Home|
ギーゼキング(Walter Gieseking)|シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
(P)ギーゼキング カラヤン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1953年8月録音
Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 「第1楽章」
Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 「第2楽章」
Schumann:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 「第3楽章」
私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。
クララに書き送った手紙の中にこのような一節があるそうです。そして「何か別のものを変えなければならない・・・」と続くそうです。そういう試行錯誤の中で書かれたのが「ピアノと管弦楽のための幻想曲」でした。
そして、その幻想曲をもとに、さらに新しく二つの楽章が追加されて完成されたのがこの「ピアノ協奏曲 イ短調」です。
協奏曲というのは一貫してソリストの名人芸を披露するためのものでした。
そういう浅薄なあり方にモーツァルトやベートーベンも抵抗をしてすばらしい作品を残してくれましたが、そういう大きな流れは変わることはありませんでした。(というか、21世紀の今だって基本的にはあまり変わっていないようにも思えます。)
そういうわけで、この作品は意図的ともいえるほどに「名人芸」を回避しているように見えます。いわゆる巨匠の名人芸を発揮できるような場面はほとんどなく、カデンツァの部分もシューマンがしっかりと「作曲」してしまっています。
しかし、どこかで聞いたことがあるのですが、演奏家にとってはこういう作品の方が難しいそうです。
単なるテクニックではないプラスアルファが求められるからであり(そのプラスアルファとは言うまでもなく、この作品の全編に漂う「幻想性」です。)、それはどれほど指先が回転しても解決できない性質のものだからです。
また、ショパンのように、協奏曲といっても基本的にはピアノが主導の音楽とは異なって、ここではピアノとオケが緊密に結びついて独特の響きを作り出しています。この新しい響きがそういう幻想性を醸し出す下支えになっていますから、オケとのからみも難しい課題となってきます。
どちらにしても、テクニック優先で「俺が俺が!」と弾きまくったのではぶち壊しになってしまうことは確かです。
ある種の「崖っぷち感」みたいなものが聞き取れる演奏
録音の世界では52年からテープによる録音が主流になるので音質は飛躍的に向上します。
このカラヤンとギーゼキングの演奏は51年に録音されていますから、その意味では音質的にはかなり微妙です。しかし、実際に聞いてみるとそれほどクオリティは低くないように思えます。
それよりは、50年代の初めにこのような「現代的な感覚」でベートーベンやモーツァルトが演奏がされていたことを知ってもらう事には価値があるだろうと思います。
ギーゼキングと言えば、このあとに素晴らしいモーツァルトのピアノソナタ全集を完成させます。その全集の方は既に紹介済みなのですが、即物主義によるモーツァルト演奏のスタンダードとして長く評価されてきた録音です。
その事もあって、ギーゼキングと言えば即物主義の代表のように思われているのですが、若い頃の演奏を聴くとかなりの爆演型でした。例えば、メンゲルベルグを相手にしたラフマニノフのコンチェルトなどは、それはそれは凄まじいものでした。そう言う演奏を聞くと、若い頃のギーゼキングは晩年のギーゼキングとはまるで別人のようです。
そうなると、その変化がいつ頃起こったのかという疑問がおこるのですが、このカラヤンとの録音を聞く限りは、明らかにストイックなまでに即物的な態度で貫かれていることは容易に聞き取ることができます。カラヤンの方もまた、「ドイツの小トスカニーニ(彼はこういう言われ方は好まなかったようですが)」と言われた頃ですから、両者のベクトルはピッタリ一致して、今聞いても「古さ」というようなものは微塵も感じないような演奏に仕上がっています。
調べてみると、この両者は51年から53年にかけて、これ以外にもモーツァルトやシューマン、グリーグなどのコンチェルトを集中的に録音しています。そして、その録音のどれを聞いても、貫かれている感覚はこの上もなく現代的です。いや、もしかしたら、ここまで己の「我」を抑えて、ひたすら作品のあるがままの姿を描き出そうという「誠実」さに貫かれた演奏は、今という時代にあっては次第に聞くことが難しくなっているかもしれません。
そして、若い頃のカラヤンのこういう「誠実」な演奏スタイルを聞かされると、年を取っていろいろな知恵が身につくことが、果たして「進歩」なのかどうか?・・・等という皮肉な思いが脳裏をかすめたりします。
それにしても、50年代の初めという、未だに大戦の記憶が生々しい時代に、この両者がタッグを組んでコンチェルトを集中的に録音した事はかなり興味深い事実です。
カラヤンがナチスの党員であったことは周知の事実です。ギーゼキングもまた党員ではなかったようですが、熱心なナチス信奉者であったことはよく知られています。もしかしたら、カラヤンがビジネスのために割り切ってナチス党員になったことと比べると、ギーゼキングの方が心情的にははるかに「親ナチ」だったかもしれません。
ですから、戦後になると、お互いに「ナチス疑惑」が「晴れる」までは演奏が禁止されますし、演奏禁止が解除されても、「親ナチ」の彼らとは協演を拒否する演奏家も少なくなかったようです。有名どころではルービンシュタインやホロヴィッツなどがあげられるでしょう。ルービンシュタインについて言えば、あの温厚そうな外見とは裏腹に、ドイツでの演奏を死ぬまで拒否し続けた人でした。そう言う周囲の状況を考えると、お互いに納得のいくパートナーとなると選択肢は極めて限られていたことは容易に想像がつきます。そして、そう言う二人にとって、もう一度演奏家としてのキャリアを再構築していくためには「実績」を積み重ねるしかなかったはずです。もちろん、ルービンシュタインのように生涯許してくれない大物もいるでしょうが、「素晴らしい演奏」という実績を積み上げていけば、やがては道は切り開かれるものです。
そう言う意味では、この二人による一連の録音には、他の時代には聞けないような「凄味」みたいなものも感じ取れるような気もします。まあ、ここまで言ってしまうと「深読み」がすぎるかもしれませんが、評価の定まった大家による余裕あふれる演奏では絶対表現できない、ある種の「崖っぷち感」みたいなものが聞き取れるような気がします。
このコンビによる録音
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 k.488(1951年録音)
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 k.491(1953年録音)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58(1951年録音)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」(1951年録音)
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54(1953年録音)
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16(1951年録音)
フランク:交響的変奏曲 (1951年録音)
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
1568 Rating: 4.9/10 (104 votes cast)
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-01]
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)