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ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

クレンペラー指揮 フランス国立放送管弦楽団 1954年9月17日録音


ベートーヴェンの影を乗り越えて

 ブラームスにとって交響曲を作曲するということは、ベートーヴェンの影を乗り越えることを意味していました。それだけに、この第1番の完成までには大変な時間を要しています。

 彼がこの作品に着手してから完成までに要した20年の歳月は、言葉を変えればベートーヴェンの影がいかに大きかったかを示しています。そうして完成したこの第1交響曲は、古典的なたたずまいをみせながら、その内容においては疑いもなく新しい時代の音楽となっています。


 この交響曲は、初演のときから第4楽章のテーマが、ベートーヴェンの第9と似通っていることが指摘されていました。それに対して、ブラームスは、「そんなことは、聞けば豚でも分かる!」と言って、きわめて不機嫌だったようです。

 確かにこの作品には色濃くベートーヴェンの姿が影を落としています。最終楽章の音楽の流れなんかも第9とそっくりです。姿・形も古典派の交響曲によく似ています。
 しかし、ここに聞ける音楽は疑いもなくロマン派の音楽そのものです。

 彼がここで問題にしているのは一人の人間です。人類や神のような大きな問題ではなく、個人に属するレベルでの人間の問題です。
 音楽はもはや神をたたるものでなく、人類の偉大さをたたえるものでもなく、一人の人間を見つめるものへと変化していった時代の交響曲です。

 しかし、この作品好き嫌いが多いようですね。
 嫌いだと言う人は、この異常に気合の入った、力みかえったような音楽が鬱陶しく感じるようです。
 好きだと言う人は、この同じ音楽に、青春と言うものがもつ、ある種思いつめたような緊張感に魅力を感じるようです。

 ユング君は、若いときは大好きでした。
 そして、もはや若いとはいえなくなった昨今は、正直言って少し鬱陶しく感じてきています。(^^;;
 かつて、吉田秀和氏が、力みかえった青春の澱のようなものを感じると書いていて、大変な反発を感じたものですが、最近はこの言葉に幾ばくかの共感を感じます。
 それだけ年をとったということでしょうか。

 なんだか、リトマス試験紙みたいな音楽です。 い人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。


スタジオ録音と聞き比べてみれば結構面白いです。

ハスキルとの共演でクレンペラー大先生のことを随分と悪く書いたので、少しは彼の大先生の名誉を回復するためにブラームスの交響曲のライブ演奏を追加しておきます。

・交響曲第1番ハ短調 op.68 フランス国立放送管弦楽団 1954年9月17日録音
・交響曲第2番ニ長調 op.73 ベルリン放送交響楽団 1957年1月21日録音
・交響曲第3番ヘ長調 op.90 ウィーン交響楽団 1956年3月8日録音
・交響曲第4番ホ短調 op.98 バイエルン放送交響楽団 1957年9月27日録音

クレンペラーは56年から57年にかけてフィルハーモニア管とのコンビでブラームスの交響曲全集を録音していますから、それと聞き比べてみるとのも面白いでしょう。
あのスタジオ録音に関しては「全体を通してまとめてみれば、極めて真っ当ななテンポ設定と、キチンとしたフォルム重視の、実にスタンダードな演奏だと言うことです。部分的には『おや?』という異形な部分があることも事実ですが、全体的に見てみれば、実に真っ当で立派な演奏です。」とまとめています。

よく知られているように、クレンペラーはモントリオール空港のタラップからの転落事故で大怪我をしてからは椅子に座って指揮をするようになり、おかげで抑制のきいた音楽作りができるようになったと陰口をたたかれています。ところが、その抑制のきいた演奏も59年の寝たばこ事件で大火傷を負い、その抑制がさらに行き過ぎた超スローテンポの音楽作りをするになります。
つまり、今回紹介したライブ録音もフィルハ?モニア管とのスタジオ録音も、ある意味クレンペラーの「絶頂期」に録音されたものなのです。(もちろん、最晩年の録音を評価する多くの人からは石礫が飛んできそうな物言いですが・・・)

ところが、その演奏の雰囲気は随分と異なります。

たとえば、第4番のスタジオ録音は「これほどゴツゴツ感のある第4番も珍しいのではないでしょうか。特に、最終楽章のパッサカリアは、あの音形が聞き手にもはっきりと分かるように、念押しするようにきっちりと提示されています。」と書いたような演奏です。それに対して、ライブ録音の第4番は実に細やかなニュアンスにあふれていて、「優美」とも言えるほどに感情たっぷりに歌い上げています、
もしも、これをブラインドで聞かされて指揮者がクレンペラーだと言い当てられる人はほとんどいないでしょう。

第1番もライブもどちらかと言えば軽めで第4楽章のあの有名なテーマなども実に優美に歌い上げています。作品全体のフォルムが実にかっちりとしていて、ある意味では極めて優等生的な演奏だったスタジオ録音とはずいぶん雰囲気が異なります。

第2番のスタジオ録音も「前半の3楽章がいささか窮屈な感が否めません」と書いたようなキッチリとした演奏になっているのですが、ライブの方は最初からかなりテンションが高めです。そのため、指揮者のコントロールが行き届いていないようでいささか荒っぽい感じの演奏になっています。
ただ、クレンペラーが凄いと思うのは、何をしたのかは分かりませんが、第3楽章あたりからはオケが落ち着いてきて完全に統制がとれてきていることです。惜しむらくは、最終楽章の爆発的に盛り上がっていく部分でリミッターがかかったようになっていて、その凄さが十分に収録され切っていないことです。

ただ、第3番に関しては、演奏のベクトルがとても似通っています。ですから、ミスなくきれいに仕上がっているスタジオ録音の立派さが際だっています。

なるほど、指揮者というものは煮ても焼いても食えない代物のようで、その場その場の雰囲気でくるくると姿を変えます。それが、クレンペラーのような傑物であればなおさらと言うことなのでしょう。
かなりマニアックな聴き方ではありますが、同時期に録音されたスタジオ録音とライブ録音を聞きくべてみるというのは、そう言う指揮者の多面性というものに気づくと言うことでは面白い試みだと思いました。

なお録音に関しては、会場のノイズなどがかなり盛大に入っていて人によっては好き嫌いが分かれると思います。私などはあまり好きな方ではありません。しかし、肝心のオケの音は、この時代のライブ録音としては「出色」と言っていいほどに押し強い部分を上手くすくい取っています。聴き応えは十分です。

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