Home|
アントニオ・ヤニグロ(Antonio Janigro)|シューベルト:アルペジョーネソナタ イ短調 D.821
シューベルト:アルペジョーネソナタ イ短調 D.821
(Vc.)ヤニグロ バニョーリ(P) 1954年7月録音
Schubert:アルペジョーネソナタ イ短調 D.821 「第1楽章」
Schubert:アルペジョーネソナタ イ短調 D.821 「第2~3楽章」
シューベルト晩年の「死の影」が刻み込まれた作品

アルペジョーネソナタとは、現在では全く廃れてしまった「アルペジョーネ」という楽器のために作曲された作品であり、おそらくはこの楽器のために作曲された唯一と言っていいほどの作品です。
これは、この楽器が発表されたときはかなりの反響を呼んだようなのですが、結果としては、この楽器の創案者であるシュタウファーという人以外にこの楽器を制作した形跡がなく、さらには、プロの演奏家もほとんど現れなかったために急激に姿を消してしまったことが原因のようです。
そのようなきわめて「希少性」の高い作品をシューベルトが書いたのは、彼の友人の中に、このアルペジョーネの唯一と言っていいほどのプロの演奏家(ヴィンツェンツ・シュースター)がいたためで、その友人からの依頼で作曲したものと見られています。
しかし、この作品は、そのような「希少性」ゆえに価値があるのではなく、その冒頭部分を聞いただけでだれもが了解するように、この上もなく美しい叙情性に彩られたシューベルトならではの世界が展開されるからです。そして、シューベルトの最晩年、時期的には弦楽四重奏曲「死と乙女」などと同時期に作曲されたこの音楽には、色濃く「死の影」が刻み込まれていて、その「悲劇性」もまた多くの聞き手の心を捉える一因となっています。
アルペジョーネという楽器が姿を消した現在にあってはこの作品はチェロで演奏されのが一般的です。アルペジョーネを復刻して「正しい」(もちろん、半分以上嫌味ですよ・・・^^;)姿に戻そうというピリオド楽器の連中もいないようなので、その事に異を唱える人は皆無のようです。
しかし、チェロ弾きの人に聞くと、この作品をチェロで演奏するのはかなりの困難を伴うようです。これが、ヴィオラだとその難易度はかなり下がるらしくて、気楽にプログラムに載せることがせきるそうな・・・。これは、アルペジョーネという楽器が音域的にヴァイオリンの領域までまで含んでいることが原因のようです。
さらには、そ音楽があまりにも美しく魅力的なので、そチェロ以外にもヴィオラやギター、さらにはフルートなどに編曲されて演奏されることもあります。私は聞いたことがありませんが、コントラバスでこの作品に挑んだ猛者もいるそうなのですが、実に持って大変なものです。
ヤニグロとシャフランの聞き比べ
R.シュトラウスの「ドン・キホーテ」でヤニグロというチェリストと出会い、すっかり興味をひかれて、彼の録音をあれこれ探し回りました。そんな探索の中で引っかかってきたのがシューベルトの「アルペジョーネソナタ」でした。
古いモノラル録音なのですが、音質的には悪くはありません。また、こういうシンプルな組み合わせ(ピアノとチェロ)だと、録音がモノラルであることはほとんどハンデにはなりません。
そんなわけで、結構期待して聞き始めたのですが、思いの外端正で真っ当な演奏だったので、少しばかりがっかりしてしまいました。ただし、それは彼の「ドン・キホーテ」の演奏から個性的で味の濃い演奏を期待していたためで、そう言う身勝手な期待をリセットして聞き直してみれば、シューベルトの晩年の諦観みたいみなものがにじみ出てくるなかなか立派な演奏であることは事実です。
特に、その朗々たるチェロの響きはかなり魅力的です。
考えてみれば、この作品は、とにかく楽譜通りに演奏すること自体がかなりの困難を伴うらしいので、そこに「味の濃さ」みたいなものまでつけ加えるのはかなり大変なのでしょう。
しかし、探してみればあったのです。
それが、シャフランというチェリストによる「アルペジョーネソナタ」です。
シャフランは、ソ連を代表するチェリストで、西側での演奏や録音が少なかったために知名度は低いのですが、その「実力」のほどは、あのリヒテルが「ロストロポーヴィチに感動したって?でもシャフランを聴くまでは待ったほうがいい」と言ったというエピソードにもあらわれています。(ただし、その後リヒテルはシャフランのことを「高音を美しく響かせることしか頭にないチェリスト」とも述べています)
そんなシャフランの手になる「アルペジョーネソナタ」なのですが、これは全くもって真っ当でなく、端正さのかけらもない演奏です。まさに、やりたい放題の好き勝手に演奏しています。誰かが、この録音を評して、よくぞピアニストが文句を言わなかったものだと感心したと書いていたのを思い出しました。(どこで読んだかはどうしても思い出せません)
ほほう、まったくその通りだと思い、ピアニストを確認してみると、ディーター・ツェヒリンでした。ツェヒリンもまた、知名度は低いピアニストですが、今はなき東ドイツを代表する偉大なピアニストでした。(今も存命です。)
彼は、70年代にベートーベンやシューベルトのピアノソナタを全曲録音しているのですが、とりわけ素晴らしかったのはシューベルトの録音でした。
この人の特徴は、第一線の演奏家ならば誰しもが持っている「野心」というものと全く無縁なことで、その演奏からは作曲家の姿だけが浮かび上がり演奏家の存在を全く意識させないような演奏をすることでした。ですから、彼の手になるシューベルトを聴くと、ツェヒリンというピアニストの存在は消えて、ただシューベルトとだけ向きあっているような気にさせてくれたものです。
そして、そう言う資質は、既に若い時代から持ってたようで、このシャフランとの共演を聞くと、ここでも己の存在をむなしくして、ひたすらシャフランという我が儘なチェリストのサポートに徹しています。
ただ、ここでのシャフランは、凄いです。録音がヤニグロと比べると新しいにもかかわらず音質が今ひとつ冴えないのは残念ですが、演奏が進につれてシューベルトの晩年の怨念みたいなものが青白い炎を上げて燃え立つような風情です。おそらく、これ以上形が崩れると「醜悪」になる一歩手前で踏みとどまっているのがいいのでしょう。
そんなわけで、この二人に聞き比べはなかなかに面白かったです。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
1449 Rating: 5.6/10 (184 votes cast)
よせられたコメント
2017-01-25:奥村治
- weber がarpeggione (Anton Mitteis model)を所有している事実を発見しました。ベルリン楽器博物館の情報による。
ウェーバーは作曲家ですが、ギターの愛好家でもありシュタイファー作品をもっていた関係もあって、アルペジョーネも購入していたようです。
【最近の更新(10件)】
[2025-07-04]

