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モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第43番 ヘ長調 K.547


(P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー 1955年12月16,19~23,26,27日録音を再生する

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 547 [1st movement]

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 547 [2nd movement]

Mozart:Sonata in F for Keyboard and Violin, K. 547 [3rd movement]


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最期のヴァイオリンソナタ K.547

このヴァイオリンソナタに関して、アインシュタインも「まるで、パリかロンドンの時代の、彼の最初のヴァイオリンソナタに帰っているように見える」と述べています。
モーツァルト自身もこの作品のタイトルとして「ヴァイオリンを伴う初心者のための小ピアノソナタ」と書き記しています。

実際、第1楽章を除けばヴァイオリンは再び端役を演じるだけであり、アインシュタインが言うように「先祖帰り」としか言いようのない作品になっています。
このヴァイオリンソナタは、K.545のソナチネと同じ時期に生み出されていて、その時期はまさにあの最期の3つのシンフォニーが生み出された時期と重なります。その意味で、この2つの作品は、モーツァルトにとっては純粋な気晴らしだったに違いありません。
しかし、K.545のソナタがピアノの前に縛り付けられた子どもたちがおそらくは200年以上にもわたって嫌々演奏してきた作品であっても、そこには疑いもなくモーツァルト的な優雅さの典型があらわれているのと同様に、このK.547のヴァイオリンソナタにも愛すべき美点がたくさんあります。
特に、フィナーレ楽章の6つの変奏に、別れを告げるモーツァルトの声を聞くことはそれほど難しいことではないでしょう。

ヴァイオリンソナタ第43番 ヘ長調 K.547

  1. 第1楽章:Andantino cantabile

  2. 第2楽章:Allegro

  3. 第3楽章:Andante




忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音

リリー・クラウスによるモーツァルトと言えば、真っ先に思い浮かぶのはゴールドベルグとのコンビで録音されたSP盤の方です。あのパチパチノイズ満載の録音をいつまで聞いているの?と突っ込まれながら、それでも未だに捨てきれぬ愛着を感じている人は少なくありません。
それと比べると、この50年代の中葉にウィーンフィルのコンサートマスターとして名をはせていたボスコフスキーとのコンビで録音したソナタ集は話題になることが少ないように思われます。しかし、今では「偽作」と断定されている「k.17~k22」の6作品や子供時代の2作品も収録されているのは興味深いです。
特に、「k.17~k22」のような「偽作」と断定された作品を今さら録音する人はほとんどいないので、それを実際の音として聞ける価値は大きいと思います。
何故ならば、この偽作を通して、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。ただし、この偽作がもしかしたら、モーツァルトをして「悪くありません」と言わしめたシュスターの作品そのものではないか?と言う見方は否定されているようです。

しかし、演奏に関して言えば、これはある意味でモーツァルトの時代にふさわしいものになっています。

この時代のヴァイオリンソナタというのは従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるというのが慣例でした。そして、モーツァルトはシュスターの作品などにも影響を受けながらこの慣例を打ち破っていくのですが、ボスコフスキーのヴァイオリンはどこまで行ってもリリー・クラウスのピアノに付き従っていくのです。
音色的に自己主張の少ないふんわりとした雰囲気で、その面でも芯の強いクラウスのピアノをサポートしています。

つまりは、この二人の演奏はどこまで行ってもクラウスのピアノが「主」でありボスコフスキーのヴァイオリンは「従」なのです。初期作品ならばこれでいいのかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンがただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるようになってくると、いささか物足りなさを覚えるのは事実です。

しかし、聞きようによっては、クラウスの絶頂期のピアノが堪能できるという風にとらえることもできます。

昨今のピアニストはは右手と左手がほぼ均等に響きます。これは、ギーゼキング以来の「伝統」です。
しかし、リリーの演奏では左手は基本的に控えめで、ここぞと言うところになると深々と響かせて前に出てきます。そこには、彼女なりのモーツァルト解釈とそれにもとづく演奏設計があって、右手と左手が絶妙のバランスで鳴り響きます。その結果として、モーツァルトが音符を使って書いた「心のドラマ」、深い感情がリリーの演奏からはヒシヒシと伝わってきます。

そう言う意味では、これもまた忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音だと言えます。

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