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ブラームス:ハンガリー舞曲集

カラヤン指揮 ベルリンフィル 1959年9月4日録音


ジプシー音楽を下敷きにした作品

ブラームスのハンガリー舞曲と言えば、第5番だけが突出して有名です。それはきっと、チャップリンが「独裁者」の中で見事に使って見せたことが大きく寄与しているのでしょう。
しかし、ハンガー舞曲は第5番だけではありません。それ以外にも素敵なメロディがあふれていて、ある意味、その手の才能に恵まれなかったブラームスにしては「愛想」のよい作品に仕上がっています。

この作品が書かれることになるきっかけは、若きブラームスがエドゥアルト・レメーニというヴァイオリニストの伴奏ピアニストとしてどさ回りをしていた頃にさかのぼります。
レメーニはジプシー・スタイルの演奏が持ち味で、暇があればジプシー音楽を演奏していました。ブラームスはその音楽が気に入ったようで、暇があればレメーニが演奏するジプシー音楽をメモしていました。そして、そのメモをもとに少しずつ作品として仕上げていったものがハンガリー舞曲集となったわけです。
ですから、後にブラームスがハンガリー舞曲集を発表したときも、「作曲」とはせずに「編曲」とし、さらに作品番号も与えませんでした。

しかし、このブラームスらしい「謙虚」な姿勢があとから彼を救うことになります。
この作品は当初は出版を断られるのですが、後にブラームスの重要なパートナーとなるジムロックが出版を引き受けます。そして、一般家庭にピアノが普及しはじめた社会情勢も追い風となって、この楽譜は飛ぶように売れます。それは、ジムロックだけでなくブラームスにも大きな経済的成功をもたらすことになります。
この成功を見て頭にきたのがレメーニでした。自分が教えてやったジプシーの音楽を勝手に使って、ブラームス一人だけ大もうけしていたのが許せなかったのでしょう。彼はことあるごとに、ブラームスを自分の作品を盗んだ男だと攻撃しました。
ブラームスはこの攻撃に対して静観を決めつけていたようですが、黙っていられなかったのはジムロックの方だったようで、ついにレメーニとジムロックは裁判で白黒をつけることになります。結果は、ブラームスが「作曲」とはせずに「編曲」とした事、そもそも原作者そのもの特定が難しいことなどから、レメーニの敗訴で決着します。

しかし、この裁判によって、ブラームスは続く第3集・第4集においては出来るかぎり自作の旋律を使うようになり、さらにジプシーの音楽を使うときも徹底的に編曲を施して「盗作攻撃」を受けないように配慮するようになりました。
結果として、前半の10曲と後半の10曲ではずいぶんテイストが変わってしまいました。明らかに、後半の作品の方がブラームス的な洗練を感じますが、前半の作品に見られた奔放なジプシーらしさは失われています。
よって、当然のことながら今も昔も人気が高い作品は前半10曲に集中することになります。

ブラームスは間違いなく偉大な作曲家ですが、この事実の中に彼の唯一とも言えるウィークポイントが浮かび上がってきます。

<第1集>
1. ト短調 (Allegro molto)
2. ニ短調 (Allegro non assai)
3. ヘ長調 (Allegretto)
4. ヘ短調 (Poco sostenutto)
5. 嬰ヘ短調 (Allegro)

<第2集>
6. 変ニ長調 (Vivace)
7. イ長調 (Allegretto)
8. イ短調 (Presto)
9. ホ短調 (Allegro non troppo)
10. ホ長調 (Presto)

<第3集>
11. ニ短調 (Poco andante)
12. ニ短調 (Presto)
13. ニ長調 (Andantino grazioso)
14. ニ短調 (Un poco andante)
15. 変ロ長調 (Allegretto grazioso)
16. ヘ短調 (Con moto)

<第4集>
17. 嬰ヘ短調 (Andantino)
18. ニ長調 (Molto vivace)
19. ロ短調 (Allegretto)
20. ホ短調 (Poco allegretto)
21. ホ短調 (Vivace)


カラヤンとベルリンフィルがいい緊張関係にあった時代の聞くべき価値のある演奏

ご存じのように、ブラームスの出世作なのですが、その好評ゆえに様々な形で編曲がされています。
特に、この管弦楽に編曲されたものが最も有名で、事によると原曲である4手用のピアノ連弾曲よりも有名かもしれません。特に第5番はチャップリンが映画「独裁者」で床屋がひげを剃る場面で使ったために非常に有名になりました。

しかし、調べてみると、この管弦楽用の編曲は、ブラームス自身の手になるものは1番と3番、10番だけです。有名な5番の編曲もブラームスではなくてマルティン・シュメリンなる人物の手になるものらしいです。ついでながら、5番に並んで有名な18番の編曲はドヴォルザークらしいです。ドヴォルザークは17番から最後の21番まで編曲をしています。

さて、この管弦楽に編曲されたハンガリー舞曲は多くの指揮者が取り上げています。このカラヤンの録音は、英雄の生涯に続くDG移籍後の第2弾の録音です。
取り上げているのは、

ハンガリー舞曲集 第5番
ハンガリー舞曲集 第6番
ハンガリー舞曲集 第17番
ハンガリー舞曲集 第3番
ハンガリー舞曲集 第1番
ハンガリー舞曲集 第20番
ハンガリー舞曲集 第19番
ハンガリー舞曲集 第18番

の7曲です。
最も有名な5番からはじめて18番で締めくくるというのはカラヤンの選曲だったようです。

それにしても、いつも思うことですが、こういう小品を取り上げて演奏させるとカラヤンという人は本当に上手いです。おまけに、ベルリンフィルに何とも言えない野性的な味が残っていて、このジプシー音楽をいっそう引き立ててます。
ただ、こういう言い方をすると、おまえは褒めているふりをして本音では「小品でしか価値を見いだせない」と言ってカラヤンを貶しているんだろと言われそうですが、決してそんなことはありません。
私は、本当に優れた指揮者(独奏者も)というものは、こういう小品を面白く聞かせるのは必要な芸のうちだと思っています。大作だと力が入るけれど、小品はいい加減にしか演奏しないというのは、どうも信用しかねる思いがします。
帝王カラヤンが最後まで頭の上がらなかったセルもまた、どんな小品であってもクリーブランドの機能を全開にして凄味のある演奏をしたものです。ドヴォルザークのスラブ舞曲やダーイのハーリ・ヤーノシュ等々、どれも凄いものでした。

カラヤンとベルリンフィルがいい緊張関係にあった時代の聞くべき価値のある演奏だと言えます。

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