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マルコム・サージェント(Malcolm Sargent)|シベリウス:トゥオネラの白鳥 作品22の2
シベリウス:トゥオネラの白鳥 作品22の2
マルコム・サージェント指揮 ウィーンフィル 1961年11月16日~18日録音
Sibelius:The Swan of Tuonela Op.22-2
民族のアイデンティティ
民族のアイデンティティを問うのは難しいものです。私だって、面と向かって「日本人としてのアイデンティティとは何か?」と問われれば言葉に詰まってしまいます。
とはいえ、人は己のアイデンティティをどこかに求めたくなるのは当然のことであり、シベリウスもまた家庭内言語がスウェーデン語であった事を恥じ、己のフィンランド人としてのアイデンティティを民族叙事詩「カレワラ」に求めました。ですから、彼は若い頃はこの「カレワラ」を積極的に作品の題材として取り上げています。
しかし、「カレワラ」に題をとった若い頃の作品をまとめて聴いてみると、そこで展開される民族的な物語が最終的には西洋音楽の合理性の中でわくづけられてしまっている事に気づかざるを得ません。もちろん、そんなことは私が言うまでもなくシベリウス自身が一番強く感じ取っていたことでしょう。そして、40代になって生み出された作品49の交響的幻想曲「ポヒョラの娘」あたりまでくると、そう言う枠から抜け出しつつあるシベリウスの姿がはっきり見て取れるようになります。
組曲「カレリア」作品11
カレリア地方は「カレワラ」が生み出された地だと言われていて、シベリウスも新婚旅行でこの地を訪れています。
この組曲はカレリア地方の大学から野外劇の付随音楽を依頼され、その音楽から3曲選んで作品11として出版されたものです。
ちなみに、付随音楽の序曲も「カレリア序曲」作品10として出版されているのですが、こちらは演奏される機会は非常に少なく録音もほとんどないようです。
それと比べると組曲の方は、第1曲の雄大なダイナミズム、第2曲のしっとりとした北欧的な叙情、そして第3曲の素朴な民衆の踊りからは明るい快活さがあふれ出していて、疑いもなく若きシベリウスの美質が詰め込まれています。
トゥオネラの白鳥 作品22の2
シベリウスにとってオペラの作曲は一種のトラウマとなっています。
カレワラの英雄レミンカイネンを主人公とした作品を何度か構想するのですが、そのたびに己のオペラに対する適正のなさを思い知らされるのでした。しかし、そうして断念したオペラの断片から「4つの伝説曲」が生み出されたのですから、才能のない作曲家から見れば羨ましい限りの話でしょう。
「トゥオネラの白鳥」はこの「4つの伝説曲」の中の第3曲として位置づけなのですが、単独で取り上げられる機会の多い作品です。
「トゥオネ」とは「カレワラ」に出てくる黄泉の国のことで、そのまわりには黒い川が流れていて神聖な白鳥が悲しみの歌を歌っているとされています。日本の仏教説話である三途の川よりは遙かにロマンティックです。
ところが、「カレワラ」では英雄レミンカイネンは愛したポヒョラの娘を得るために娘の母親からその白鳥を捕まえてくるように命じられます。当然のことながらそのような試みは失敗するのですが、ここではその神秘的なトゥオネラの白鳥が描かれています。
交響的幻想曲「ポヒョラの娘」 作品49
この作品も「カレワラ」に題を得たもので、ここでは英雄ヴァイナモイネンとポヒョラの娘のやりとりが音楽で描かれます。それにしてもレミンカイネンにヴァイナモイネンという二人の英雄を手玉にとったポヒョラの娘とはよほど魅力的な女性だったのでしょう。
ここでも、娘は自分の愛が得たいのならば自分が与えた試練を乗り越える事を英雄ヴァイナモイネン要求します。英雄ヴァイナモイネンは己の力を駆使してその試練を次々と克服していくのですが、最後の「小さな糸巻き棒から船を造る」という試練に失敗し己の斧で負傷してしまいます。
そして、試練に失敗したヴァイナモイネンは試練をあきらめて再び旅に出ようとするのですが、そんなヴァイナモイネンに娘はあざけりの笑いを投げかけま
思い出の一枚
