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メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調 作品90 「イタリア」


ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団 1959年4月録音


弾むリズムとほの暗いメロディ

メンデルスゾーンが書いた交響曲の中で最も有名なのがこの「イタリア」でしょう。
この作品はその名の通り1830年から31年にかけてのイタリア旅行の最中にインスピレーションを得てイタリアの地で作曲されました。しかし、旅行中に完成することはなく、ロンドンのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて1833年にようやく完成させています。
初演は同年の5月13日に自らの指揮で初演を行い大成功をおさめるのですが、メンデルスゾーン自身は不満を感じたようで、その後38年に大規模な改訂を行っています。ただ、その改訂もメンデルゾーン自身を満足させるものではなくて、結局彼は死ぬまでこの作品のスコアを手元に置いて改訂を続けました。そのため、現在では問題が残されたままの改訂版ではなくて、それなりに仕上がった33年版を用いることが一般的です。

作品の特徴は弾むようなリズムがもたらす躍動感と、短調のメロディが不思議な融合を見せている点にあります。
通常この作品は「イタリア」という名が示すように、明るい陽光を連想させる音楽をイメージするのですが、実態は第2楽章と最終楽章が短調で書かれていて、ほの暗い情感を醸し出しています。明るさ一辺倒のように見える第1楽章でも、中間部は短調で書かれています。
しかし、音楽は常に細かく揺れ動き、とりわけ最終楽章は「サルタレロ」と呼ばれるイタリア舞曲のリズムが全編を貫いていて、実に不思議な感覚を味わうことができます。

「何か一つ足りない」モノがあると感じてしまう「不思議」


サヴァリッシュのメンデルスゾーンと言えば、1967年にニュー・フィルハーモニア管弦楽団と録音した「全集」を想起するのが普通でしょう。この、1959年にウィーン交響楽団と録音した「イタリア」は、殆どの人の視野からは消えてしまっている録音なのではないでしょうか。
しかし、サヴァリッシュはこの翌年から70年までウィーン交響楽団の首席指揮者を務め、シューベルトやハイドン、ブラームスの交響曲を録音しているのですから、このコンビによる録音を忘れてしまうのはいささか勿体ない話だと言うことになります。

既に書いたことではあるのですが、サヴァリッシュという人は日本との結びつきが強く、1964年11月にNHK交響楽団の招きで来日してからは、ほぼ毎年のように日本を訪れてはN響を指揮しました。実は、この頃のサヴァリッシュと言えば、アンセルメを筆頭に数多くの指揮者や作曲家達から次代を担う若手のトップとして名前が挙げられていた存在でした。
ですから、カラヤンは彼をウィーンの国立歌劇場に招こうとし、ルドルフ・ビングもメトロポリタン歌劇場に呼ぼうとしたのです。ところが、彼は何を思ったのかそれを断ってしまい(あり得ない!!)、結果として馬鹿にされたと思ったカラヤンとビングはサヴァリッシュを自らの勢力範囲から追い出してしまったのです。

ですから、N響の何が気に入ったのかは不明なのですが、それほどの大物が毎年日本を訪れてN響を指揮をしたというのは驚き以外の何ものでもないのです。
ところが、この島国の不思議で、なかなか手に入らない「舶来モノ」は有り難がっても、毎年毎年やってきてはN響を指揮している「おじさん」と言うことになると、一気に「値打ち」が下がってしまったのです。
商品(失礼!・・・^^;)についているブランド名を有り難がることはできても、商品そのものの本当の値打ちを見極める目はなかったと言うことです。

今ならば、例えば、このメンデルスゾーンの「イタリア」を聞けば、サヴァリッシュがいかに凄い指揮者であったかは容易に理解できるはずです。

ウィーンの街のセカンド・オーケストラみたいな「ひがみ根性」と、それでいながら、ウィーンの街を代表する常設のコンサート・オーケストラであるという「矜恃」みたいなものが入り混ざったウィーン交響楽団の美質を最大限に引き出しているのです。
おそらくは、完璧にして的確なオケへの指示によって、そして、コンサート・オーケストラであるという「矜恃」にも支えられて、個々の楽器のバランスはどの部分をとってもパーフェクトに保たれていて、結果として強靱でありながら艶やかな響きが破綻することなく最後まで維持されています。
そして、「イタリア」という音楽が、そのタイトルゆえに纏いかねない物語性などは一切脱ぎ捨てて、おそらくはメンデルスゾーンですら想像しなかったほどのスタイリッシュにしてクリアな音の造形物へと仕上げているのです。

まさにこれこそがプロの仕事というモノです。
そういえば、この頃のサヴァリッシュの指揮を「外科医のような」と評した人がいたようですが、それは一面では彼の本質をい当てていながらも、その響きがもたらす美しさを見過ごしているような気がします。

しかし、そういう若きサヴァリッシュの美質を数え上げながらも、そして聞き終わった後に「とても立派な音楽を聞かせてもらった」という感想を持ちながらも、「何か一つ足りない」モノがあるという不満も消えないのです。
これが、サヴァリッシュの演奏を聞いた後に残る最大の不思議でした。

それは、この「イタリア」だけでなく、彼の演奏と録音について回る不満なのです。言葉を足せば、彼とN響との演奏でも似たような感覚がいつも残ったモノでした。
もちろん、こんな事を書けば、サヴァリッシュを愛する数多くの人からお叱りを受けることは承知しているのですが、しかし、それは私の正直な感想であることも事実なのです。
実に不思議です。

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