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ベイヌム(Eduard van Beinum)|マーラー:大地の歌
マーラー:大地の歌
ベイヌム指揮 (T)エルンスト・ヘフリガー (Ms)ナン・メリマン ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1956年12月3日~8日録音
Mahler:Das Lied von der Erde [1.Das Trinklied vom Jammer der Erde]
Mahler:Das Lied von der Erde [2.Der Einsame im Herbst]
Mahler:Das Lied von der Erde [3.Von der Jugend]
Mahler:Das Lied von der Erde [4.Von der Schonheit]
Mahler:Das Lied von der Erde [5.Der Trunkene im Fruhling]
Mahler:Das Lied von der Erde [6.Der Abschied]
生は暗く、死も亦暗し!
この作品にまつわる「9番のジンクス」に関してはいろんな方が語っていますし、ユング君も別のところでふれていますからあえてここでは取り上げません。
それよりも、始めてこの作品を聴いた方は「これは果たして交響曲なのだろうか?」という疑問をもたれると思います。どう聴いたってこれはオーケストラ伴奏付きの歌曲集のように聞こえる方もおられると思いますし、それは決して誤りではないと思います。
交響曲の起源はおそらくバッハの息子たちにまで遡ることができるのでしょうが、とりあえずはハイドンが橋頭堡を築き、モーツァルトが育て上げ、最終的にベートーベンが完成させた管弦楽の形式だと言っていいと思います。そして、それ以降の音楽家たちは縦への掘り下げが行き着くところまで行ってしまったためでしょうか、今度は横への広がりを模索していきます。
声楽の導入は言うまでもなく、ソナタ形式に変わる新たな方法論が模索されたり、響きの充実を求めて管弦楽がどんどん肥大化していったりします。マーラーの前作である第8番においてはその肥大化は頂点に達しますし、方法論においてもこの大地の歌によって行き着くところまで行ったと言えます。
つまり、交響曲という形式が多様化と肥大化の果てに明確なフレームを失ってしまって、作曲家が「これは交響曲だ」と言えば、何でも交響曲になってしまうような時代に突入したと言えます。しかし、それは交響曲という形式の終焉を意味しました。
もちろん、マーラー以降も数多くの交響曲は創作されましたが、しかしそれらはハイドン、モーツァルト、ベートーベンと受け継がれてきたクラシック音楽の玉座をしめる音楽形式としての交響曲ではなく、どこか傍流の匂いを漂わせます。ユング君は、クラシック音楽の玉座としての交響曲はマーラーのこの作品と続く第9番によって終焉したと思うのですが、いかがなものでしょうか。
なお、大地の歌の楽章構成は以下の通りです。奇数楽章はテノール、偶数楽章はアルトが歌うようになっています。
- 大地の悠久を歌う酒の歌(Das Trinklied vom Jammer der Erde)
- 秋に寂しきもの(Der Einsame im Herbst)
- 青春について(Von der Jugend)
- 美について(Von der Schoenheit)
- 春に酔えるもの(Der Trunkene im Fruehling)
- 告別(Der Abschied)
原詩は唐の詩人、李白、孟浩然、王維、銭起のもので、それをドイツ語訳したハンス・ベートゲの「シナの笛」がベースになってます。この作品を貫くトーンは冒頭の李白の詩においても何度も繰り返される「生は暗く、死も亦暗し!」です。
現代的な演奏
コンセルトヘボウ管弦楽団とマーラーといえば、メンゲルベルグ以来の長くて深い関係があります。楽曲の理解に関しては、マーラーは弟子であるワルターよりもメンゲルベルグの方を評価していましたし、演奏においても「自分よりもうまい」と言わしめたほどでした。ですから、1939年にライブ録音されたマーラーの4番はマーラーの演奏史を振り返る上で一つの画期ともいえる高みを示していました。
冒頭のワンフレーズを聴いただけで・・・ああ!メンゲルベルグ!!と感嘆のため息がもれますし、最初から最後まで徹底的に入念な表情をつけることで彼が差し出してくれるマーラーの世界にどっぷりと首までつかることができます。
60年代にはいるまでほとんどマーラーをプログラムに組み込まなかったウィーンフィルやベルリンフィルと違って、コンセルトヘボウにはそのようなDNAが組み込まれているのです。
ですから、メンゲルベルグの跡を継いだベイヌムがマーラーを取り上げるのは何の不思議もない話です。しかし、音楽の質は全く違います。メンゲルベルグの有名なライブ録音と、このベイヌムによるスタジオ録音の間には「戦争」という大きな溝が横たわっているとはいえ、年数にしてみるとわずか15年ほどしか隔たっていません。しかし、音楽の質はまるで世紀を隔てているかのような錯覚に陥ります。
内部の見通しの良さはメンゲルベルグの演奏とは別世界です。
また、細かい表情づけはできる限り控えめにすることで、この上もなくすっきりとしたマーラー像を提示してくれます。
そういう意味では、今聞いてみてもそれほど不自然さは感じない、現代的な演奏に仕上がっています。
それにしても、わずか15年を隔てるだけで、ここまで音楽の世界は変わってしまうものなんだと、驚きとともに複雑な感情がわき上がってきます。ここには、半世紀以上もコンセルトヘボウに君臨したメンゲルベルグの影響はきれいに洗い流されてしまっています。
悪い演奏ではないのですから、その美質だけを味わえばいいのでしょうが、どうしても思いは時の流れの残酷さに向かってしまいます。そして、メンゲルベルグみたいな音楽は戦後のヨーロッパからは消えてなくなってしまったことを思い知らされる演奏になっているのです。
なお、同じ組み合わせの4番の録音(51年録音)の時にマーガレット・リッチーの歌唱にけちをつけたのですが、ここでもやはり「ナン・メリマン」なるメゾ・ソプラノの歌唱がどうにもしっくりきません。そして、しっくりこない最大の原因がマーガレット・リッチーの時と同じで、その声質です。あのときは、ベイヌムがなぜにこのソプラノを選んだのかは全く持って不可解ですと述べたのですが、こうなると、これがベイヌムの好みなんだと思わざるを得ません。
ヘフリガーの生真面目な歌い回しはベイヌムの音楽作りの方向性にはピッタリ合っていると思うのですが、それとは随分雰囲気の違うしまりのない声質をどうして好んだのか、実に持って不思議です。
しかし、このあたりは個人の好みも左右するでしょうから、私とは全く違う思いを抱く人もいることでしょう。
ただし、オケの響きは実に持って素晴らしいですね。
50年代中庸に、マーラーをこういう響きで演奏したというのは、ちょっとした奇蹟のような気がします。
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