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メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64

ジョージ・セル指揮 (Vn)ナタン・ミルシテイン ベルリンフィル 1957年8月9日録音



Mendelssohn:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64 「第1楽章」

Mendelssohn:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64 「第2楽章」

Mendelssohn:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64 「第3楽章」


ロマン派協奏曲の代表選手

メンデルスゾーンが常任指揮者として活躍していたゲバントハウス管弦楽団のコンサートマスターであったフェルディナント・ダヴィットのために作曲された作品です。ダヴィッドはメンデルスゾーンの親しい友人でもあったので、演奏者としての立場から積極的に助言を行い、何と6年という歳月をかけて完成させた作品です。

この二人の共同作業が、今までに例を見ないような、まさにロマン派協奏曲の代表選手とも呼ぶべき名作を生み出す原動力となりました。
この作品は、聞けばすぐに分かるように独奏ヴァイオリンがもてる限りの技巧を披露するにはピッタリの作品となっています。かつてサラサーテがブラームスのコンチェルトの素晴らしさを認めながらも「アダージョでオーボエが全曲で唯一の旋律を聴衆に聴かしているときにヴァイオリンを手にしてぼんやりと立っているほど、私が無趣味だと思うかね?」と語ったのとは対照的です。
通常であれば、オケによる露払いの後に登場する独奏楽器が、ここでは冒頭から登場します。おまけにその登場の仕方が、クラシック音楽ファンでなくとも知っているというあの有名なメロディをひっさげて登場し、その後もほとんど休みなしと言うぐらいに出ずっぱりで独奏ヴァイオリンの魅力をふりまき続けるのですから、ソリストとしては十分に満足できる作品となっています。。

しかし、これだけでは、当時たくさん作られた凡百のヴィルツォーゾ協奏曲と変わるところがありません。
この作品の素晴らしいのは、その様な技巧を十分に誇示しながら、決して内容が空疎な音楽になっていないことです。これぞロマン派と喝采をおくりたくなるような「匂い立つような香り」はその様なヴィルツォーゾ協奏曲からはついぞ聞くことのできないものでした。また、全体の構成も、技巧の限りを尽くす第1楽章、叙情的で甘いメロディが支配する第2楽章、そしてファンファーレによって目覚めたように活発な音楽が展開される第3楽章というように非常に分かりやすくできています。

確かに、ベートーベンやブラームスの作品と比べればいささか見劣りはするかもしれませんが、内容と技巧のバランスを勘案すればもっと高く評価されていい作品だと思います。


ザルツブルグ音楽祭とセル

セルはクリーブランドのシェフに就任してからは、活動の大部分を手兵の育成に力を集中しています。この辺りは昨今の指揮者とは大違いです。
最近は、「○○交響楽団の音楽監督に就任」と言っても、実際にそのオケと関わる時間は限られたものです。とにかく一つのオケに長期間束縛されるよりは、売れっ子指揮者として、世界中を飛び回って客演でギャラを稼ぐ方を選択するのが一般的なようです。こんな状態では、オケと指揮者が緊密な結びつきを作り上げていくことは不可能ではないかと思ってしまいます。
あまり、昔はよかった、みたいな物言いにはなりたくないのですが、アメリカだけをざっと思い返してみただけでも、トスカニーニ&NBC交響楽団、クーセヴィツキー&ボストン交響楽団、オーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団、ライナー&シカゴ交響楽団等々、他には代えがたい魅力を持った結びつきをあげることができます。
はてさて、現在のオケと指揮者を思い浮かべて、このようなオンリーワンの魅力を持ったコンビを思い浮かべることができるでしょうか?

とは言っても、彼らも決して手兵のオケだけを指揮していたのではありません。それはセルの場合も同様で、クリーブランド以外にもそれなりの結びつきを持ったオケがありました。

セルの場合は、クリーブランド以外ではニューヨークフィルとの関係がもっとも緊密で、1943年から亡くなる1970年までコンスタントに指揮を続けています。正確に数えたわけではありませんが、総数は100回を超えると思われます。
ヨーロッパのオケではコンセルトヘボウとの結びつきが有名で、フィリップスにまとまった録音を残しています。
そして、もう一つ忘れてならないのが、ザルツブルグ音楽祭です。
セルはこの音楽祭に1949年に初登場して、師であるリヒャルト・シュトラウスの「バラの騎士」を指揮しています。その後は、数回の不参加はあるものの、亡くなる前年の1969年まで密接な結びつきを維持しています。

