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ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.77

スタインバーグ指揮 (Vn)ミルシテイン ピッツバーグ交響楽団 1953年11月29日録音

Brahms:Violin Concerto in D Op.77 [1st movement]

Brahms:Violin Concerto in D Op.77 [2nd movement]

Brahms:Violin Concerto in D Op.77 [3rd movement]


ヴァイオリンを手にしてぼんやりと立っているほど、私が無趣味だと思うかね?

この言葉の前には「アダージョでオーボエが全曲で唯一の旋律を聴衆に聴かしているときに・・・」というのがくっつきます。
サラサーテの言葉です。(^^)
もっとも、その前にはさらに「ブラームスの協奏曲は素晴らしい音楽であることは認めるよ、しかし・・・」ということで上述の言葉が続きます。

おそらくこの言葉にこの作品の本質がすべて語られていると思います。
協奏曲と言う分野ではベートーベンが大きな金字塔をうち立てましたが、大勢はいわゆる「巨匠風協奏曲」と言われる作品が主流を占めていました。独奏楽器が主役となる聞かせどころの旋律あちこちに用意されていて、さらに名人芸を披露できるパッセージもふんだんに用意されているという作品です。
イタリアの作曲家、ヴィオッティの作品などは代表的なものです。
ただし、彼の22番の協奏曲はブラームスのお気に入りの作品であったそうです。親友であり、優れたヴァイオリニストであったヨアヒムと、一晩に二回も三回も演奏するほどの偏愛ぶりだったそうですから世の中わからんものです。

しかし、それでいながらブラームスが生み出した作品はヴィオッティのような巨匠風協奏曲ではなく、ベートーベンの偉大な金字塔をまっすぐに引き継いだものになっています。
その辺が不思議と言えば不思議ですが、しかし、ブラームスがヴィオッティのような作品を書くとも思えませんから、当然と言えば当然とも言えます。(変な日本語だ・・・^^;)

それから、この作品は数多くのカデンツァが作られていることでも有名です。一番よく使われるのは、創作の初期段階から深く関わり、さらに初演者として作品の普及にも尽力したヨアヒムのものです。
それ以外にも主なものだけでも挙げておくと、

レオポルド・アウアー
アドルフ・ブッシュ
フーゴー・ヘールマン
トール・アウリン
アンリ・マルトー
ヤッシャ・ハイフェッツ
ただし、秘密主義者のヴァイオリニストは自らのカデンツァを出版しなかったためにこれ以外にも数多くのカデンツァが作られたはずです。
この中で、一番テクニックが必要なのは想像がつくと思いますが、ハイフェッツのカデンツァだと言われています。


ミルシテイン、50代の記録

スタインバーグの録音をかなりまとまった形でアップしてきたのですが、予想したとおり、反応はほとんどありませんでした。仕方のないことですね・・・。名盤選びに熱心で、そう言う名盤以外の録音を聞く時間が惜しいと思われる方にとっては当然のことかもしれません。
しかし、そう言う歴史的名盤のまばゆい光の中で、ともすれば消え去っていってしまいそうな「職人的いい仕事」を記憶にとどめておくことも大切かと思い、引き続きアップを続けます・(^^;

スタインバーグの名前が現在においてもかろうじて記憶にとどめられているのは、ミルシテインの伴奏者としてクレジットされるからです。
ミルシテインは82歳で指に不調を感じるようになった1986年まで衰えを感じさせない第一線の演奏家として活躍しました。録音技術がアナログからデジタルに移行し、そのデジタルによる録音技術も十分に成熟する時期まで活動を続けたことになります。ですから、彼が生涯に残した膨大な録音はかなり良好な形で現役盤としてカタログに載り続けることが出来ました。

しかし、そうして残された彼の録音を聞き直してみると、そう言う外面的な幸運だけでなく、とりわけ二つの側面で「残るべきして残った事に気づかされます。

その一つめは、他のヴァイオリニストからはなかなか聞くことの出来ない美音と透明性のすばらしさです。

パールマンは彼のことを「古今東西最も音が明瞭・透明なヴァイオリニスト」だと語っていたそうです。
とにかく、彼は同じ作品を何度練習し、演奏しても飽きると言うことがなかったようです。それどころか、もううんざりするほど弾いてきた作品であっても「もっと明瞭なフレージングができる指使いを発見したぞ」と語っていたそうですから、まさに驚くべきヴァイオリンオタクでした。
しかし、そこまでの徹底性があったからこそ、彼の演奏は名人芸をひけらかすのではなく、その名人芸の裏付けによってこの上もなくクリアな音楽を実現していました。よく言われるミルシテインの美音も、いわゆるポッチャリ系のファットなものではなく、そのクリアさの故に実現されたものでした。

