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ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 作品55

ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年1月20・23・25日録音



Beethoven:交響曲 交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第1楽章」

Beethoven:交響曲 交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第2楽章」

Beethoven:交響曲 交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第3楽章」

Beethoven:交響曲 交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 op.55 「第4楽章」


音楽史における最大の奇跡

今日のコンサートプログラムにおいて「交響曲」というジャンルはそのもっとも重要なポジションを占めています。しかし、この音楽形式が誕生のはじめからそのような地位を占めていたわけではありません。
 浅学にして、その歴史を詳細につづる力はありませんが、ハイドンがその様式を確立し、モーツァルトがそれを受け継ぎ、ベートーベンが完成させたといって大きな間違いはないでしょう。

 特に重要なのが、この「エロイカ」と呼ばれるベートーベンの第3交響曲です。
 ハイリゲンシュタットの遺書とセットになって語られることが多い作品です。人生における危機的状況をくぐり抜けた一人の男が、そこで味わった人生の重みをすべて投げ込んだ音楽となっています。

 ハイドンからモーツァルト、そしてベートーベンの1,2番の交響曲を概観してみると、そこには着実な連続性をみることができます。たとえば、ベートーベンの第1交響曲を聞けば、それは疑いもなくモーツァルトのジュピターの後継者であることを誰もが納得できます。
 そして第2交響曲は1番をさらに発展させた立派な交響曲であることに異論はないでしょう。

 ところが、このエロイカが第2交響曲を継承させ発展させたものかと問われれば躊躇せざるを得ません。それほどまでに、この二つの間には大きな溝が横たわっています。

 エロイカにおいては、形式や様式というものは二次的な意味しか与えられていません。優先されているのは、そこで表現されるべき「人間的真実」であり、その目的のためにはいかなる表現方法も辞さないという確固たる姿勢が貫かれています。
 たとえば、第2楽章の中間部で鳴り響くトランペットの音は、当時の聴衆には何かの間違いとしか思えなかったようです。第1、第2というすばらしい「傑作」を書き上げたベートーベンが、どうして急にこんな「へんてこりんな音楽」を書いたのかと訝ったという話も伝わっています。

 それほどまでに、この作品は時代の常識を突き抜けていました。
 しかし、この飛躍によってこそ、交響曲がクラシック音楽における最も重要な音楽形式の一つとなりました。いや、それどことろか、クラシック音楽という芸術そのものを新しい時代へと飛躍させました。
 事物というものは着実な積み重ねと前進だけで壁を突破するのではなく、時にこのような劇的な飛躍によって新しい局面が切り開かれるものだという事を改めて確認させてくれます。

 その事を思えば、エロイカこそが交響曲というジャンルにおける最高の作品であり、それどころか、クラシック音楽という芸術分野における最高の作品であることをユング君は確信しています。それも、「One of the Best」ではなく、「The Best」であると確信しているユング君です。


安定感のあるゆったりとした演奏

CBSは、体調を崩して第一線を引退したワルターに対して、破格のギャラを提示して復活させたのはよく知られた話です。いわゆる、コロンビア交響楽団という「ワルター専用のオケ」まで用意しての超VIP待遇による録音です。
ただ、この一連の録音は功成り名を遂げた巨匠の手すさびの芸であり、ワルター本来の持ち味が発揮されていないという批判がつきまといました。いや、中には、ワルターと言えばこの晩年のステレオ録音しか知らずに、それだけをもって判断されるという「弊害」まで生んだ・・・等と言われました。
そして、その「弊害」の筆頭によくあげられるのがこのエロイカの録音です。

判断はそれぞれの聞き手にお任せしますが、どんなものなのでしょうか?
今回、この録音をアップするために久しぶりに聞き直してみたのですが、低域をたっぷりと響かせた安定感のあるゆったりとした演奏だなと言うのが最初の感想です。しかし、それは言葉をかえれば、あまり特徴のない、印象に残りにくい演奏だと言うことにもなります。
そう言えば、この前年に彼はトスカニーニの追悼コンサートでエロイカを演奏しています。

ワルター指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1957年2月3日録音
 
あそこではかなり大胆にテンポを動かして、まるでフルトヴェングラーみたいなエロイカを聞かせていました。それからわずか一年、この録音を聞くと、ライブとセッションという違いはあるのでしょうが、まるで別人のようなエロイカです。

やはり音楽には、演奏する人の「気」みたいなものが大事なのでしょう。もちろん、この録音が「気」の抜けたような演奏だとは言いません。しかし、一度は引退を決めたワルターには、まわりの人を巻き込んで別世界に連れて行ってくれるような強い「気」は失われていたように見えます。
そして、その事は「エロイカ」のような作品においては、いささか「致命的」だったようです。

とは言え、昨今のセカセカした演奏を聴かされるよりは、はるかに幸せではありますが・・・。

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