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Home|フリッチャイ(Ferenc Fricsay)|リスト:交響詩「前奏曲」

リスト:交響詩「前奏曲」

フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団 1959年9月17 - 23日録音



Franz Liszt:Symphonic Poem "Les Preludes"Le


人生は死への前奏曲

交響詩という形式はリストの手になるものと言われています。それだけに「フン族の戦争」などというけったいな題名のついた作品をはじめとして実にたくさん作曲しています。しかし、その殆どはめったに演奏されることはないようで、録音もあまりお目にかかりません。そんな中で、唯一ポピュラリティを獲得しているのがこの「プレリュード(前奏曲)」です。
 これはフランスの詩人ラマルティーヌの「詩的瞑想録」に題を得たものだと言われています。ものの本によると(^^;、リストはスコアの扉にこのように記しているそうです。
 「人生は死への前奏曲でなくて何であろうか。愛は全ての存在にとって魅惑的な朝である。しかし運命は冷酷な嵐によって青春の幸福を必ず破壊してしまう。傷つけられた魂は孤独な田園生活にその慰めを見いだすが、人はその静けさの中に長くいることに耐えられない。トランペットの警告がなりわたるとき、すべての人は自分自身の意義を求めて再び闘いの中心に飛び込んでゆく」

 こう言うのを読むと、何か人生で辛いことがあったのかな、などと思ってしまいますが、調べてみるとこれが作曲されたときは、2番目の愛人となったヴィトゲンシュタイン侯爵夫人との同棲生活に入って、もっとも幸せの絶頂にいたころなんですね。でも、考えてみるとこれは当然のことで、不幸のどん底にいる人が「人生は死への前奏曲である・・・・」なんて言って曲作りをするなんて不可能です。
 自分がそういう不幸とは一番遠いところにいるからこそ、逆にこのようなテーマで曲作りが出きるのだと言えます。そして同時に、こういう大仰な物言いの中から、いわゆる「ロマン派的な価値観」が垣間見られるような気がします。


悲劇的なものへの親近感

楽しい音楽というものを聞いたことがない・・・と、言ったのはシューベルトだったでしょうか。確かに、すぐれた音楽というものはその中になにがしかの悲劇性を内包しているものです。よく言われるように、それが澄み切った青空のようなモーツァルトの長調の作品であっても、その青さの中に言いしれぬ悲劇性が顔を覗かせていたりするものです。

そして、病を得てからのフリッチャイの音楽を聴いていると、そう言う悲劇的なものへの傾斜が大きくなっているような気がします。
そして、作品によっては、そう言う悲劇的なものに肩入れしすぎるがゆえに、かえって足下をすくわれているような場面もあるかのように見えます。その典型が59年に録音されたモーツァルトのト短調シンフォニーでしょう。
これはもう語り尽くされるほどに語り尽くされていることですが、モーツァルトは壊れやすいのです。

ただし、その同じ録音を聞いて、それを形にとらわれずに作品が内包している悲劇性に肉薄したという人がいたとしても、私は否定しようとは思いません。

ただ、こうやって彼の晩年の録音を聞いていると、その悲劇性におぼれるように対峙してもそれほど作品の形が崩れないものと、驚くほどにそう言うスタンスを拒否するものがあると言うことです。拒否するものの典型が言うまでもなくモーツァルトです。

逆に、形が崩れない典型はチャイコフスキーの音楽でしょうか。
とりわけ、59年に録音された「悲愴」は、この作品の最も優れたアプローチの一つでしょう。そして、ドイツ・グラモフォンがこのすぐれた録音をお蔵入りさせてしまったことには驚きを禁じ得ません。

同じように、リストの前奏曲やスメタナのモルダウのようなロマン派の小品を聞いていると、悲劇的なものへの近しさというスタンスが実に上手くはまっているように思えます。そう言えば、ウェーバーの舞踏への招待なんかも実にいい感じです。
ところが、シュトラウスのワルツのような音楽になると悲劇性がいたって希薄なので、今度はそこへ自分の気分を反映させようとして逆におかしな事になっているような場面もあったりします。そう言う録音を聞いていると、どうしてこんなものを取り上げたんだろうと訝しく思ってしまいます。(まあ、レーベル側からの要望があったのでしょうね。)

それから、意外だなと自分でも思ったのがベートーベンです。61年に録音された運命などは、ズブズブに悲劇性に絡め取られているように聞こえるのですが、ベートーベンにはそれを引き受ける強さがあります。
そして、バルトークのような作品になると、その悲劇性が数学的な精緻さで構築されていることは手に取るように分かるので、そこで悲劇性に足下をすくわれるようなことは起こるはずもないと言うことです。それどころか、あの60年にアンダを迎えて録音されたピアノ協奏曲の録音を聞いていると、バルトークの悲劇性とフリッチャイの悲劇性が同化して、まるで孔子の従心「心の欲する所に従いて矩を踰えず」のような境地に達しているかのようです。

しかし、そうやって彼の晩年(と言っても40代の若さだったわけですが)の録音を聞いていると、その素晴らしさは認めながらも、失ったものの大きさも感じずにはおれません。
あの、50年代の初頭に聞くことが出来た、弾むようなリズム感に裏打ちされた、精緻でありながらも強い推進力に満ちた音楽は姿を消してしまいました。それは、この隔てられた二つの時期において録音された同一の作品を聞いてみると、そのお思いはよりいっそう強くなります。

既に紹介しているものとしては、モーツァルトの二つの交響曲(29番・41番)があるのですが、41番のジュピターなどは古い録音の方に好ましさを感じている自分がいたりします。
それ以外にも、チャイコフスキーの「悲愴(53年・59年)」やドヴォルザークの「新世界より(53年・59年)」などもあります。
変わることによって得たものが大きかった事は否定しませんが、同じように失ったものも大きかったことも否定しようがありません。

ただ、こうやってフリッチャイについてあれこれ述べていながら、実は大きな欠落があることも自覚しています。
それはただの一つも彼のオペラ作編の録音について触れていないことです。
これでは、少なく見積もってもフリッチャイという指揮者の半分しか見ていないと言うことになります。ですから、それなりにペラ作品の録音を概観してからだと、また違ったフリッチャイの姿が見えてくるのかもしれません。
ですから、彼についてこれ以上のことをあれこれ言おうと思えば、それなりに彼のオペラを聞いてからにした方がいいのかもしれません。

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