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ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 Op.88

ジュリーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団1962年1月17,18日録音

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [1.Allegro con brio]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [2.Adagio]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [3.Allegretto grazioso ? Molto Vivace]

Dvorak:Symphony No.8 in G major, Op.88 (B.163) [4.Allegro ma non troppo]




一度聞けば絶対に忘れないほどの美しいメロディーです

メロディーメーカーと言われるドヴォルザークですが、ここで聞くことのできるメロディーの美しさは出色です。
 おそらく一度聞けば、絶対に忘れることのできない素晴らしいメロディーです。

 ユング君がこのメロディーに初めてであったのは、車を運転しているときでした。いつものようにNHKのFM放送を聞きながら車を走らせていました。おそらく何かのライヴ録音だったと思います。
 第2楽章が終わり、お決まりのように観客席の咳払いやざわめきが少し静まったころを見計らって、第3楽章の冒頭のメロディーが流れはじめました。
 その瞬間、ラジオから流れる貧弱な音でしたが、ユング君は耳が釘付けになりました。

 それは、今まで聞いたことがないような、この上もなく美しく、メランコリックなメロディーでした。
 その頃は、クラシック音楽などと言うものを聞き始めて間もない頃で、次々と新しい音楽に出会い、その素晴らしさに心を奪われると言う、本当に素晴らしい時期でした。そんな中にあっても、この出会いは格別でした。

 実は、車を運転しながら何気なく聞いていたので、流れている音楽の曲名すら意識していなかったのです。第4楽章が終わり、盛大な拍手が次第にフェイドアウトしていき、その後アナウンサーが「ドヴォルザーク作曲、交響曲第8番」と読み上げてくれて、初めて曲名が分かったような次第です。

 翌日、すぐにレコード屋さんにとんでいったのですが、田舎の小さなお店ですから、「えぇ、ドヴォルザークって9番じゃなかったですか?」等とあほみたいな事を言われたのが今も記憶に残っています。
 クラシック音楽を聴き始めた頃の、幸せな「黄金の時代」の思い出です。

じっくり耳を傾ける価値はあります


調べてみると、ジュリーニはドヴォルザークをよく取り上げています。今回紹介するフィルハーモニア管を手始めに、ロンドンフィル、シカゴ響、そしてコンセルトヘボウなどを相手に数多く録音を残しています。
こんな事を書くとまたテンポのことか!と叱られそうなのですが、最後のコンセルトヘボウ盤なんかはかなり遅いですね。
数字だけを較べても意味はないのですが、参考までに記しておくと、新世界よりでは以下のようになっています。


  1. フィルハーモニア盤(61年録音) 9:16 12:33 7:51 11:17

  2. コンセルトヘボウ盤(92年録音) 10:10 15:28 8:21 12:53




ちなみに第8番では以下のようになっています。


  1. フィルハーモニア盤(62年録音) 10:11 10:57 6:55 10:03

  2. コンセルトヘボウ盤(93年録音) 12:45 12:10 8:36 10:13



両方とも、おおよそ6分ほど遅くなっています。しかし、不思議なことに、ジュリーニが作ろうとしている音楽の方向性はそれほど変わっていないように聞こえます。
ジュリーニの本質は歌うことです。彼にとって音楽とはまず第1義的に歌うものであったことは間違いありません。それをイタリア人気質という安易な一言で片付けるわけにはいかないのでしょうが、それでも彼の一番根っこの部分にはその本能が根を張っていることは間違いありません。

ただ、面白いと思うのは、先に録音された9番の方がオケの響きはすっきりとした見通しの良いものになっているのに対して、翌年に録音された8番の方はシューマンの録音を思い起こさせるような分厚い響きで驀進していきます。この違いが何に起因しているのは分かりませんが、後のコンセルヘボウ感との録音をインプットしてみれば、彼はほしい響きはこっちの方だったのかな?とは思われます。

ブラームスのところでも感じたのですが、ジュリーにとって音楽とはまず何よりもじっくりと腰を下ろして歌うものであったようです。そして、その歌はジュリーニという人間の中をくぐり抜けることで、よりいっそう繊細で入念な表情をつけられていくことになるわけです。その細かい表情付けを素敵と思うか鬱陶しいと思うかは人ぞれぞれでしょうが、それでも音楽とはこういう形でも存在することが出来るのだと宇ジュリーニの哲学はひとまずは受け入れておくべきでしょう。

それから、最後に忘れずに付け加えておきますが、ここまでネッチリと歌っていても、その歌におぼれて全体を見失うことがないのがジュリーニの凄いところです。8番の方は聞きようによっては歌におぼれて雑になる部分も散見されるのですが、9番の方は実に持って見事な佇まいです。その崩れぬ佇まいの中で繊細に歌っていく様は見事としか言いようがありません。

そう言えば、ジュリーニはこういう巨匠としては珍しく、病気でもないのに98年に引退を表明して第1選から身を退いています。おそらく、彼の中には若い頃から己が理想とする音楽の形が確固として存在していたのでしょう。それ故に、それが実現できなくなったときには潔く身を退く決心が出来たのかもしれません。好き嫌いというレベルで判断すれば「嫌い」という人が少なくないと思われるのですが、それでもそう言う好き嫌いのレベルをこえて一度はその言い分にじっくり耳を傾ける価値は未だに失っていない指揮者だと思います。


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