛さを天秤にかければ、その天秤は果たしてどちらに傾くのでしょうか。

この演奏を評価してください。

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