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オーマンディ(Eugene Ormandy)|リヒャルト・シュトラウス:組曲「ばらの騎士」
リヒャルト・シュトラウス:組曲「ばらの騎士」
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1964年2月12日録音
Richard Strauss:Der Rosenkavalier, suite, TrV 227d
ロジンスキーによる編集版

「薔薇の騎士」はシュトラウスの作品の中でも最高の傑作と評されているのですが(^^;、これを最初から最後まで聞き通すのはかなりの困難を強いられます。何故ならば、普通のペラというのはレチタティーヴォとアリアが適当に混ざり合っているので、レチタティーヴォの部分で何を言っているのか分からなくても、アリアの部分にくれば楽しく聞くことが出来るものです。
つまりは、何を言っているのか皆目分からなくても、少し我慢していれば楽しいアリアの時間がやってくるので、それなりに楽しく最後まで聞き通すことが出来る仕掛けになっているのです。
ところが、この「薔薇の騎士」にはアリアと言えるような部分は1曲しかありません。逆に会話のような部分が延々と続き、その部分の音楽もまた耳に印象深く残るような部分は少ないのです。
とは言え、そこでシュトラウスは己の管弦楽法の能力をフルに発揮して、オーケストラが歌以上に雄弁に物語っていくのです。
ならば、そう言うオーケストラの美味しい部分を抜き出して管弦楽曲にした方が楽しいだろうというのは、当然の発想として出てくるのです。
そこで、オペラの中で人気の高かったワルツを適当に組み合わせた作品が作られたのですが、さらにはロジンスキーによってオペラの展開に従って聞かせどころを上手くつなぎ合わせた編集版が作られました。この編集版はシュトラウスの音楽を上手く切り貼りしたものでオーケストレーションの部分に関してもほとんど変更を加えていません。なので、その編集作業は作曲家本人には全くあずかり知らないところで行われました。
ただし、この編集作業は実に巧妙に行われていて、さらには組曲と言いながら全曲は切れ目なく演奏されるので、雰囲気としては交響詩「薔薇の騎士」みたいに聞こえます。
今日では、組曲「薔薇の騎士」と言えばシュトラウスの手になるワルツ版ではなくこちらの編集版を指すのが一般的です。
オーマンディだけが成し遂げた世界
オーマンディという人はほとんどオペラを振らなかったようです。記録によると、メトで「こうもり」を振っているみたいですが(1950年から53年にかけて15回)、それ以外となると見あたりません。
この記録に気がついて、ストラヴィンスキーがオーマンディの事を「ヨハン・シュトラウスの理想的指揮者」と鼻であしらったというエピソードを思い出しました。(ショーンバーグ著:偉大な指揮者たち)やはり。この世界でオペラを振らない指揮者というのは一段低くみられるようです。
確かに、ジョージ・セルもタンホイザーの上演でトラブルを引き起こし、それがきっかけとなってオペラの指揮からは身を引きました(オペラほど忌まわしいものはない!!)。しかし、それ以降もザルツブルグの音楽祭などではオペラの指揮を引き受けていますし、何よりも、若い頃からの実績によっていかにすぐれたオペラ指揮者であるかを十二分に証明していました。
そう思ってストラヴィンスキーの嫌みを聞くと、なかなか痛いところを的確についています。
なるほど、オーマンディって、オペラをふれなかったんだ!!
ところがなのです。
何気なく、リヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」組曲を聴いてみたのです。
まさに「薔薇の騎士」のダイジェスト版、その語り口の上手さに驚かされました。さらに言えば、管弦楽法の大家であるシュトラウスの凄さを余すところなく描き出したコンサート指揮者としての資質の高さが尋常ではないのです。そして、よく言われるゴージャスな「フィラデルフィア・サウンド」が演奏全体を華やかなものにしています。
ただし、この「フィラデルフィア・サウンド」を言う言葉には注意が必要なことにも気づかされました。
この言葉と、吉田秀和の「文化のキーパー」という言葉が相まって、オーマンディの音にはどこか寝そべっているという誤解を招いてしまった雰囲気があるのです。
しかし、ここで聞くことのできるフィラデルフィア・サウンドの切れの良さには驚かされます。音楽は雄大に流れていくのですが、驚くほどに引き締まって切れがあるのです。
そう思って、それ以外のシュトラウスの交響詩を聴いてみると、どれもこれも華やかでありながら音楽は決して寝そべってはいないのです。まさに完璧なアンサンブルによってシュトラウスの精緻なスコアが描き出されます。それは、「英雄の生涯」でも「ツァラトゥストラはかく語りき」でもティルでもドン・キホーテでも同じです。
シュトラウスの交響詩というのは基本的にはオーケストラによるオペラです。そこでは、ドラマが音だけによって展開されていく世界なのですが、その語り口の上手さには驚かされます。そして、その語り口というのは小難しいことなどは一切表に出さず、常に明るく分かりやすくお話を聞かせてくれるのです。
なるほど、こういう風にお話を聞かせてくれる指揮者って他にはいないよね、と思ってみれば、これこそはオーマンディだけが成し遂げた世界であることに気づかされるのです。ですから、何度も繰り返しますが、そこにセルのような古典的透明性がないとか、フルトヴェングラーのような暗さがない(?)と言って批判するのは、肉屋に行って野菜がおいてないと言って暴れると同じくらいに愚かなのです。
それにしても、セルやライナーやトスカニーニやフルトヴェングラー(これ以上数え上げても仕方がない^^;)の個性は認めても、オーマンディの個性と独自性には駄目出しをするというのは、考えてみれば不思議な話です。そして、それ以上に不思議なのは、これほど見事にドラマを語れるのに、どうしてもっと積極的にオペラを指揮しなかったのかと言うことです。
最も、それもまた、オーマンディの個性と独自性として受け入れるしかないのでしょうね。
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