この音楽祭では、1967年だけは手兵のクリーブランドを引き連れて参加しているのですが、それ以外は全てヨーロッパのオケを指揮していることがセルファンにとってはたまらない魅力になっています。
ウィーン・フィル・ベルリン・フィル・シュターツカペレ・ドレスデン・チェコ・フィル・フランス国立放送管弦楽団、そしてコンセルトヘボウという面々を相手に演奏を行っています。
さらに、この音楽祭は地元の放送局がきちんとした形で録音を行っているので、音質面でもクオリティが高く、いわゆる怪しげな「海賊盤」とは一線を画す魅力を持っていることも指摘しておかなければなりません。

ただ、正規に録音した放送局が、正規にリースしているので、なかなかパブリックドメインにならないというのが、私のようなサイトにとってはいささか「困った」ことです。(^^;
2003年の法改定で、隣接権の起算点が「録音」から「発売」に変更されたために、今後半世紀近くザルツブルグ音楽祭の録音がパブリックドメインになることはありません。
しかし、何が原因かは分かりませんが、1957年の録音だけは50年が経過されても正規にリリースされることがなかったためにパブリックドメインとなり、ヒストリカル音源として世に出ました。

Wikipediaの「ザルツブルク音楽祭とセル」の項目を見てみると、1957年の演奏記録は以下のよう記述されています。

リーバーマン:「女の学校」(ドイツ語版初演)
ベルリン・フィル:モーツァルト/交響曲第29番、ピアノ協奏曲第25番(レオン・フライシャー)、交響曲第40番

リーバーマンのオペラはオケはウィーンフィルで、8月17日に演奏されています。この録音はORFEOより1996年にリリースされているので、隣接権、著作権ともに消滅していません。
ベルリンフィルを振ったオール・モーツァルトのプログラムは8月3日の演奏です。この録音がなぜか2008年になるまでに正規にリリースされなかったので日本の法律ではパブリックドメインとなってしまいました。
ところが、この年は、もう一回セルは指揮をしているのです。それが、8月9日の演奏会で、プログラムは以下の通りです。

ドビュッシー:『海』
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ナタン・ミルシテイン(ヴァイオリン)
ベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』

オケはベルリンフィルです。 
実はこの演奏会はベイヌムが指揮をする予定だったのですが、急病による突然のキャンセルで、セルがピンチヒッターとして指揮台にあがったようなのです。
この年は帝王カラヤンが音楽祭の芸術監督に就任して、ウィーンフィル以外のオケを初めて招いた年でした。その大切なスタートの年に突然穴が開いたわけですから、カラヤンとしても焦ったことでしょうが、そのピンチを救ったのがセルだったというのは記憶にとどめておいてもいいでしょう。

セルはカラヤンにとって唯一頭の上がらない指揮者でした。もちろん、カラヤンはセルのことを深く尊敬していて、彼の前に出ると緊張してまともにものも言えなかったそうです。信じがたい話ですが、1970年にセルとカラヤンが大阪で出会った時も、カラヤンは全く頭が上がらないのを見て驚いたという話が今も伝わっています。
おそらく、その様な関係だったからこそ、快くセルもピンチヒッターを引き受けたのでしょう。

この1957年の録音で一番の注目はモーツァルトの29番でしょう。この若きモーツァルトを代表する素敵な交響曲を、セルはなぜかクリーブランドとは録音していません。つまり、セル&クリーブランドでは聞くことのできない作品ですから、その価値は大きいと言えます。ただし、それ以外の作品に関しては、決して悪い演奏とは思いませんが、クリーブランドとのスタジオ録音と比べてみるといささか物足りなさは感じてしまいます。
また、録音もいささか物足りないです。ザルツブルグ音楽祭の録音は一般的にはモノラル録音ながらもかなり良好なものが多いのですが、この年の録音はなぜか2〜3KHzあたりからダラ下がりです。結果として、少しばかり寝ぼけ気味の音になっているのが残念です。

その意味では、ザルツブルグ音楽祭におけるセルの活動を振り返る資料的価値と割り切った方がいいかもしれません。

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