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ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98


バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1962年10月9日録音を再生する

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [1st movement]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [2nd movement]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [3rd movement]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [4th movement]

とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。

 この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
 形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
 それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。

 
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。

 この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
 冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!

 それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
 新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?

 控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。


少しだけ年を重ねて責任を背負った音楽

バーンスタインは1953年に、彼のキャリアとしてははじめての交響曲のスタジオ録音を行っています。すでに、このサイトでも紹介しているのですが、まさに「満を持して」と言う言葉がぴったりの録音でした。
何しろ、6月22日から30日までのわずか1週間あまりの間にベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」(6月22日)・シューマン:交響曲第2番(24日&26日)・ブラームス:交響曲第4番(6月29日)・チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(6月29日&30日)の4曲も収録しているのです。そして、少し間をおいて7月28日にはドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」を録音しています。

おそらく、デッカからの申し入れを受け入れたときから、この予定されていたセッションまでの間に徹底的にスコアを検討し尽くしたことでしょう。
そして、その中からつかみ取った「己の信じた音楽」を精一杯表現しようとしたことは間違いありません。此処に聞けるものは、ひたすら上を目指して駆け上がっていく若者の音楽であり、その「若さの勢い」はこの上もなく眩しいものでした。

そんなバーンスタインがニューヨークフィルを手中に収め、そして録音に関しても決定権を持つようになった60年代にはいると、当然のことかもしれませんが、雰囲気は少しばかり違ってきます。特に、ブラームスやベートーベンのような作品に顕著なのですが、53年のように自分を出し切ること、言葉をかえれば音楽の中に自分が入り込んでしまうのではなく、そこから少し間をおいて音楽を真っ当に構築しようというような素振りが感じられるようになります。

もちろん、何度も聞かれることを前提とした「録音」と言う行為は一発勝負のライブ演奏とは自ずから変わってきます。ライブならば効果抜群の「見得」も、繰り返し聞かれる録音ではあざといだけになってしまうことはよくあることです。ライブではそこまで気にならないアンサンブルの荒さも録音では耳障りです。
50年代のバーンスタインはただただ自分だけを信じて突っ走ればいいだけの若者でした。しかし、年を重ねて責任を背負えば、バーンスタインのような男でも突っ走るだけの若者ではいられないのです。

ブラームスの交響曲で言えば、最もバーンスタインの気質に合っていると思われる第1番では、作品との距離感は小さいように聞こえます。若いバーンスタインの特長である、強烈な直進性は「やるしかない!!」という思いで始まる第1楽章にぴったりと当てはまっています。最終楽章のコーダの追い込みも、年を取ったらやれないだろうなと思わせるほどの「あざとさ」に満ちています。
第1番の交響曲は2番(62年)・3番(64年)・4番(62年)とくらべるととくらべると録音時期も早いので(60年)、あまり難しいことも考えずにすんでいるような気もします。(??;
そしてふと思ったのは、のだめカンタービレの中で千秋とR☆Sオーケストラが大成功を収めたブラームスって、もしかしたらこんなかんじじゃなかったかな?などと妄想したりもするような音楽になっていますね。

それとくらべると第2番や3番は音楽とバーンスタインの間にかなりの距離感を感じます。

第4番は53年にも取り上げているので(彼の要望だったのかレーベルの要望だったのかは分かりませんが)直接比較が可能なのですが、やはり荒っぽさと勢いが綯い交ぜになった不思議な火照りは後退しています。
しかし、まあそれは普通なんでしょうね。この62年盤にしても、通常のブラ4とくらべれば驚くほどの「明るさ」が前面に出ています。同時代のワルターの舞い落ちる秋の枯れ葉のような演奏を聴いた後にこれを聴けば、ほとんど別の音楽に聞こえることは間違いありません。

ただし、どの作品でも、歌うところは実によく歌っています。それも、晩年のあのネッチリとした歌い方ではなくて、もう少し風通しの良いさわやかな歌い方です。これが、ニューヨークを去ってフリーになってからは、どれを聴いてもバーンスタインの体臭みたいなものがまとわりつくようになるので、それが嫌いな人にとっては好ましく思えるでしょう。もちろん、逆は真でもあるので、その言う体臭が好きな人にとってはあっさりしすぎていて物足りなく思えるでしょう。

ただし、アンサンブルに関して言えば・・・、やはり荒いですね。(^^;
オケのアンサンブルを鍛え上げるには「悪人」にならないといけないのですが、最後までそう言うことができないのがバーンスタインでした。彼は出来上がったオケを使って「自分の音楽」を表現するのは得意でしたが、一から物事を築き上げていくのは苦手な人でした。

ただし、ニューヨークのオケは五月蠅いことを言わないカリスマ型指揮者は好きでも、アンサンブルを鍛え上げるようなトレーナー型の指揮者はあまりお好きではなかったようですので、この組み合わせは彼らにとっては幸せなものだったでしょう。そして、オケのたがが緩んでどうにもならなくなった時点で彼はニューヨークを去り、その後、二度と音楽監督などと言う面倒な仕事を引き受けなかったのは賢明な選択でした。(彼の後を次いだブーレーズの苦労は一方ならないものだったようです)

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