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バッハ:ブランデンブルク協奏曲第2番 ヘ長調 BWV1047


ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (vn)Michel Schwalbe (oboe)Lothar Koch (trumpet)Adolf Scherbaum (harpsichord)Edith Picht-Axenfeld 1964年8月17日~24日録音を再生する

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [1.(no tempo indication)]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [2.Andante]

Bach:Brandenburg Concerto No.2 in F major, BWV 1047 [3.Allegro assai]

就職活動?

順調に見えたケーテン宮廷でのバッハでしたが、次第に暗雲が立ちこめてきます。楽団の規模縮小とそれに伴う楽団員のリストラです。

バッハは友人に宛てた書簡の中で、主君であるレオポルド候の新しい妻となったフリーデリカ候妃が「音楽嫌い」のためだと述べていますが、果たしてどうでしょうか?
当時のケーテン宮廷の楽団は小国にしては分不相応な規模であったことは間違いありませんし、小国ゆえに軍備の拡張も迫られていた事を考えると、さすがのレオポルドも自分の趣味に現を抜かしている場合ではなかったと考える方が妥当でしょう。

バッハという人はこういう風の流れを読むには聡い人物ですから、あれこれと次の就職活動に奔走することになります。

今回取り上げたブランデンブルグ協奏曲は、表向きはブランデンブルグ辺境伯からの注文を受けて作曲されたようになっていますが、その様な文脈においてみると、これは明らかに次のステップへの就職活動と捉えられます。
まず何よりも、注文があったのは2年も前のことであり、「何を今さら?」という感じですし、おまけに献呈された6曲は全てケーテン宮廷のために作曲した過去の作品を寄せ集めた事も明らかだからです。
これは、規模の小さな楽団しか持たないブランデンブルグの宮廷では演奏不可能なものばかりであり、逆にケーテン宮廷の事情にあわせたとしか思えないような変則的な楽器編成を持つ作品(第6番)も含まれているからです。

ただし、そういう事情であるからこそ、選りすぐりの作品を6曲選んでワンセットで献呈したということも事実です。

第1番:大規模な楽器編成で堂々たる楽想と論理的な構成が魅力的です。
第2番:惑星探査機ボイジャーに人類を代表する音楽としてこの第1楽章が選ばれました。1番とは対照的に独奏楽器が合奏楽器をバックにノビノビと華やかに演奏します。
第3番:ヴァイオリンとヴィオラ、チェロという弦楽器だけで演奏されますが、それぞれが楽器群を構成してお互いの掛け合いによって音楽が展開させていくという実にユニークな作品。
第4番:独奏楽器はヴァイオリンとリコーダーで、主役はもちろんヴァイオリン。ですから、ヴァイオリン協奏曲のよう雰囲気を持っている、明るくて華やかな作品です。
第5番:チェンバロが独奏楽器として活躍するという、当時としては驚天動地の作品。明るく華やかな第1楽章、どこか物悲しい第2楽章、そして美しいメロディが心に残る3楽章と、魅力満載の作品です。
第6番:ヴァイオリンを欠いた弦楽合奏という実に変則な楽器編成ですが、低音楽器だけで演奏される渋くて、どこかふくよかさがただよう作品です。

どうです。
どれ一つとして同じ音楽はありません。
ヴィヴァルディは山ほど協奏曲を書き、バッハにも多大な影響を及ぼしましたが、彼にはこのような多様性はありません。
まさに、己の持てる技術の粋を結集した曲集であり、就職活動にはこれほど相応しい物はありません。

しかし、現実は厳しく残念ながら辺境伯からはバッハが期待したような反応はかえってきませんでした。バッハにとってはガッカリだったでしょうが、おかげで私たちはこのような素晴らしい作品が散逸することなく享受できるわけです。

その後もバッハは就職活動に力を注ぎ、1723年にはライプツィヒの音楽監督してケーテンを去ることになります。そして、バッハはそのライプツィヒにおいて膨大な教会カンタータや受難曲を生み出して、創作活動の頂点を迎えることになるのです。


バッハの壊れにくさ

カラヤンは疑いもなく20世紀を代表する偉大な指揮者の一人です。しかし、何故かその評価に関しては二分されます。中には、アンチ・カラヤンこそがクラシック音楽を深く理解していることの証しであるかのように信じておられる方もいるようです。
「いるようです」という婉曲な表現をしたのは、次第にその様なスタンスをとられる方が少なくなってきているように見受けられるからであって、一昔前ならばそれは一つの「常識」ですらありました。

