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モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調

ジョージ・セル指揮 ニューヨークフィル (P) アルトゥール・シュナーベル 1944年12月14日 録音


こににも一つの断層が口を開けています。

この前作である第19番のコンチェルトと比べると、この両者の間には「断層」とよぶしかないほどの距離を感じます。ところがこの両者は、創作時期においてわずか2ヶ月ほどしか隔たっていません。

 モーツァルトにとってピアノ協奏曲は貴重な商売道具でした。
 特にザルツブルグの大司教との確執からウィーンに飛び出してからは、お金持ちを相手にした「予約演奏会」は貴重な財源でした。当時の音楽会は何よりも個人の名人芸を楽しむものでしたから、オペラのアリアやピアノコンチェルトこそが花形であり、かつての神童モーツァルトのピアノ演奏は最大の売り物でした。
 
1781年にザルツブルグを飛び出したモーツァルトはピアノ教師として生計を維持しながら、続く82年から演奏家として活発な演奏会をこなしていきます。そして演奏会のたびに目玉となる新曲のコンチェルトを作曲しました。
 それが、ケッヘル番号で言うと、K413〜K459に至る9曲のコンチェルトです。それらは、当時の聴衆の好みを反映したもので、明るく、口当たりのよい作品ですが、今日では「深みに欠ける」と評されるものです。

 ところが、このK466のニ短調のコンチェルトは、そういう一連の作品とは全く様相を異にしています。
 弦のシンコペーションにのって低声部が重々しく歌い出すオープニングは、まさにあの暗鬱なオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の世界を連想させます。そこには愛想の良い微笑みも、口当たりのよいメロディもありません。
 それは、ピアノ協奏曲というジャンルが、ピアノニストの名人芸を披露するだけの「なぐさみ」ものから、作曲家の全人格を表現する「芸術作品」へと飛躍した瞬間でした。

 それ以後にモーツァルトが生み出さしたコンチェルトは、どれもが素晴らしい第1楽章と、歌心に満ちあふれた第2楽章を持つ作品ばかりであり、その流れはベートーベンへと受け継がれて、それ以後のコンサートプログラムの中核をなすジャンルとして確立されていきます。

 しかし、モーツァルトはあまりにも時代を飛び越えすぎたようで、その様な作品を当時の聴衆は受け入れることができなかったようです。このような「重すぎる」ピアノコンチェルトは奇異な音楽としかうつらず、予約演奏会の聴衆は激減し、1788年には、ヴァン・シュヴィーテン男爵ただ一人が予約に応じてくれるという凋落ぶりでした。
 早く生まれすぎたものの悲劇がここにも顔を覗かせています。


セル&シュナーベル しかし、あまりにも録音が悪い

この録音はサーバーにアップすべきかどうか、随分と悩みました。
 録音状態があまりよろしくないからです。シュナーベルのピアノがちょっとピンぼけであまりにも気の毒なのと、第2楽章では完全に歪んでいる部分があるからです。
 しかし、セルとシュナーベルが共演している録音は貴重ですし、何よりもセルが振るニューヨークフィルの響きだけは妙にしっかりと入っているので、思い切ってアップすることにしました。

 ともにナチスの迫害と第2時世界大戦の勃発でアメリカへの亡命を余儀なくされた二人です。
 しかし、セルはご存知のように、戦後もそのままアメリカでの活躍を続け、クリーブランドのオーケストラを世界のトップにまで育て上げましたが、シュナーベルはアメリカの商業主義的な音楽界になじむことができずにヨーロッパに帰ってひっそりと一生を終えました。
 この二人の関係は、まるで双曲線のようだと思うのはユング君だけでしょうか。

 この録音を聞いてユング君が興味深く思ったのは、後年カサドシュと共演して録音した演奏とあまりにも雰囲気が似ていることです。
 カサドシュとの演奏をはじめて聞いたとき、この20番のコンチェルトだけは他の演奏とは雰囲気がちがうので「アレッ!」と思ったのですが、ここでも、その「アレッ!」という部分が同じように聞き取れて、あれは「確信犯」だったんだと納得できました。
 セルはモーツァルトのコンチェルトに伴奏をつけるときは、その響きの透明性とバランスの良さで出色なのですが、何故かこの20番だけはそういうバランスや透明性を犠牲にしてでも、ドラマティックな面を前面に押し出していたのです。なんだか「オケがピアノに襲いかかるみたいだな!」と思ったものですが、このシュナーベルとの共演でも似たような部分が感じられます。

 セルにとって、この作品、20番に対する思い入れが何かあったのかなと想像をたくましくしてしまったユング君でした。

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