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調, Op.64(Mendelssohn:Violin Concerto in E minor Op.64)
(Vn)ヨーゼフ・シゲティ:トーマス・ビーチャム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1933年録音(Joseph Szigeti:(Con)Sir Thomas Beecham London Philharmonic Orchestra Recoreded on 1933)
[2025-07-01]

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67(Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1958)
[2025-06-29]

ヘンデル:組曲第12番(第2巻) ト短調 HWV 439(Handel:Keyboard Suite No.12 (Set II) in G Minor, HWV 439)
(P)エリック・ハイドシェック:1964年9月18日~21日&30日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 18-21&30, 1964)
[2025-06-27]

ブラームス:ホルン三重奏 変ホ長調, Op.40(Brahms:Horn Trio in E-flat major, Op.40)
(Hr)フランツ・コッホ :(Vn)ワルター・バリリ (P)フランツ・ホレチェック 1952年録音(Franz Koch:(Vn)Walter Barylli (P)Franz Holeschek Recorded on 1952)
[2025-06-25]

バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV.542(J.S.Bach:Fantaisie Et Fugue En Sol Mineur, BWV 542)
(organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-06-22]

ラヴェル:ダフニスとクロエ第2組曲(Ravel:Daphnis And Chole, Suite No.2)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1959年4月19日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on April 19, 1959)
[2025-06-19]

ヘンデル:組曲第16番(第2巻) ト短調 HWV 452(Handel:Keyboard Suite (Set II) in G Minor, HWV 452)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月30日&10月1日~2日録音
[2025-06-15]

エルガー:ため息 (ソスピーリ), Op.70(Elgar:Sospiri, Op.70)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)
[2025-06-11]

ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60(Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major ,Op.60)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1959年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1959)
[2025-06-08]

ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op21(Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21)
(Vn)アルフレード・カンポーリ:エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年3月3日~4日録音(Alfredo Campoli:(Con)Eduard van Beinum The London Philharmonic Orchestra Recorded on March 3-4, 1953)