ただし、こんな書き方をすると名人芸をひけらかすことは悪いように受け取られるので、どうでもいい事ながら一言付け加えておきます。

リストやパガニーニ以来、クラシック音楽の醍醐味の一つは名人芸のひけらかしです。さらにさかのぼれば、バロック時代からコンチェルトというジャンルは名人芸の披露のためにこそ存在したのです。
ところが、最近はそう言うひけらかしは下品なものとして一段低く見る傾向があります。おそらくそう言うお上品な賢しらさがクラシック音楽をつまらないものにしていると思います。

そのことは、同時代に活躍したミルシテインとハイフェッツを比べてみれば誰もが納得できると思います。確かに、クラシック音楽の演奏が名人芸の披露だけで塗りつぶされたのでは困りますが、それを除外してしまったのでは大切な部分を失ってしまうことに気づくべきです。
ピアノの演奏史にホロヴィッツがいなければどれほど味気ないことでしょう。

ただし、ミルシテインはそう言うタイプに属するヴァイオリニストではありませんでした。
ミルシテインの生涯を振り返ってみれば大きな転機となったのが、1925年のソ連からの出国です。二十歳過ぎに小遣い稼ぎのためにソ連を出国し、彼はルービンシュタインとピアティゴルスキーと組んでカフェバーで演奏をはじめ(凄いカフェバーだ!!)、そして結局はソ連には帰りませんでした。その経緯を聞かれたときに、「ソビエトを出国した時とても良い気持ちだったが、二度と戻って来ないとも思っていなかった。ただ、その後帰ることがなかったというだけだ。」と語っていたそうです。
こういう粋なお兄さんにとって、名人芸を売りにする演奏は向いてはいなかったようです。

次に指摘しておきたいのは、最晩年まで技術的な衰えを見せなかったことです。
指揮者と違って肉体的な衰えが演奏のクオリティに直結する器楽奏者にとって、老化は深刻な問題です。しかし、暇さえあれば練習をくり消し、今の自分にあったフィンガリングを探求し続けてたミルシテインにとって、おそらくは進行していたであろう肉体的な衰えはそれほどダイレクトに演奏のクオリティに直結しませんでした。
そう言えば、22歳でウィーンフィルのコンマスに抜擢され、楽団史上最高のコンマスとたたえられたワルター・ウェラーが指揮者に転向したときに、口さがない連中は「奴は毎日さらうのがイヤになったんだろう」と批判したものです。それほどまでに、年を重ねても練習を繰り返し、衰えを最小限にとどめることは口で言うほど生やさしいことではないのです。
しかし、ミルシテインの生涯を振り返ってみれば、それはまさにヴァイオリンの練習に明け暮れた日々だったようです。そして、彼は自らのコンサートプログラムの中に、必ずバッハかパガニーニの無伴奏曲を入れることを義務としていました。言うまでもなく、それが己の衰えをチェックする「炭坑のカナリヤ」役をしていたわけです。

昔は確かに凄かったけれど、年をとってどうしようもなくなった演奏家に対して奉られる言葉は昔から決まっていました。曰く「枯れた至芸」、曰く「重厚で深い精神性に貫かれた演奏」等々です。
しかし、私の記憶に間違いがなければ、ミルシテインの演奏にそのような持って回った褒め言葉が用いられることはなく、最後の最後までひとりの現役演奏家として評価の対象となっていました。

この二つのことを思えば、彼の多くの録音が常に現役盤としてカタログに残っていることは何の不思議もありません。
そして、このスタインバーグとの競演盤に対して、「ミルシテイン50年代の絶頂期の録音」という売り言葉にもにわかには同意しかねます。彼の演奏はその後もずっと素晴らしかったのですから、これを絶頂期と言いきる自信は私にはありません。
ただ、伴奏指揮者としてミルシテインを支えているスタインバーグは、やはりと言うべきなのでしょうが、実にいい仕事をしています。

ああ、我らが地元のオケの音楽監督に、こういう人がやってこないモンでしょうかね。巨匠ではなくて職人さん希望です。(まあ、巨匠もきませんが・・・^^;)

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