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ミルシテイン(Nathan Milstein)|マスネ:タイスの瞑想曲
マスネ:タイスの瞑想曲
(Vn)ミルシテイン(P)ポンマー 11956年2月3日録音
Massent:タイスの瞑想曲
マスネの一枚看板?

マスネは19世紀の終わり頃にはその甘美なメロディでとても人気のある作曲家でしたが、今ではほとんど忘れ去られています。ただし、時々「あの人は今?」みたいな感じで蘇演されることはあるので、まるっきりの中味無しの人気作曲家だったわけではありません。最近ではその様な見直しもあって「マノン」などは結構取り上げられる機会が増えているようです。
そんな中で、今でも圧倒的に有名なのがこの「タイスの瞑想曲」です。オペラの方はほとんど演奏されることはありませんが、その劇中で演奏されるこの作品はクラシック音楽に全く興味のない人でも一度は耳にしたことがあるだろうと言うくらい有名です。スッペのところでも書いたことですが、例え1曲でも時代を超えて聞きつがれる作品を生み出したというのは、やはり凄いことなのでしょう。
なお、このタイスの瞑想曲はオペラ『タイース』の第二幕で演奏される音楽です。このオペラは娼婦であるタイスとそのタイスに改心をすすめるキリスト教の修道士アタナエルの物語なのですが、このアタナエルがタイスに改心をすすめて部屋から出て行った後にこの音楽が流れるそうです。(ユング君もこのオペラは聴いたことがないのであくまでも伝聞です・・・^^;)
己の生き方をめぐって揺れるタイスの心の葛藤を表した音楽と言うことらしいです。
何か物足りない
50?60年代のミルシテインの録音を少しばかりまとめて聴いてみました。
少し前に、モノラル録音によるバッハの無伴奏をアップしたのですが、その時は「モノラルという録音のせいもあるのでしょうが、ガツン!!という感じの強靱なヴァイオリンの響きでグイグイとラインを描いていくような雰囲気が印象的で、晩年の美音を主体としたロマンティックな風情とはずいぶんと様子が異なります。」なんて書いていました。
今回聞いたのは、そこから数年しかたってないような時期の録音なのですが、明らかに「美音を主体としたロマンティックな風情」に雰囲気が変わっていることに驚かされました。
たとえば、ベートーベンのヴァイオリンソナタの5番「春」などは、弱音部はまさに「嫋々」という感じの歌い回しで、ロマンティックにテンポを揺らしながら演奏しています。あの、タルティーニの「悪魔のトリル」なんかも全く同様のアプローチで、何となくロマン派の小品を聞いているような錯覚に陥ります。
モーツァルトのヴァイオリンソナタも基本は同じで、あの有名なホ短調のソナタなんかも実にロマンティックに仕上がっています。
おそらく、この弱音部は徹底的に音量を抑えて、さらに細かい表情づけをしていくのがこの時期のミルシテインの特徴のようです。そして、こういうやり方は、ヴァイオリンソナタみたいな音楽では、結構プラスにはたいているように見えます。もっとも、「聴いてる最中はものすごくうまいと思うし、音色も非常に美しく感心することしきりなのだが、聴いてしばらく経つと、もうその感銘が残っていない。」という意見もあって、それはそれで十分納得がいくという演奏です。
つまりは、何というか、「腰が弱い」のです。
その「腰の弱さ」、言葉をかえれば「ナヨッとした雰囲気」が好きか嫌いかで、ずいぶん感想は変わってくるだろうなと思います。
しかし、これがベートーベンやチャイコフスキーなどの協奏曲になると、感想はがらっと変わってしまいます。明らかに、そのような大作になると、「腰の弱さ」は「好き嫌い」という範疇を越えて、明らかに「物足りない」という領域に踏み込んでしまいます。
そう言えば、その昔ハイフェッツが自分自身の役で映画に出演してメンコンを演奏するシーンがありました。
音はきわめて貧弱なものだったのですが、それはそれは、すさまじいまでの迫力に満ちたもので、ハイフェッツとは何者だったのかをはっきりと教えてくれるものでした。
まさに、こういう演奏こそが「腰が強い」と言える代物であって、音の悪さなんかおかまないなしに演奏する人の気迫が聞き手にグイグイと伝わってきます。もう、聞き終わったあとはノックダウン状態で、その感銘はいつまでも心の中に残り続けます。
そう考えると、音楽というのは恐ろしいものです。
テクニック的にも万全で、音色もこの上もなく美しいのに、作品によっては「何か物足りない」ものを感じてしまうのです。聞き手というのは、ホントに贅沢なものです。
この演奏を評価してください。
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