クラシック音楽などというものを聞き始めた頃はLPレコードが全盛の時代でした。新譜が2800円、再発盤でも2000円くらいはしましたので、一枚のレコードを買うのにもずいぶんと思案したものでした。
そんなときに、一枚1300円で売られていたEMIのニューセラフィムシリーズは貴重な存在でした。セラフィムシリーズは元々は一枚2000円で売られていたのですが、その後緑色の実にチープなジャケットに統一されてニューセラフィムシリーズとなって再発されたときには1300円にプライスダウンされました。
さらに、「NEW SERAPHIM BEST150」と言う形で新しい録音も追加されて廉価盤LPの代名詞的存在になりました。
ここで紹介しているサージェントのシベリウスも、そんなニューセラフィムシリーズに収録された一枚であり、個人的な思い出を語れば、自分の小遣いで購入した2番目のレコードでした。(ちなみに、一番最初に買ったのはカラヤンの悲愴でした。^^;)
当時高校の同じクラスにクラシック音楽に入れ込んでいる変な奴がいて、カセットデッキを持ち込んでは「これを聴け!」と押しつけるのでみんなから恐れられていたのですが(^^;、何故か私とは波長があったので、その「これを聴け!」という音楽を結構面白く聴いていました。
その友人が「これを聴け!」と押しつけていたのがシベリウスでした。そして、彼はいかにシベリウスという作曲家が偉大な存在であるかを熱っぽく語っていました。
ですから、なけなしの小遣いをはたいてカラヤンの悲愴を買った次に選んだのがシベリウスだったわけです。
ただし、彼が「聴け!」というシベリウスの音楽はいまいちよく分かんないので、できれば一番安いのにしようと言うことで選んだのがニューセラフィムシリーズのサージェント盤だったわけです。
しかし、買い込んできて自宅でゆっくりと聞いてみると、フィンランディアやカレリア組曲は実に気に入りました。しかし、トゥオネラの白鳥は何とも間延びした音楽に思えましたし、交響詩の「エン・サガ(伝説)」に関しては最後まで訳が分かりませんでした。
つまりは表面は気に入ったのですが、裏面は気に入らず、クラシック音楽にもA面とB面があるのか?などと思ったものです。
そんなわけで、今回久しぶりにこの録音を聞き直してみたのですが、実に癖のないおおらかな演奏で、クラシック音楽を聴き始めたばかりのものにとっては結構いい選択だったんだなと思いました。
一般的にウィーンフィルの濃厚で官能的な響きはシベリウスのようなヒンヤリ系の音楽とは相性が悪いとしたものです。
ウィーンフィルによるシベリウスと言って思い浮かぶのは60年代のマゼール盤、さらに最晩年のバーンスタインによる録音が有名です。指揮者のアプローチにも問題はあるのかもしれませんが、どちらもシベリウスの美質よりは指揮者の我、オケの我が前に出すぎているようで、あまり上手くいっているようには思えません。
それと比べれば、このサージェント盤は指揮者が「何もしていない」ようなので、結果としてはそれがウィーンフィルのよく言えば「美質」、悪く言えば「灰汁」を弱めることになり、オケとシベリウスの相性の悪さを中和しているように聞こえます。
ただし、評価の視点をどこに持ってくるかで見方は大きく変わることは事実です。この「何もしていない」ような風情を好意的にとらえる人は「大らかでシベリウスらしい幻想的な雰囲気にあふれた演奏」と評価するでしょう。しかし、そのようなアプローチを否定的にとらえる人は「雑な演奏」と切って捨てることでしょう。
私個人の率直な感想としては、イギリスではそれなりにブイブイ言わせていたサージェントも相手がウィーンフィルになると少しばかり遠慮したのかな?と思わないではありません。
しかし、BBC交響楽団を使って録音した交響曲の1番や5番、そして交響詩「ポヒョラの娘」を聴いても結構大らか(雑?)なので、これはサージェントの持ち味なのかもしれません。却って、相手がイギリスのオケだと結構恣意的な表情付けやテンポの揺れなども散見されるので、ウィーンフィルを相手にした「何もしていない」演奏の方が好ましく思えます。
この演奏を評価してください。
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