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ギーゼキング(Walter Gieseking)|ドビュッシー:映像第2集
ドビュッシー:映像第2集
ギーゼキング 1953年8月12〜16日録音
Debussy:映像第2集「葉ずえを渡る鐘 (Cloches a` travers les feuilles)」
Debussy:映像第2集「荒れた寺にかかる月 (Et la lune descend sur le tample qui fut)」
Debussy:映像第2集「金色の魚 (Poissons d'or)」
苦手な作品
正直に申し上げると、こういうドビュッシーの作品がどうにも苦手なのです。しかし、専門家の間ではこういう作品こそが「印象派」と呼ばれる彼の作風が最もよく発揮されたものとして評価されるのです。
タイトルの映像というのは、ピアノ作品では2集、管弦楽によるものが1集作られています。それ以外にも破棄されたピアノ音楽の作品が存在したらしく、全部で4集からなっていたようです。
この「映像」というのは、彼の目に映ったものを音楽的に写し取ったものなのですが、その仕方はいささか屈折していたようです。つまり、自分が目にした風景(映像)をそのまま音譜に写し取るのではなく、その目にした映像を自分の中にもともと存在する様々な思念によってもう一度再構成しなおしてから音符に移し替えるというものなのです。
つまり、二人の人間がいてそれぞれが同じ映像を見ていたとしても、お互いにその「映像」が「どの様に見えているのか」は知るよしもありません。ましてや、相手も自分と同じものが見えているはずだと思うことは「独善」以外の何ものでもありません。
しかし、ドビュッシーはその「見えている」ものを音楽的に表現し、それを他者に伝えようとしたのです。ですから、例えば「水に映る影」という映像は、水に映った影の正確な描写ではなくて、あくまでもドビュッシーが見た「水に映る影」として表現されているのです。ですから、きっとドビュッシーにとって自明なことはユング君にとっては自明ではないのでしょう。
ドビュッシーに見えている「映像」はますます茫漠として、輪郭線は果てしなくぼやけていきます。ピアノが醸し出す和声はますます稀薄になり実態を失っていくかのようです。そして、その様にして構成した「映像」に対してドビュッシーは「「和声という化学における最も新しい発見」として大変な満足を感じていたようです。
「 この3つの曲は,全体にうまくまとまっていると思います。自惚れからでなく,ピアノ音楽の歴史の中でこれらは(シュヴィヤールの言うように)シューマンの左にか,ショパンの右にか−どちらなりとお気に召すままですが〜席を占めることになるだろうと確信しています。」と言う言葉は彼の満々たる自信を表しています。
しかし、ユング君はどうしてもこの世界についけいけません、・・・正直に申し上げると・・・。しかし、「王様は裸だ!」と叫ぶ勇気もありません。つまらぬ理性が「王様は裸ではない」と主張するからです。
どうやら死ぬまで彼とは波長があわないようです。
映像 第一集 Première Série
1.水の反映 reflets dans l'eau
2.ラモーを讃えて hommage à Rameau
3.動き mouvement
映像 第二集 Deuxième Série
1.葉末をわたる鐘の音 cloches à travers les feuilles
2.かくて月は廃寺に落つ et la lune descend sur le temple qui fut
3.金色の魚 poissons d'or
レパートリーの広さ
ギーゼキングという人は本当にレパートリーの広い人でした。モーツァルトのオーソリティのように言われ、ベートーベン演奏でも数々の業績を残しながら、フランス近代の音楽に対しても高い適応能力を示したというのは信じがたい話です。
どちらかと言えば、ガツーンと言うごつい響きを主体とした独墺系の音楽と、軽いふわふわとした響きを主体としたフランス近代の音楽では南極と北極ほども隔たっています。
例えば、コルトーはショパンだけでなくフランス近代の音楽にすぐれた業績を残していますが、彼のベートーベンというのは想像できません。同じように、バックハウスのドビュッシーというのも、もしあれば聞いてみたいとは思いますが、これまたちょっと想像できません。ところが、ギーゼキングはその両者において高い評価を残しているのです。
おそらく、この高い適応は、ギーゼキングは「師」というものを必要としなかったからでしょう。彼は、何でも自分だけで出来た人でした。
5歳の時に自分の力で読み書きが出来ることを「発見」した彼は、一度も学校と言うところに通いませんでした。おまけに、人並み外れた記憶力を持っていたギーゼキングは一度見た楽譜は死ぬまで忘れなかったと言います。そして、覚えた楽譜をピアノで再現することは彼にとっては何の困難もなかったのです。
彼は、自らの興味のままに面白いと思える音楽を片っ端から自分のレパートリーにしていったのではないでしょうか。
ただし、最初に覚えたときに間違って覚えた箇所は死ぬまでなおらなかったそうですから、天才と努力型、どちらがいいのかは難しいですね。
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