カラヤンを、その一昔前の偉大なマエストロ達と較べてみると、誰もが見ただけで分かる違いが一つあります。
それはレパートリーの広さです。

昔の偉いマエストロ達は、驚くほどにレパートリーが狭いのです。こう書くと誤解を招くかもしれないのでもう少し丁寧に表現すると、実際の演奏の場で取り上げる作品の数がとても限定されるのです。
例えば、フルトヴェングラーと言えばベートーベンとなるのですが、よく知られているようにその9曲ある交響曲を満遍なく演奏会で取り上げているわけではありません。どちらかと言えば奇数番号の作品は頻繁に取り上げているのですが偶数番号の作品に関してはそれほど熱心ではありません。とりわけ2番の交響曲はほとんど取り上げていません。
さらに酷いのがクナです。もちろん例外はありますが、ブルックナーやワーグナー以外には基本的に興味がなかったように見えるほどの頑なさです。

それらと較べると、カラヤンの守備範囲の広さは驚異的です。幾つかの例外はありますが、基本的にはバッハからシェーンベルクまで、好き嫌いなく満遍なく取り上げているのが特徴です。そして、クラシック音楽の世界で「バッハからシェーンベルクまで」という表現はほぼ全てを網羅しているという比喩表現となるのですが、彼のディスコグラフィを調べてみるとバッハ以前のモンテヴェルディの歌劇(ポッペアの戴冠)なども取り上げているのですから大したものです。

そして、このようなカラヤンのスタンスが、それ後の指揮者のあり方を根本から変えたとも言えます。
カラヤン以前は、偉いマエストロともなれば自分の十八番の芸を披露してくれるだけで満足すべきものだと考えられていました。しかし、カラヤンは聞き手の要望に応えてあらゆる作品をそれなりのクオリティで提供して見せました。そうなると、彼に続く指揮者はそれを見習わなければならなくなったのです。

指揮者というのは大変な仕事です。
カラヤンよりは一世代前に属するミュンシュでさえ、「指揮者というものは音楽院の門をくぐったその日から、疲れ果てて最後のコンサートの指揮棒を置くその日まで勉強を続けなければいけない」と語っているのです。ミュンシュは、フルトヴェングラー等と較べればかなり広いレパートリーを持っていましたが、それでも「ベルリオーズのスペシャリスト」と思われる向きもありました。
つまりは、ある程度の集中と分散があったのですが、それがカラヤンとなると特定の分野に集中することはなく、かわりにあらゆる分野にわたって「欠落」と思われるような部分をうまないように目配りをしていたのです。

カラヤンという人は己の努力をしている姿を絶対に見せることなく、その大変なことをいとも容易く成し遂げているかのように振る舞い続けた男でした。
しかし、ミュンシュが語っているように、それは涼しい顔をして容易く成し遂げることが出来るようなものでないのですが、それでも格好をつけて常に涼しい顔をし続けた男だったのです。

これは実に持って驚くべき事です。
しかし、そうやって広大なレパートリーを築き上げていけば、そこにある程度の出来不出来が生じる事はやむを得ないことでした。
そして、その不出来の象徴のように常に槍玉に挙がるのがバッハでした。

何故か?
それは実際に聞いてみればすぐに納得がいきます。

この時代、バッハというものは厳しい音楽であり、その厳しさの中から多くの人は深い精神性を感じとっていたのです。もっとも、こういう抽象的な言い方をしなくても、その典型であるリヒターのバッハ演奏の幾つかを聞いてみればすぐに納得できるはずです。もしくは、シゲティの無伴奏を聞いてみればいいでしょう。
そう言うバッハと較べれば、カラヤンのバッハは常に美音で美しい旋律ラインを描き出してみせる演奏でした。口さがない連中はまるでイージー・リスニングみたいなだとか、ムード音楽みたいなバッハだと言いました。
そして、その一つの典型がここにあります。

この6曲からなるブランデンブルグ協奏曲は、まさにその様なムード音楽のようなバッハです。ここにはバッハが持つ厳しさは欠片もなく、全てがふんわりとした美しい響きの中で時間が流れていきます。ですから、これを、これからバッハを聴こうとする人に対するファースト・チョイスにするつもりはありません。

しかし、それではこれはバッハの音楽ではないのかと聞かれれば、それもまた少し違うように思うのです。
驚くべきは、バッハの音楽の壊れにくさにくさです。

この美しさの中でたゆたう音楽もまた疑いもなくバッハです。この美しさもまたバッハという音楽の抽斗の中から持ち出してきたものであり、それ故にこれもまたバッハなのだと納得させてくれる演奏であることは否定できません。

なお、カラヤンはこの後映像作品としてもこのブランデンブルグ協奏曲を取り上げているのですが、そこでは自らがハープシコードを演奏しながら指揮をしていました。しかし、この64年から65年にかけての録音では、ハープシコードはアクセンフェルトに任せて、自らは指揮に専念しています。
このあたりの使い分けが「格好つけ」として嫌われる要因になっているのかもしれません。
さらに言えば、この録音は6番を除くと夏の休暇中にスイスのサンモリッツで行われています。
汗水垂らして必死で努力している姿は絶対に見せない男だったのですが、それを最後まで貫き通したところにこの男のもう一つの凄さがあると思うのですが、闘魂と根性が尊ばれる国ではそれもまた嫌われる要因になってしまったのかもしれません。

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