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メイエル(Marcelle Meyer)|モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
(P)メイエル モーリス・エウィット指揮 モーリス・エウィット管弦楽団 1953年録音
Mozart:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466 「第1楽章」
Mozart:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466 「第2楽章」
Mozart:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466 「第3楽章」
こににも一つの断層が口を開けています。

この前作である第19番のコンチェルトと比べると、この両者の間には「断層」とよぶしかないほどの距離を感じます。ところがこの両者は、創作時期においてわずか2ヶ月ほどしか隔たっていません。
モーツァルトにとってピアノ協奏曲は貴重な商売道具でした。
特にザルツブルグの大司教との確執からウィーンに飛び出してからは、お金持ちを相手にした「予約演奏会」は貴重な財源でした。当時の音楽会は何よりも個人の名人芸を楽しむものでしたから、オペラのアリアやピアノコンチェルトこそが花形であり、かつての神童モーツァルトのピアノ演奏は最大の売り物でした。
1781年にザルツブルグを飛び出したモーツァルトはピアノ教師として生計を維持しながら、続く82年から演奏家として活発な演奏会をこなしていきます。そして演奏会のたびに目玉となる新曲のコンチェルトを作曲しました。
それが、ケッヘル番号で言うと、K413〜K459に至る9曲のコンチェルトです。それらは、当時の聴衆の好みを反映したもので、明るく、口当たりのよい作品ですが、今日では「深みに欠ける」と評されるものです。
ところが、このK466のニ短調のコンチェルトは、そういう一連の作品とは全く様相を異にしています。
弦のシンコペーションにのって低声部が重々しく歌い出すオープニングは、まさにあの暗鬱なオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の世界を連想させます。そこには愛想の良い微笑みも、口当たりのよいメロディもありません。
それは、ピアノ協奏曲というジャンルが、ピアノニストの名人芸を披露するだけの「なぐさみ」ものから、作曲家の全人格を表現する「芸術作品」へと飛躍した瞬間でした。
それ以後にモーツァルトが生み出さしたコンチェルトは、どれもが素晴らしい第1楽章と、歌心に満ちあふれた第2楽章を持つ作品ばかりであり、その流れはベートーベンへと受け継がれて、それ以後のコンサートプログラムの中核をなすジャンルとして確立されていきます。
しかし、モーツァルトはあまりにも時代を飛び越えすぎたようで、その様な作品を当時の聴衆は受け入れることができなかったようです。このような「重すぎる」ピアノコンチェルトは奇異な音楽としかうつらず、予約演奏会の聴衆は激減し、1788年には、ヴァン・シュヴィーテン男爵ただ一人が予約に応じてくれるという凋落ぶりでした。
早く生まれすぎたものの悲劇がここにも顔を覗かせています。
エレガントなモーツァルト
これは実に面白く。興味深い録音です。
まずはメイエルのピアノ。知っている人は知っているが、大部分の人にとっては全く忘れ去られたピアニストです。おそらくは、同時代にハスキルやリリー・クラウスというような「突出」した存在があったために、その陰に隠れてしまったのでしょう。
しかし、メイエルにはハスキルやクラウスにはない「美質」があります。そのクリアで冴え冴えとした響きは、クラウスの方に近いのでしょうが、クラウスの真骨頂が力強さにあるのに対して、メイエルのピアノは上品で都会的なエレガンスに溢れています。
その意味では、20番のニ短調コンチェルトの方はいささか灰汁がなさ過ぎで物足りなく感じるかもしれませんが、23番の方は彼女の美質と曲想がベストマッチングで実に素晴らしいです。アインシュタインが「イ長調は多彩の調性であり、教会の多彩なステンドグラスの透明さの調性である。」と言ったように、まさにメイエルの美質はこのような作品においてこそ最大限に発揮されます。
そして、忘れてならないのは、このメイエルをサポートしているモーリス・エウィットの存在です。いまや、モーリス・エウィットと聞いてピンと来る方はよほどのマニアです。
そうです、モーリス・エウィットとは、あの伝説のカルテット、カペー弦楽四重奏団のセカンドヴァイオリンをつとめていた人物なのです。
昨今のカルテットは、4人の奏者の力量が拮抗していて、その4人が緊密なアンサンブルで作品を構築するというのが一般的です。しかし、古い時代のカルテットはファーストヴァイオリンが親分であり、後の3人はその親分を盛り上げる脇役に徹するというのが基本的なスタイルでした。全体のアンサンブルがある程度破綻しても、ファーストヴァイオリンが思う存分に歌いあげるというのが基本でした。
しかし、カペー弦楽四重奏団だけはその当時としては異質で、セカンドヴァイオリンをつとめていたモーリス・エウィットはファーストヴァイオリンのリュシアン・カペーに対抗しうるだけの力量を持っていました。ですから、この二人が作り上げる緊密なアンサンブルとやりとりは、その時代におけるカルテットの水準を大きく上回るものであり、それ故にカペー弦楽四重奏団が今もって高く評価されるゆえんでもありました。
カペー弦楽四重奏団はカペーの死によって1928年に活動を終えるのですが、1971年まで長生きし、多彩な活動を展開したようです。とりわけ、戦後はエウィット管弦楽団なるオケを編成して精力的に指揮活動を行いました。ところが、何があったのは分かりませんが1955年以降はパッタリと音楽活動を止めてしまい、そのためにその存在はほとんど忘れ去られてしまいました。
このメイエルをサポートした録音も、流石はカペー弦楽四重奏の一員だっただけのエレガンスに溢れた演奏を展開しています。本当にメイエルとの相性もバッチリで、この時代のフランス音楽界のレベルの高さを証明しています。
エウィットは結構レパートリーも広くて、録音も数多く行っていたようです。もしかしたら、彼の業績もパブリックドメインとなることによって忘却の淵から蘇るかもしれません。
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