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モントゥー(Pierre Monteux) |ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団 1952年4月7日録音 Beethoven:Symphony No.4 in B-flat major Op.60 [1.Adagio - Allegro vivace]
Beethoven:Symphony No.4 in B-flat major Op.60 [2.Adagio]
Beethoven:Symphony No.4 in B-flat major Op.60 [3.Allegro vivace]
Beethoven:Symphony No.4 in B-flat major Op.60 [4.Allegro ma non troppo]
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。
そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。
最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)
改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています
気迫に精緻さが追いついた時代
モントゥーのことをかつて「プロ中のプロ」と書いたことがありました。
キャリアには恵まれず、客演活動が中心だったのですが、どのオケにいってもその指揮のテクニックだけで楽団員を信服させてしまい、「独裁せずに君臨する」と言われました。
そんなモントゥーにとって、唯一、手兵とも言えるオケだったのがサンフランシスコ交響楽団でした。
どんな経緯で、フランスからサンフランシスコに流れていったのかは分かりませんが、1935年から17年間にわたってモントゥーはこのオケの音楽監督をつとめています。そして、40年代から50年代にかけてRCAレーベルからこのコンビで40枚近いレコードをリリースしています。
ただし、この一連の録音を聞いてみると、これまたどういう経緯で、かくも多くの録音活動が行われたのだろう、と首をかしげざるを得ません。
何故ならば、40年代の録音を聞いてみると、やけに元気はいいもののかなり荒い演奏をしているからです。
もっと、はっきりと言えば、かなり下手くそなのです。
かくもへたくそなオケに対して天下のRCAレーベルが継続的に録音活動オファーしたというのは、ひとえにモントゥーの商品価値が高かったということなのでしょう。
そして、オケに対して「独裁者」的な立場で望むことをよしとしなかったモントゥーは、実に長い時間をかけてゆっくりとこのへたくそなオケを熟成させていきます。
そう、それはまさに「育て上げる」と言うよりは「熟成」といった方がぴったりな感じで、少しずつ少しずつ完成度を上げていっているのです。
世上に名高い、50年録音の「幻想交響曲」の録音は、ホントに下手くそだった地方オケが、ついに世界レベルにまで熟成したことを世に証明しました。
このコンビの一番良いところは、指揮者がオケを一切締め上げていないことから来る前向きな勢いが横溢していることです。
40年代には、その前向きな勢いだけが前に出すぎて演奏の精度が全く追いついていなかったのが、漸くにしてその両者が良い具合にバランスがとれるようになったのです。
そして、50年代に録音された他の作品においても同これとほぼ同様のことが言えます。
40年代の録音の多くは、録音のクオリティのみならず演奏の質においてもモントゥーの名誉にはならないようなものが多いのですが、50年以降のものはほぼ外れはないようです。
調べてみると、モントゥー&サンフランシスコ響による50年代の主な録音は以下の通りです。
マーラー:『亡き子をしのぶ歌』 1950年2月26日録音
フランク:交響曲ニ短調 1950年2月27日録音
ベルリオーズ:幻想交響曲Op.14 1950年2月27日録音
ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調Op.93 1950年2月28日録音
ショーソン:交響曲変ロ長調Op.20 1950年2月28日録音
ストラヴィンスキー:春の祭典 1951年1月28日録音
ドビュッシー:管弦楽のための『映像』 1951年4月3日録音
ブラームス:交響曲第2番ニ長調Op.73 1951年4月4日録音
ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調Op.60 1952年4月7日録音
シューマン:交響曲第4番ニ短調Op.120 1952年4月7日録音
また、幻想を取り上げたときには、それでもなお「荒いことは荒いです。」とコメントしたのですが、その後、この録音がマイク2本によるワンポイント録音だったことを知り、そのコメントはいささか酷であることに気づきました。
これが後の時代のマルチ録音ならば、そう言う楽器間のバランスの悪さはいかようにも修正が聞くのですが、ワンポイント録音ならば、そこで鳴り響いている楽器のバランスが全てです。録音が終わってから、そのバランスを修正することは不可能です。
さらに、上の録音データを見れば、ほとんど全ての録音が基本的には一発録りだった雰囲気です。
おそらくはコンサートで取り上げた後に、同じ会場で録音したのではないかと思われます。
それらの事を勘定に入れれば、そしてこの時代のオケのレベルを考えれば、かなり精緻な部類に入る演奏だといわねばなりません。
例えば、金管群の弱さなどを感じる部分もあるのですが、それでも、あの下手くそだった地方オケをよくぞここまで熟成させたものだと感心せざるを得ません。そして、不思議なのは、漸くにしてここまで時間をかけて熟成させたオケを54年には手放してしまい、その後はボストン響との関係を深めていったことです。
サンフランシスコ響にしても、モントゥーの後釜は「エンリケ・ホルダ」なる指揮者だったのですから、この「縁切り」はかなりの傷手だったはずです。
やはり不思議な男です。
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